薬を使用しているのに プロゲステロン値が 下がるのは?
吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学 部産婦人科学教室入局、不妊・体 外受精チーム研究室へ。米国マイ アミ大学留学後、竹田総合病院産 婦人科部長、東北公済病院医長を 経て、吉田レディースクリニック 開設。来年早々には仙台駅前にク リニックを移転。着々と準備が進 んでいますが、リニューアル後は アロマやレーザー治療なども積極 的に取り入れて、統合医療として 不妊を改善する施設を目標に。今 からオープンが楽しみです。
目次
ドクターアドバイス
体外受精で卵巣刺激をしたり、採卵数が 少なかったりするとプロゲステロ ン(黄体ホルモン)の分泌が少な くなってしまうので、数値を診 ながら、その方に合った方法で 補充をしていくことが必要に なってきます。
プロゲストロン
女性ホルモンの一つで、「黄体ホルモン」 「P4」ともいわれます。
排卵後に卵子を 包んでいた顆粒膜細胞から分泌され、体 温を上げたり、子宮内膜を厚くするなど、 妊娠に欠かせない働きをします。
血液検 査で10ng/ml以上が好ましい。
少ない 場合は、座薬や貼り薬、経口薬、注射な どの薬を使って適正な値になるまで黄体 ホルモンの補充をしていきます。
コッカーさん(33歳)からの相談 Q.半年ほど前から初の体外受精に向けて取り組んでいて、先日、 凍結胚盤胞移植を行いました。移植前からエストラーナテー プⓇ4枚(隔日投与)、プロゲステロン腟錠1日2~3錠 を使っていましたが、移植時の血液検査でP4の値が 6.5ng/mlと低く、当日にプロゲステロン注射を打 つことに。移植から2日後に再度血液検査をしたら、 P4の値が6.1ng/mlと減少。薬を使用しているの に、ホルモン値が下がるということはあるのでしょ うか。また、今回のような場合には、妊娠継続は厳し いものと理解すべきですか? ちなみに、E2(エスト ラジオール)および子宮内膜の厚さには問題がありません。
プロゲステロンとは どんなホルモン?
プロゲステロン(黄体ホルモン)はエストロゲン(卵胞ホルモン)とともに、女性の体のリズムをコントロールしているホルモン。
生理の終わりから排卵の前にかけて分泌が多くなるエストロゲンに比べ、プロゲステロンは排卵後から分泌されます。
卵子は顆粒膜細胞に包まれているのですが、プロゲステロンは排卵後にその細胞から分泌され、卵子の着床を促すような作用があるんですね。
体温を上げ、子宮内膜をみずみずしく、ふかふかのウォーターベッドのように厚くしていく。
妊娠するためにはなくてはならないホルモンだといえます。
逆にプロゲステロンの分泌が少ないと体温が上がらず、子宮内膜もすごく薄くなってしまう場合があるんですね。
プロゲステロンがきちんと 分泌されない原因は?
不足するのは卵子を包んでいる顆粒膜細胞がうまく働いていないということが考えられます。
その原因は卵巣側の問題、もしくはプロゲステロンが分泌されるように指令を出す脳の下垂体に問題が生じている場合もあるでしょう。
また、ホルモンはきちんと出ていても、子宮内膜自体の問題、たとえば流産や中絶手術で子宮内膜がダメージを受けていると反応が悪くなってしまうことも。
このようにさまざまな要因が考えられるので、はっきり突き止めることは容易ではありません。
どこに問題があるのか、一つひとつ調べて見当をつけていくことになります。
検査するタイミングと 適正値は?
プロゲステロンの値を計測するのは、排卵してからだいたい1週間目くらいです。
中央値ということで測ります。
当院においてその時期の目標値は 15ng/ml 以上。最低でも 10ng/ml 以上は必要だと考えています。
それ以下の数値だと少ないので、黄体ホルモン補充のためのお薬を使うことに。
体質に異常がなくても、体外受精で採卵のために卵巣刺激をすると、プロゲステロンが分泌されにくくなる傾向があります。
たとえばロング法だとホルモン分泌を長く抑制して、その後HCGの注射を打って排卵させるのですが、黄体は縮んでいってしまいます。
また、クロミッドⓇなどを使う低刺激だと採卵数が少ないので、顆粒膜細胞からのホルモン分泌が低いかもしれません。
刺激の強さにかかわらず、黄体ホルモン補充が必要になってくるのではないでしょうか。
黄体ホルモンの補充は どんな方法で行っていくの?
座薬や貼り薬、経口薬、注射など、補充の方法はいろいろあり、その方に効きやすいものを選択していくことになります。
当院の場合は、まず座薬と経口薬を併用して使っていただくことが多いですね。
注射の場合は手間や負担がない割に、1週間程度と長く効き目が続きます。
コッカーさんの場合は貼り薬も座薬もなか なか効かず、注射をプラスしたということですね。
プロゲステロンの数値が 6.5ng/ml と確かに少し低いようですが、そこから減少しているとは考えにくいですね。
1~2ng/ml程度の差だったらおかしいと思いますが、 0.4ng/ml ですから、これは減少ではなく誤差の範囲と捉えてよいでしょう。
プロゲステロンの値はその時の周期によっても違いがあります。
多少低めでも、次の周期は良くなったりするので、これについてはあまり心配されることはないでしょう。
とはいえ、黄体ホルモンの補充は続けていったほうがいいと思います。
そして、なぜ数値が低いのか、原因がどこにあるのかを検索することが必要だと思いますね。
前述したようにプロゲステロンの分泌が少ない原因はいろいろ考えられます。
この方は卵子が何個採れたのか、移植前の座薬の容量はどれくらいだったのか。
それによっても変わってきます。
また、卵巣側、子宮側、ホルモンの因子はないのかなど……。
ちなみに黄体機能不全の診断基準は、
●高温期の持続が 10 日未満
●体温の差が 0.3 ℃以内
●子宮内膜の厚さが8㎜以内
●プロゲステロンの値が 10ng/ml 未満となっています。
プロゲステロンの値が 低いと心配されることは?
この値だとやはり子宮内膜が薄くなって、受精卵が着床しづらくなるということですね。
子宮内膜が薄いと血管が増えず、せっかく妊娠しても受精卵に栄養が行き渡らなくなって流れてしまう。
当院では8㎜以上の厚さになることを基準にしています。
コッカーさんは厚さには問題がないとのこと。
厚さだけではなく、黄体期の子宮内膜は磨りガラス状になっていないといけないので、そのような状態になっているかどうか。
子宮内膜にポリープや筋腫によるこぶはないかなどを調べることも大切です。
プロゲステロンの分泌が少ない原因を探りながら、このようなこともチェックし、最も良いコンディションの時に移植を設定していくことが妊娠への近道だと思います。