指示通りにきちんと 貼り薬を続けたのに 排卵したのはなぜ?
北村 誠司 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に 従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による 子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困 難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。本院(荻窪病院) 泌尿器科の男性不妊専門医の協力により、TESE-ICSIや逆行性 射精など、男性不妊の治療体制も整えている。昨年は手首を傷める など故障が多かったという北村先生。大好きなスキーに行った時も学 生時代と変わらずにガンガン滑るなど、何事も頑張りすぎる熱血な性 格から来ているのかも。気持ちはいつも少年です。
てんさん(34歳)からの相談 Q.採卵できた卵子3個のうち、1個を体外受精、2つを顕微授精に。結果、体外 受精した1個は4BAの胚盤胞に育ちましたが、残りの2個は残念な結果になっ てしまいました。胚移植に向けてエストラーナⓇの貼り薬を指示通り続けました が、「プロゲステロンが高値で、排卵済みを表している」とのことで移植はキャン セルに。思いも寄らないことでしたが、先生によると「そんなこともありますよ」 とのことで、プロギノーバⓇという飲み薬が追加され、次周期再チャレンジする ことになりました。そこで質問ですが、「プロゲステロンの値が高かったら排卵済 み」というのは絶対なのでしょうか。「エコーではそのように見えない」と先生が 言っていたのが気になります。また、エストラーナⓇを貼っていたにもかかわら ず排卵したのは、AMH値が低いことと関係していますか?
貼り薬と排卵
貼り薬をきちんと使っていたのに排卵してしまったのはなぜですか。
北村先生 ホルモン補充周期での移植に向けて、エストラーナⓇを貼って補充していたということですね。
確かにエストラーナⓇを貼っていると排卵しにくくはなりますが、それは完全ではなく、全体のうち数パーセントは排卵してしまうことがあります。
もともとこれは排卵を抑える薬ではありません。
排卵に関しては「間接的に抑えられることが多いですよ」という程度なんですね。
ですから今回残念ながら、てんさんは排卵してしまった。
先生もそれは想定の範囲内だったのではないでしょうか。
また、数値は記載されていませんが、AMH(抗ミュラー管ホルモン)が低値とのこと。
排卵したのはそのせいではないかとご心配されていますが、AMHは胞状卵胞の数を示す目安とされているもので、今回の排卵との関係性はまったくありません。
ホルモン値で排卵確認
プロゲステロンの値が高かったら、排卵済みと考えていいのでしょうか。
北村先生 プロゲステロン、いわゆる黄体ホルモンですね。
このホルモンは排卵しないと分泌されませんから、ほぼ絶対に近いと考えていいと思います。
担当の先生は「エコーでは排卵したように見えない」とおっしゃられたようですが、やはりエコーでの診断は肉眼によるものですから、所見に乏しかったということかもしれません。
診る人によって所見に多少差が出る場合もありますので、排卵したかどうかはホルモンの数値で判断したほうが確実なのではないかと思います。
点鼻薬の活用
排卵を確実に抑える方法はありますか?
北村先生 100%確実とはいえませんが、GnRHアゴニストの点鼻薬を使えばほぼ排卵を抑えることができるのではないでしょうか。
当院では初回は点鼻薬の使用を患者さんにおすすめしています。
ホルモン補充もいろいろ
現在はプロギノーバⓇというお薬を飲んで、次周期での移植を待っているようですが、生理がいつもより早くきてしまい、戸惑われているようです。
北村先生 プロギノーバⓇはエストロゲン製剤です。
それよりもプロゲステロンのお薬を使わないときちんと生理がこないのでは。
エストロゲンだとてんさんのように生理が早くきてしまったり、なかなかこなかったりと次の周期が読めない場合があるんですね。
当院では、移植キャンセルの場合はピルなどを使ってしっかり出血を起こすようにしています。
そうすれば次の周期ですぐに移植にトライできますから。
今は移植待ちということですから、まずはその結果が出てから次の策を考えられてもいいのでは。
ホルモンの補充方法もいろいろあります。
初めての体外受精ということで不安や疑問がたくさんあるかもしれませんが、わからない部分は納得するまで先生にお話を伺って、前向きに治療に臨んでいただきたいですね。