40代の治療の選択と 心構えについて教えて
30代と40代の不妊治療では、治療内容やスピードに大きな違いがあるといい ます。
ステップアップの目安、排卵誘発法の選択、治療に取り組むための心構 えなど、なかむらレディースクリニックの中村先生にお話を伺いました。
ドクターアドバイス
年齢と治療にリミット がある現実と向き合い 早めに体外受精を選択 することも必要です。
40代の妊娠率、 出産率とステップアップ のタイミング
当院で体外受精をうけておられ る患者様の平均年齢は 40 ・ 2 歳で高 齢化が顕著になっています。
30 代と40 代では妊娠率が大きく異なり、 40 代でも 40 歳と 43 歳では妊娠率に明 らかな差があります。
その理由とし て、加齢による卵子の質の低下、卵 子の残り数が少なくなることで起 こる卵巣機能の低下が挙げられま す。
一般的には 30 歳から緩やかに妊 娠率は低下し、 35 歳からは一年ごと に妊娠率が低下します。
40 歳からは さらに急速に妊娠率が低下します。
また、妊娠が成立しても 35 歳からは 流産率が上昇し、 40 代ではさらに加速していきます。
つまり、 40 歳になると妊娠率が急 速に低下し、また、せっかく妊娠し ても流産率が上昇しますので、赤 ちゃんが生まれる確率(出産率)はさらに低下してきます。
当院での胚 移植 1 回あたりの出産率は、 30 歳前 半で 32 ・ 9 %、 30 代後半で 23 %、 40 歳で 16 %、 43 歳で 9.1 %です。
40 歳と43 歳でも明らかな差が出ています。
40 代では、それこそ数カ月で出産率 が低下するので、ステップアップを 急いでいく必要があります。
そこでステップアップの目安に ついてお話しします。
タイミング療 法からスタートされるのであれば、 次の治療にステップアップする目 安となるタイミング療法の回数は4 回です。
超音波検査とホルモン検 査を組み合わせてきちんとタイミ ングをとると、タイミング療法で妊 娠された方の 80 %以上が 4 回まで で妊娠されているからです。
その次のステップとして人工授精が考えられますが、 40 代であれば 注意が必要です。
人工授精は子宮内 に濃縮した精子を注入する治療で、 受精の場である卵管の端にまでに 到達する精子が少ないと考えられ る方に適した治療法です。
つまり、ヒューナーテストが陰性で子宮の 中に精子が侵入しにくい方や精子 が少しだけ少ない方には有効な方 法です。
逆にいいますと特に原因の ない 40 代の方では、タイミング療法 と人工授精では、妊娠率が大きくは 変わらないことになります。
ヒュー ナーテストや精液検査に異常がな い場合は人工授精をとばして直接 体外受精を選択する方が妊娠への 近道といえるでしょう。
一人ひとりで異なる 排卵誘発法の 見きわめ方とは?
体外受精に伴う排卵誘発法には、 大きく2つの方法があります。
お 薬を全く使わない、あるいはクロ ミッドⓇなどの飲み薬と最低限の排 卵誘発剤の注射を用いる「自然周 期法」と、排卵誘発剤を 10 日程度 連続で使用する「刺激周期法」で す。
当院では、AMHやFSHの値を参考にしながら、できるだけ 自然に近く体にやさしい自然周期 法を中心に行っています。
40 代で は刺激周期法のように強い刺激を 行っても卵巣が思うように反応せ ず、採卵できる卵子がそれほど増 えないという傾向があります。
つまり、自然周期法と刺激周期法 で採卵できる卵子の数があまり変 わらない場合も多いのです。
当院の 自然周期法では、主にクロミッドⓇ を用いていますが、ホルモンの状態 によっては、飲み薬を変えています。
例えば、卵巣機能が低下し、FS Hが上昇している場合は、クロミッ ドⓇだけでは反応性が低下します。
プレマリンというエストロゲンの お薬を併用し、FSHの値を調整し て、卵巣の反応性を高めて誘発を行 います。
プレマリンを用いる目安は FSHが 20mIU/ml 以上の場合です。
また、FSHが上昇している場合で、 AMHが 0.5ng /ml 以下の場合は、卵 巣の中の卵子の残り数が極端に少な くなっており、数カ月で閉経してし まう可能性もあります。
その場合は、ある程度採卵を優先して行い、受精 卵を複数個凍結保存しておく方がよ いでしょう。
閉経してもホルモンを 補充すれば、胚移植は可能です。
また、採卵できても、変性卵の割 合が多い場合やクロミッドⓇで結果 が出ないなど卵の質の低下が考えら れる場合はフェマーラⓇなどのアロ マターゼ阻害剤に変更する場合もあ ります。
卵胞内のホルモン環境が変 わるため、採卵した卵の質が向上す る可能性があります。
外見の若さや 加齢対策は妊娠力に 影響するの?
必ずしも外見の若さや気持ちと卵 巣機能や卵子の加齢は一致しませ ん。
もちろん個人差がありますが、 やはりどの方も 40 代になると卵子の質や排卵誘発剤に対する反応性が下 がり、妊娠率も低下します。
そんななかで結果が出ず、治療が うまくいかないと感じて「体質改善 をしてから体外受精を受けます」と いう方もいらっしゃいます。
40 代 では体質改善の効果にも限りがあり ますし、その間に卵子や卵巣の加齢 は加速度的に進行するので、体質改 善のために治療を遅らせることはデ メリットの方がはるかに大きくなり ます。
患者様によっては妊娠したい 前向きな気持ちを否定されたように 感じるかもしれませんが、当院では ありのままの事実をお伝えしたいと 思っています。
私は日本、米国それぞれの抗加齢 医学会認定医を取得しています。
そ の上で断言できるのですが、卵子の 加齢を食い止める方法はありませ ん。
生活習慣を変えても、どんなお 薬を使ったとしても卵子の加齢は時 間の経過とともに進行します。
ただ治療を急いでいくことが妊娠への一 番の近道です。
治療自体は思うにまかせないこと も多く、体外受精をしたから必ず妊 娠できるとは限らないのですが、自 然の妊娠率と体外受精の妊娠率を比 較すれば体外受精の方がはるかに高 いのは明らかです。
なるべく回り道 せずに早めに、根気よく体外受精を 受けられることをお勧めします。
最初に書きましたが、 43 歳での胚 移植あたりの出産率は約 9 %です。
低い数字に思えますが、回数を重ね ることで累積の妊娠率は高まりま す。
理論上は、 5 回胚移植すれば、50 %近い出産率になります。
諦めて しまう必要はありません。
40 代になってくると治療のタイム リミットが近づいてきますし、数カ 月ごとに妊娠力は低下します。
是 非ともこの事実を知ってもらって 最善を尽くて欲しいと思っています。
きっと道はひらけてくれるはずです。