AMHの値について

大島 隆史 先生 自治医科大学卒業。1982年、新潟大学医学部産科婦人科学教室 入局。産婦人科医として3年間研修後、県内の地域病院の1人医 長として4年間勤務。1992年、新潟大学医学部において医学博士 号を授与される。新潟県立がんセンター新潟病院、新潟県立中央病 院勤務を経て、1999年、大島クリニックを開設、院長に就任。時間 ができると奥さまと”思い出旅行”へ出かけているという大島先 生。夏は結婚当初に二人で訪れた青森県の八甲田山と奥入瀬渓流 へ。6時間歩いて疲れ果てたそうですが、とても楽しく懐かしかっ たそうです。

29歳でAMHの値が2.32。

標準より低いので、妊娠は 厳しいのではないかと心配です。

卵巣の予備能を示すといわれているホルモン値「AMH」。

20代でも値が低ければ妊娠の機会は減ってしまうのか、 大島クリニックの大島隆史先生に伺いました。

ぶたこさん(29歳)からの相談 Q.次の生理から初めて体外受精する予定です。治療前にAM Hの検査を受けたら2.32ng/mlでした。検査前からネット で調べると、私の年齢で2.3ng/mlという値はかなり低い と認識していましたが、医師からは「ごくごく標準値で、ど の誘発方法でも構わない。10個程度採卵が期待できるだろ う」といわれました。そのため、アンタゴニスト法での誘発 を予定しています。AMHと卵の質、妊娠率には相関がない と理解していますが、やはり数値は低いのではないか、早発 閉経の心配はないのか、と不安で仕方ありません。29歳で 2.3ng/mlというのは本当に標準値なのでしょうか?

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

子宮卵管造影検査、AMHやそのほかのホルモン検査、精液検査など。

不妊の原因と なる病名

結婚して丸5年になるが、不妊原因は不明

現在の 治療方針

不妊治療を始めたばかりで、次の生理から体外受精を開始。
採卵のための誘発はアンタゴニスト法を選択する予定。

精子 データ

精子運動率が32%でやや低め

AMHが表すもの

29歳でAMH(抗ミュラー管ホルモン)が 2・32 ng/ml というのは、やはり年齢の割に低すぎる値なのでしょうか。
大島先生 29 歳の平均的な数値を調べると、 3・6ng/ml 。ぶたこさんの2・ 32ng/ml とい う値はだいたい 34 歳くらいの平均値になりま す。
そこから考えると、確かにやや低めではあるのかなと思いますが、それはあくまでも統計的な“平均値”であり、 “正常値”ということではありません。
たとえば肝機能などは1万人程度調べたら、 ある程度の曲線が描けるのですが、AMHはそういうものが描けないくらい個人差が激しい。
それは不妊症の方だけではなく、妊娠された方も不妊症でない方も同様に差があるようなんですね。
ですから、低いからといって、すぐに異常とは考えられないと思います。
以前、ヨーロッパの学会で、「AMHが1・77 ng/ml を下回ると、体外受精でどんなに卵 巣刺激を強くしても、最多でも卵子は4個程度しか採れない」というレポートが発表されたことがありました。
AMH値は残りの卵胞数と比例しているといわれるので、値が低いと確かに採れる卵子の数は少なくなってくるかもしれません。

早発閉経の可能性

このまま値がどんどん下がり続けて、ぶたこさんが心配されているように早発閉経になってしまうということはありますか。
大島先生 ぶたこさんは生理は順調とのこと。早発閉経は生理が不順で、FSHの数値が 15 を超えてきたら危険性が高くなってきます。
年齢が高い方はAMHの値も0・1ng/ml など、低くなってきて参考になるとは思いますが、閉経が近いかどうかはどちらかというとFSHの値が重要になってくるんですね。
18 を超えたらホルモン的には閉経状態ですから、それはFSHを計測していけばわかると思います。
ぶたこさんの場合、FSH値が正常であればすぐに閉経してしまうとは考えにくく、その点は心配されなくていいと思います。

低AMHは卵がない??

では、担当医の先生がおっしゃるように体外受精をしても問題はなく、卵子もきちんと採れると考えていいのですか?
大島先生 はい。
AMHは卵巣の能力をはかる目安の一つであり、目安としてもぶたこさんの数値は大きな問題はありません。
妊娠がうまくいくかどうかは、卵巣の予備能も重要だと思いますが、やはり一番大きな要素は女性の年齢になってきます。
実際、ぶたこさんと同じ 29 歳で、ほかの施 設で採卵して2個しか採れなかったという方がいらして、AMHを計測したら0ng/ml でした。
それでも当院で行った一度の治療で妊娠されましたし、 32 歳で1・0ng/ml という患 者さんも人工授精1回で結果が出ました。
0や1と聞くと卵はほとんど残っていない のではないか、と思う方もいるかもしれませんが、まったくないというわけではないんですね。
計測できないようなギリギリの数値でも、採卵してみると、確かに数は少ないのですがきちんと卵子が採れる方もいらっしゃいます。
ぶたこさんも理解されているように、AM Hは卵の質とは関係していないので、 20 代で まだ年齢的にお若い方なら、1個、2個でも卵子が採れれば妊娠の可能性は十分あると思います。

AMHに合わせた進捗

AMHは一度計測するだけでいいのでしょうか。他のホルモンのように時期によって数値が変動するということはありますか。
大島先生 AMHに関してはほとんど変動がありません。
周期などに左右されることはほぼないといわれています。
年齢を重ねるごとに低下はしていきますが、「1年程度ではあまり数値に変化はない」と報告している論文もあります。
だからこそ、自分の卵巣年齢が決定づけら れたようで測るのが怖いという方もいるようですが、計測しておけば治療の内容やスピド感を知ることができるので、その点では大きなメリットがあると思います。
前述したように妊娠を左右する一番大きな 要素は年齢ですが、AMH値が低めの方はお若いからといって、のんびり構えすぎるのも良くないと思います。
できれば集中的に治療に臨んで、なるべく早く結果を出されたほうがいいでしょう。
当院でも平均値より極端に低い方には「残りの卵の数が少ないようですから、早めに妊娠率の高い方法で治療を進めたほうがいいですね」とお話ししています。
ぶたこさんは近く体外受精に臨み、誘発はアンタゴニスト法を予定しているということですが。
大島先生 この数値なら、まだ一般不妊治療でもよいレベルだと思いますが、ご希望があれば体外受精でもいいかと思います。
誘発については、AMH値が0・5ng/ml 以下ならショート法などもおすすめですが、ぶたこさんならアンタゴニスト法で問題ないのでは。
担当医の先生がおっしゃるように 10 個程度は 採卵できると思うので、治療モードに入られた今の機会を逃さず、このまま進めていただきたいですね。

ジネコ注目のスタッフ!

培養室主任 大野ちなみさん  胚を移植する時の患者様への説明は胚培養士が 行っています。私たち培養士は戻す胚の状態を毎 日観察していますが、患者さんは頻繁に情報に触 れることはできません。ですからご説明する際は、 どのような状態なのか具体的にわかりやすく、専 門用語も使わなくて済むように工夫しています。  資料を見ていただきながらお話しするのです が、その時、患者様がパッと見るだけで頭に入っ てくるようなものを準備し、普段胚を見る機会が 少ない看護師や受付スタッフに事前に見てもら い、「もっと図があったほうがいい」とか「文章 の間を空けたほうがいい」など、患者様が見てわ かりづらい部分がないかチェックしたうえで作成 しています。それでも不明な点がありましたら、 遠慮なさらず、ドクターや院内スタッフにお尋ね ください
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