渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学部附属病院産婦人科、大津 赤十字病院、済生会茨木病院などを経て、1971 年から不妊治療を 行っている父親の病院を継承。不妊治療から分娩まで手掛け、365 日24 時間の診療体制を取る。先日、同クリニックに訪れた生殖医 療を志す若手のドクターたちを案内されたという渡辺先生。「一見、頼 りなさげにも見えたのですが、よく話してみると、実はそれぞれにしっか りとした信念を持っておられて頼もしく感じました」。

Y染色体欠失との診断。

子どもの将来を思い、 治療を決めかねています

はなさん(31歳)からの相談 Q. 夫29歳、男性不妊がわかり、重度乏精子症でいろいろ検査したところ、Y染色体の 欠失がわかりました。先生の話だとTESE(精巣内精子採取術)で精子は見つかるだ ろうと言われ、顕微授精をすすめられました。しかしY染色体の欠失は生まれた男の 子に遺伝すると言われ、夫と同じで、まだ可能性がある段階なら良いが、無精子で 子がつくれない体だったら子どもにつらい思いをさせてしまうと思い、顕微授精に踏 み切れません。すごくつらく、どうすれば良いのかわかりません。ネットで見るとY染 色体の欠失はがんや病気になりやすいとのことなのですが、本当なのでしょうか。

Y染色体欠失について

ご主人が重度の乏精子症でY染色体欠失と診断されたとのこと。主治医からTESEをすすめられたということです。
渡辺先生 まずY染色体欠失について少し説明させていただくと、Y染色体上には、AZF(無精子症因子)と呼ばれる領域があります。
1996年、ヴォークトらは無精子症、乏精子症の患者に集中して欠失のある3つの領域を見つけてこれをAZFa、AZFb、AZFcとしました。
3つの領域は精子形成過程順に並んでいて、AZFaの欠失はセルトリ細胞遺残症候群、AZFbは精子成熟障害、AZFcは精子形成障害となります。
ご主人の場合、Y染色体欠失があるという ことですが、重度乏精子症と診断されているので、射出精液中に精子が認められていることになります。
おそらくAZFc領域の欠失ではないでしょうか。
AZFa、AZFbの欠失であれば、TESEを行っても精子が回収できる可能性はほぼないのですが、AZFcの場合、無精子症でも精子が回収できる可能性は約 75 %ありますので、主治医はTES Eをすすめられたのだと思います。

子供への遺伝

生まれてくる子が男児の場合、やはりお子さんへの遺伝は避けられませんか?
渡辺先生 ご心配のとおり男児が生まれた場合、この欠失は受け継ぐことになります。
そして症状の程度ですが、判断できないのが現状です。
たとえばAZFcの欠失があっても精液所見が正常な場合もありますし、逆に無精子症のこともあります。
実際に無精子症や乏精子症の患者さんで、AZF領域の欠失が見られるのは約 10 ~ 15 %ほどです。
現在では 顕微鏡下で行うなどTESEの技術も年々進んでいますので、AZFcの欠失であれば、あまり悲観的に考える必要はないとは思います。
ただ将来的に男性不妊症になりやすい体質であることは理解しておいてください。

発がん性との関係

Y染色体欠失と病気や発がん性の関係についてはいかがでしょうか?
渡辺先生 男性不妊症と発がんの関連ですがいくつか報告があります。
以前から精巣腫瘍や前立腺がんなど、精巣関連の発がんリスクが高くなるという報告もありますが、逆に差はないという報告もあります。
最近では2013年にスタンフォード大学のグループが男性不妊症の患者2238名(無精子症451名)を追跡調査したところ男性不妊症全体では 1.7 倍、無精子症でなければ 1.4 倍、無 精子症では 2.9 倍の発がんリスク(精巣を含め たほかの臓器)が高くなるということでした。
これは無精子症など男性不妊症になる原因(精子形成過程の異常)が発がんと関わっていることが考えられていますが、あくまでも推測です。
男性不妊症のなかにAZF欠失の患者さんもいましたが、発がんとの関連は不明でした。
発がんリスクに関しては生活習慣や地域性など高める要因は数多く存在します。
あまり神経質にならず、定期的な検診で早期発見に努めるようおすすめいたします。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。