伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部、同大学院修了。順天堂大学医学部産婦人科 学講師、国際親善総合病院産婦人科医長を経て、1999年あいウ イメンズクリニック開院。日本生殖医学会生殖医療専門医。12月に は初のお孫さんが生まれて、50 代でおじいちゃまに。とはいえ、心身 ともにまだまだお若く、趣味のSL撮影で重いカメラ機材を担いで山道 を登るようになって、だいぶ足腰が鍛えられたとか。
卵胞は育つのに 未熟卵が多いなど なかなか結果が出ません
ゆっぴちさん(37歳)からの相談 Q.体外受精1回目はショート法で17個採卵。8個が未熟卵、9個が受精し、そのう ち2個が胚盤胞になって凍結融解胚移植をしましたが、陰性でした。2回目は低 刺激で4個採卵。2個は多精子受精で、残り2個は胚盤胞まで育ち、新鮮胚移植 するも陰性という結果に。不妊の原因は不明ですが、PCOSぎみなのが背景に あること、卵胞が育つ割には採卵率が悪く、未熟卵が多いのが苦戦している理由 かと思っています。また、胚盤胞にまで育つのですが、一度も着床しないために 着床障害も指摘されています。低~中刺激での採卵が向いているのかと思いま すが、今後、どのような治療をしていけばいいですか? もしこのまま低~中刺 激を続けていったら1個か2個は胚盤胞まで育つと予想されますが、凍結してから 移植したほうがいいのでしょうか。
体外受精ならPCOSでも
やはりPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)ぎみであるということが、悪い影響を及ぼしているのでしょうか。
伊藤先生 ホルモンの詳しい数値などが不明なので本当にPCOSなのかどうかはわかりませんが、確かに採れた卵子数の割には受精率などが良くないようですね。
PCOSの方だと採卵数は多くても、ゆっぴちさんのように未熟卵が多かったり、胚盤胞まで育たないというケースが結構見られます。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値は4・ 3ということ。
AMHの数値は残りの卵胞数を示しているといわれているので、PCOSの場合、高値になることがあります。
35 歳の 平均値はだいたい3 ng/ml ですから、それから見ると少し高いかな、という数値。
ご本人もおっしゃっているようにPCOSぎみという状態なのかもしれません。
数の割に良い卵子を確保できる率が低いと いう印象や、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になりやすいので卵巣刺激法の工夫は必要ですが、体外受精ならPCOSぎみでも妊娠への大きな障害はないと思います。
多精子授精なら顕微授精
治療について何か変えるべき点はありますか?
伊藤先生 一つ気になるのは、2回目の体外受精で多精子受精が2個あったということです。
ご主人の精子の状態があまり良くなく、精子数が1000万個ない時も多いとか。
できれば次回は、顕微授精をされてみてはいかがでしょうか。
良い卵子を確保できても、受精がうまくいかなければ残念なので、確実に正常な受精ができる方法をとったほうがロスがないと思います。
卵巣刺激法については、当院の場合、 37 歳 だったら高刺激のロング法も選択できると思いますが、1回目のショート法で卵胞がたくさん育ちすぎてしまったので、卵巣への負担も考えると、やはりクロミッドⓇ周期を選ばれたほうがいいかと思います。
凍結胚移植は有利?
胚盤胞まで育ったら、新鮮胚移植より凍結融解胚を戻したほうがいいのでしょうか。
伊藤先生 卵巣刺激でHMGやアゴニストなどの薬を使った後はエストラジオールの値が過剰に高くなったり、黄体機能が悪い状態になっています。
そのような時に胚を戻すより、凍結してホルモン状態を整えてから移植したほうが、当然、妊娠率も高くなるのではないかと考えています。
当院のデータだと凍結胚盤胞移植の妊娠率は 40〜 50 %くらい。30 代だったら 50 %を超えますね。
凍結でし か戻さないという施設も増えているようで、2011年の体外受精での妊娠例の約7割が、凍結胚移植だったという報告もあります。
着床障害のご指摘もあったようですが、受 精法を変える、またはホルモン補充周期など戻す時期を変えてみる、培養液を少し変えてみる、アシストハッチングなど受精を助ける補助的な方法をプラスしてみるなど、まだ工夫できる部分はあると思うので、諦めず治療に臨んでいただきたいですね。