【Q&A】着床不全~藤本先生

あおさん(44歳)

体外受精の治療をしています!
受精卵は今のとこはグレードの良い初期胚と凍結胚盤胞を移植しましたが着床しません!
hcgの数値も一桁でした!どうしたら着床率が上がり妊娠まで辿りつけるのでしょうか?

藤本先生に聞いてきました

さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生

日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
妊娠できるかどうか?に一番大きく影響するのは女性の年齢です。
不妊治療を行う際には様々な検査を行います。
その中で修正や改善が可能な原因がみつかることもあります。
妊娠の邪魔な場所に子宮筋腫やポリープがあれば手術で除去することで改善できます。
また、妊娠にマイナスなホルモンが高い場合には薬で下げたりすることもできます。
一方で年齢に関してはその土俵で勝負するしかありません。
若返りの薬がないからです。日本のARTデータを見るとわかりますが、年齢が高くなるほど妊娠率が下がり、流産率が上がるのが分かります。
日本産婦人科学会が出している体外受精の成績データ(2020年度)では、44歳の総移植を分母とした妊娠率が約13%なのに対して、総治療を分母とした妊娠率は約5%と半分以下になっています。
これの意味するところは何なのか?これは治療をしていても全員が移植までたどり着けないためにでてくる数字になります。
例えば、10人が治療をしていました。
卵を育てて、採卵して移植ができた人が4人(残念ながら移植までたどり着けなかった人が6人)、妊娠した人が2人、流産した人が1人だとすると、総移植を分母とした妊娠率だと2/4になるので50%になります。
総治療を分母とした妊娠率は2/10になるので20%になります。
そして総治療を分母とした生産率(赤ちゃんを抱っこできるところまでいけた人数で、流産した人は除外した人数)は1/10で10%になります。
44歳の年齢のところを見てみると、1回の移植あたりの妊娠率は約13%です。1回の治療あたりの妊娠率は約5%になり、
最終的に赤ちゃんを抱っこするところまでたどり着けた人(44歳の50%の流産率をくぐりぬけて出産まで到達できた人)は1回の治療あたりの確率(灰色の線グラフ)では約2%になります。
数字はなかなか厳しい数字ですが、魔法のサプリ(そんなサプリはないのですが、、、)を飲んでこの数字を二倍にしたりはできません。
だから、1回でも多く胚移植をすること、1回よりも3回胚移植をしていく。
これが大事になってきます。
グレードについてですが、まず初めにお話しすると、“グレードは必ずしも胚の質を表すものではない”ということです。
胚のグレードはあくまでも胚の見た目の評価になります。
胚のグレードは世界的に最も使用されているのは、Gardner分類になります。施設によっては独自の胚の評価基準を設けている施設もあります。

この話は以前に質問された方にも書いた内容になります。
例えば、人間に例えると、すごく真面目そうな見た目なのに裏で悪いことをしている。
もちろん真面目そうな見た目でまじめな人もいます。
この見た目に相当するのが胚のグレードです。
もし胚のグレードが質を表すなら、見た目の同じ胚(例えば胚盤胞4AA)が二つあれば、妊娠の確率も同じはずですよね?
でも1個は25歳の胚、1個は40歳の胚であれば見た目は同じでも妊娠の確率は大きく異なります。
このことからも、胚のグレードは必ずしも胚の質を反映しているわけではないというのが分かります。
しかし、研究などで大きなグループのデータで見ると、やはりグレードの良い胚の方が妊娠率は高くなります。
もちろん、グレードの良い胚を戻すと期待しちゃいますよね。
僕もそうなんですが、あくまでもグレードは見た目の評価だということを踏まえるといいでしょう。

きちんとしたクリニックで、きちんと評価されて凍結基準を満たした胚であれば、あまりグレードにはこだわらずにどんどん胚移植を行っていくとよいと思います。

最後に大豆イソフラボンですが、女性ホルモンに構造が似ているので、女性ホルモン作用を期待して更年期症状の緩和や、血流改善効果を期待する報告も一部にありますが、明確に不妊治療に効果があるという根拠はありません。

44歳と言う年齢だと、なかなか排卵誘発しても多くの卵の発育を期待できなくなってくるのが一般的ですが、あおさんは胚盤胞も初期分割期胚も確保して移植できているということなので、これからも胚移植を1回でも多く行うとよいと思います。

不妊治療はよく出口の見えないトンネルと言われたりしますが、人生においては不妊治療に限らず出口の見えるトンネルはなかなかありません。
出口が見えなくても、出口を目指し続ける気持ちを持ち続けられるように、くじけない心、自分の気持ちをコントロールするスキルを身につけていくこともとても重要になると思います。
陰ながら、あおさんの成功を祈っています。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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