セントマザー★田中温先生の不妊治療講座
第2 回テーマ 一般不妊治療
これから不妊治療を始める方や、治療を開始したばかりの方に、不妊治療の流れや基礎知識をわかりやすく紹介する「田中先生の不妊治療講座」。
連載第2回は、一般不妊治療のタイミング法と人工授精について教えていただきます。
不妊治療の第一歩は より自然に近い形で
不妊治療は、年齢や結婚歴、月経歴、精 子の状態、治療期間など、各夫婦の背景に よって異なり、選択できるバリエーション は数多くあります。
まず、夫婦の不妊の原 因を知り、状況に応じた治療を決めるため に初診を行います。
男性は精液検査で精子の数や運動性、形 態を。
女性は子宮卵管造影検査で卵管が 詰まっていないか、子宮鏡検査で子宮内 部の状態などを調べます。
基本的な検査で 不妊の原因となる明らかな要素がなく、女 性の年齢が若く、結婚してそれほど年数が経っていない、また規則正しい月経周期で あり、夫婦生活をきちんととれるのであれ ば、最も自然に近い形で妊娠を望めるタイ ミング法からチャレンジしてください。
すべての不妊治療は 排卵日を中心に考える
排卵した卵子が正常な能力を維持できる のは、排卵後およそ8~ 12 時間で、その時 間帯に合わせて夫婦生活を行う方法がタイ ミング法です。
自然周期に行う方法と、排 卵誘発した周期に行う方法の2通りがあり、 通常は自然周期をおすすめしますが、排卵 障害がある場合は排卵誘発剤を使用します。
誘発剤を使えば卵子の数が増え、排卵する 力が強くなりますが、多胎のリスクが上が ることを忘れてはいけません。
排卵する可 能性のある胞状卵胞の数と大きさを調べ、 誘発剤の使用不使用、使い方を病院でしっ かりとコントロールしてもらいましょう。
排卵を予測、確認する方法は次の3つ。
1つは基礎体温の測定です。
一般的に、 高温期に入る前の基礎体温が急に下がった 日や、高温期に入った日が排卵日と知られ ています。
しかし、排卵の兆候が現れてい ても実際は排卵できていない黄体化未破裂卵胞(LUF)の可能性もあり、そもそも 基礎体温が二相性でなければ判断できない というデメリットがあります。
2つ目は、尿中L H (黄体形成ホルモン)の測定です。
排卵時は子宮内膜を厚くする L H が急激に分泌されるため、LHの反応 が最も強く出る日を検査キットで探します。
計測は1日3回、起床時と午後、就寝前。 最も強く陽性反応が出た時間からおよそ 24 時間後に排卵するため、排卵日よりも確実 な排卵時間を知ることができます。
検査キッ トは病院も市販も使用するものは同じです。
ただし、尿が濃縮しているか薄いかで微妙 に差があるので、いつ行うのかを正確に教 えてもらうためにも最初は医師の指示下で 検査することをおすすめします。
3つ目は、経腟超音波検査。
卵胞は1日 で約2㎜ずつ大きくなり、直径 20 ㎜前後に なると排卵することから、逆算して排卵日 を予測します。
病院でしかできない検査で すが、超音波画像で目視するため、最も正 確といえます。
選別した精子の質を上げ、 子宮に直接注入する AIHは、セックスレス 夫婦の福音にも
排卵日に夫婦生活を行うタイミング法に 対して、人工授精(AI H )は排卵日に採 取した精子を子宮腔内に注入する方法で す。
凍結精子を使う施設もありますが、精 子の運動率に明らかな差が出ますから、原 則として新鮮な精子を用いることをおすす めします。
適応の条件は男性が原因であ る場合が多く、精子の数や動きが正常値以 下で、その程度が軽度から中等度。
重度で あれば最初から体外受精や顕微授精を選択 し、中等度であればタイミング法をせずに 人工授精から始める、というケースもあり ます。
人工授精のメリットは、良好な精子のみ を選別して子宮腔に注入できるというこ と。
精液の中には前立腺液や精嚢腺液な ど精子以外のものもたくさん含まれていま す。
それを分離する過程で精子の濃度が 濃くなり、運動性を高めることもできま す。
人工授精の流れは、排卵日に夫婦で来 院し、約1時間で処置を終えて帰宅しても らい、翌日に排卵の確認をします。痛みが まったくなく、安静にする必要もありませ ん。
もう1つのメリットは、夫婦生活が難しい、いわゆるセックスレスの夫婦の一助と なることです。
このケースでは特に男性側 が「愛情があるのにできない」「自信を喪 失している」場合が多く、カウンセリング を受けることでプレッシャーを感じ、さら に落ち込んでしまうという負のスパイラル に陥りかねません。
採取した精子を「こん なに元気だ」と見せてあげることができ、 自信を取り戻すことで再び夫婦生活ができ るようになるケースも多々あります。
自然妊娠が望める 腹腔鏡検査を知って
一つの治療から次の治療にステップアッ プするのは、基本的に半年単位。
これは統 計が示していて、たとえばタイミング法は 6回までに9割が妊娠しますが、残り1割 はその後もなかなか妊娠しません。
人工授 精でも6回までに妊娠できなければ、続け ても結果はほとんど出ません。
一般的な流れでは、半年間タイミング法 を試しても結果が出なければ、次のステッ プアップは人工授精となりますが、私とし ては人工授精をする前に、腹腔鏡検査を受 けていただきたい。
なぜなら、初診で明ら かな原因が見つからなかったとしても、腹 腔鏡検査によって、卵管機能のことでわか ることがあるからです。
排卵した卵子は卵管采から卵管に取り込 まれて精子と出会い、子宮に到達し、着床 という流れで妊娠します。
卵管の中が通っ ていれば正常に進むようなイメージをもた れるでしょうが、では卵管の外側に問題が あればそうはいきません。
実際の例を挙げ れば、卵管の外側に癒着があって、卵子を 取り込めない患者さんはとても多く、卵管の内側が通っていても決して100%大丈 夫とは限りません。
しかし、患者さんの多 くはそのことを知らないのが現状です。
腹腔鏡検査はお腹の3カ所に穴を開けて 行い、施術は 10 ~ 15 分程度。
1泊入院のみ で保険も適用されます。癒着は簡単に剥が せますし、傷口は1カ所につき約5㎜と小 さく、1年後にはきれいになくなります。
お腹に炭酸ガスを充満させてガスを入れ替 え、必ず洗浄もします。
それだけでも効果 があり、タイミング法で妊娠できなかった 人の半数は、腹腔鏡検査後に自然妊娠して いるのです。
入院施設と手術施設が必須な ので、不妊専門でも可能な施設は限られま すが、腹腔鏡検査は不妊治療において重要 なポイントといっても過言ではありません。
命の意味を 真摯に受け止めてほしい
世の中の流れが、なるべく早く、若いう ちに子どもをつくりたいという意識が強く なっていることに対しては評価する一方 で、結果を急ぐために自然妊娠を望める可 能性がある夫婦であっても安易に高度生殖 医療を選択するケースが増えているのも現 実です。
さらに、自宅用の安価な簡易人工 授精キットがインターネット通販などで簡 単に購入できるという危惧すべき事態も。
結婚すれば、治療すれば、キットを使え ば、簡単に“人間 ”ができるわけではあり ません。
とるべきスタンスはあくまでもよ り自然に近い形で妊娠を目指すというこ と。
ですから、まず力を入れていただきた いのはタイミング法ですし、次の選択肢と して人工授精という意識で治療に向き合っ ていただきたいですね。