奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメ リカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopause にて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰 国後、IVF 大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、 2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦 人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。子どもの頃か ら動物が好きで、手乗り文鳥や伝書鳩など、少し珍しい動物を飼うの が好きだったという先生。「人間もそうですが、動物とも“出会い”が 大切なんですよ」。アメリカ留学中はイグアナがペットだったこともある のだとか。
いちこさん(29歳)からの相談 Q.通院歴1年になるところです。ホルモンでの問題はありましたが薬を服用して 安定しております。去年11月に通院を開始し、子宮卵管造影検査では右側の 卵管が通りにくいそうです。5月から1カ月おきくらいに人工授精をしており、 9 月に3 回目を撃沈しました。その時はクロミッドⓇとホルモン注射で排卵誘発 し、2つ育ち、大きさはともに2㎝くらい。今回は左からの排卵でした。今ま で左からの排卵が2回、右からの排卵が1回だったと思います。先生には「年 齢的にも焦ることはない。5、6回やってみてもよいのでは?」と言われており ます。とりあえず、今年は人工授精をいったんお休みして、リラックスしようと も思っておりますが、アドバイスをお願いできますでしょうか。体外受精はお金 がかかりますし、準備期間も必要なので、良い気分転換になるのかなとも考え ております。
人工授精の累積妊娠率
3回目の人工授精の後、主治医からあと数回は試してみるよう勧められましたが、体外受精へのステップアップを含めて、今後の治療に迷っておられます。
奥先生 先生がおっしゃっている5、6回というのは科学的に根拠のある数字で、累積妊娠率に基づいています。
人工授精の1回当たりの妊娠率は8〜10 %くらい。
人工授精で妊娠される方の うち、1回目で妊娠される方の確率は約4割くらいです。
だいたい3、4回行うと7〜8割、5、6回では9割以上の方が妊娠されています。
いちこさんのように 29 歳で卵巣機能に問題がないのであれば、やはり主治医の先生がおっしゃるように、人工授精は5、6回を目処にされるのが妥当かと思います。
人工授精で妊娠できない場合は、他の“妊娠できない理由”を探さなければなりませんので、次へのステップアップとして体外受精となるのです。
究極の診断方法
卵管因子が不妊の要因となっているようですが、やはり体外受精へのステップアップを急いだほうがよいのでしょうか?
奥先生 本当に卵管因子が不妊の原因かどうかは、今の時点ではわかりませんよ。
右側の卵管が通りにくいということですが、もしかするとお腹に何か炎症や癒着があり、その影響が少なからずあるのかもしれません。
また、左側の卵管が正常に機能しているかどうかも、卵管鏡や腹腔鏡で調べてみて初めて診断できることです。
体外受精へのステップアップが有効なのは、体外で受精や培養を行うことよって、ほかに隠れている不妊の原因がわかる可能性があるからです。
まず体外受精に進む最大のメリットは、1回当たりの妊娠率が人工授精の8〜 10 %から、条件がそろった胚盤胞移植なら 60 % くらいにまで飛躍的に高まること。
もう一つは不妊の原因を見極める“究極の診断方法”でもあるということです。
たとえばいちこさんの場合、本当に卵管障害による不妊なのか、今の段階ではまだはっきりとわかりませんが、体外受精を実施することにより、ピックアップ障害、受精障害、胚質障害、着床障害など、妊娠できない隠れた理由がわかってくる可能性もありますね。
理由がわかれば、それに対応する的確な治療が可能になってきます。
ステップアップのタイミング
体外受精を視野に、人工授精にあと数回トライするのもよいでしょうか?
奥先生 はい。お休みするメリットはあまりないので、人工授精の回数をあと2回などと決めて、様子を見た後にステップアップということでもいいと思います。
あとは確率の問題で、これはご本人の考え方次第です。
少しでも自然な方法でという考えであれば、あと2、3回は人工授精をされるのもいいでしょう。
できるだけ早くに結果をということであれば、先生とよく相談されてすぐにでも体外受精に進まれるのがいいと思います。