着床の妨げになる 子宮と卵管の状態とは
妊 娠 に 深 く か か わ る 子 宮 と 卵 管 。着 床 を 妨 げ る 原 因 に は ど の よ う な も の が あ る の で し ょ う か 。
な か む ら レ デ ィ ー スクリニックの中村嘉宏先生にくわしく教えていただき ました。
ドクターアドバイス
・着床しやすい条件は子宮内腔に変形がなく、 子宮内膜の厚さが8㎜以上であること
・超音波検査で見つけにくい小さな 子宮内膜ポリープは子宮鏡検査が有効です
・卵管留水腫の治療には、身体的負担が 少ない「水腫吸引術」を採用しています
着床を妨げる「子宮」の 原因と治療法について
着床しやすい子宮の条件は、子宮内腔に変形がなく、着床期の子宮内膜の厚さが8㎜以上であることです。
卵管内の受精卵が細胞分裂を繰り返しながら子宮に入り、子宮内膜に根を張ることを着床といいます。
しかし、子宮になんらかのトラブルがあると、受精卵は着床できず、妊娠に至ることができません。
子宮内腔に変形を起こす主な原因には、
(1)子宮筋腫
( 2 )子宮腺筋症
( 3 )子宮の形態異常
(4)子宮内膜ポリープなどがあります。
(1)子宮筋腫は、
子宮の筋肉に発生する良性の腫瘍で、 40 歳前後の女性の 40 % にみられるとされています。
自覚症状がない場合も多いのですが、筋腫の場所、大きさによって月経量が増えることがあります。
子宮の内腔に変形をきたせば、着床障害の原因になります。
子宮筋腫は、筋腫が発生する場所によって「粘膜下筋腫」「漿膜下筋腫」「筋層内筋腫」に分かれます。
なかでも、「粘膜下筋腫」は、内膜に接しているため筋腫が小さくても妊娠の妨げになります。
このような場合は、子宮口から挿入するレゼクトスコープ(子宮鏡下手術)で筋腫の切除を行います。
開腹に比べて負担の少ない手術です。
(2)子宮腺筋症は
子宮内膜症と同じような性質をもった病変です。
本来は、子宮の内側に増殖する子宮内膜が、なんらかの理由で子宮の筋層で増殖し月経期に出血します。
そのため、子宮の筋肉が腫れ上がり、激しい月経痛を起こします。
内腔の変形をきたした場合は不妊の原因にもなります。
そのような場合、投薬によるホルモン治療や腹腔鏡補助下での手術療法を行います。
(3)子宮の形態異常には、
子宮の上部が角のように分かれている「双角子宮」、子宮が2つに分かれている「重複子宮」、子宮の中が2つに仕切られている「中隔子宮」などがあります。
それほどめずらしいものではありません。
いずれも子宮鏡検査や子宮卵管造影検査で見つかることがあります。
双角子宮、重複子宮については、自然妊娠することもあるため、経過観察することも多いのですが、一方で中隔子宮は、子宮腔内が2つに仕切られることで子宮内膜への血流が低下する場合があり、着床を妨げる、あるいは流産の原因になります。
そのため、レゼクトスコープで、子宮の形を整える子宮形成術を行うことがあります。
(4)子宮内膜ポリープは、
子宮内膜の一部がいぼ状に増殖した良性の腫瘍です。
自覚症状としては月経期前後の不正出血がありますが症状のないことがほとんどです。
ポリープの大きさは豆粒大のものから親指大のものまであり、大きなポリープは超音波検査でわかります。
その場合、レゼクトスコープでの治療が必要です。
一方、小さなポリープは超音波検査で見つかりにくいことがあります。
たとえば、形態良好胚を移植しても着床しにくい場合は、子宮鏡検査をするとよいでしょう。
小さいポリープが見つかる場合があります。
小さなものは内膜掻 そうは 爬術で簡単に切除することができます。
次に子宮の内膜が薄くなる原因として、流産の処置手術を繰り返している場合や排卵誘発剤の副作用などがあります。
子宮筋腫・子宮腺筋症によって内膜への血流が悪くなり、子宮の内膜が薄くなる症例もあります。
治療法としては、ホルモン剤を使って子宮内膜の増殖をうながします。
たとえば、ホルモン補充周期に胚移植する場合は、エストロゲンの量を増やしたり、投与期間を長くしたりします。
さらに、当院では子宮の血流を 改善する薬であるペントキシフィリンⓇ、ビタミンE、漢方薬(当帰芍薬散など)を処方しています。
着床を妨げる「卵管」の 異常と治療法について
卵管は、卵子を吸い上げ、卵子と精子が出会う受精の場であり、また、波打つように動くことで受精卵を子宮内に送り込む役目をしている左右1対の器官です。
非常に繊細な管のため、内部で閉塞や癒着が起こることで受精卵が通過できなくなったり、卵巣から飛び出した卵子を取り込めなくなることで不妊の原因になります。
卵管障害は女性の不妊原因の30 〜 50 %を占めるといわれ、その原因に は、卵管内部の幅が狭くなる「卵管狭窄」、卵管が完全に詰まってしまう「卵管閉塞」などがあります。
また卵管が開通していても、癒着により、卵管運動が低下し、卵子が取り込めなかったりする「卵管癒着」もあります。これらは、クラミジアや淋菌など性感染症による卵管の炎症や子宮内膜症によって起こります。
卵管狭窄、卵管閉塞は、子宮卵管造影検 査や通気・通水検査で調べることができます。
卵管が狭窄したり詰まっている場合はFTカテーテルという細いカテーテルを用いて卵管を通す「卵管鏡下卵管形成術」を行います。日帰りでできる体への負担が少ない手術です。
また、卵管采が閉塞すると、卵管内に炎症性の液体が溜まる「卵管留水腫」になる場合があります。
卵管がソーセージ状に膨れあがり、卵子を吸い上げることができなくなります。
体外受精が必要ですが、胚移植をする時に、この炎症性の液体が子宮内に流れ込むことで着床障害の原因になります。
腹腔鏡手術で卵管を切除する方法もありますが、当院では、胚移植の直前に超音波下に細い針で卵管に溜まっている炎症性の液体を吸い出す「水腫吸引術」を採用しています。
採卵と同じ手法で行うため、腹腔鏡手術に比べると体への負担がかかりにくく、簡単にできるといったメリットがあります。