移植周期の生理12日目で 内膜が厚くなりすぎて出血。
何が原因なのでしょうか?
凍結胚を移植するために、ホルモン補充周期で子宮内膜を つくっている途中で出血。
原因として考えられることを とくおかレディースクリニックの徳岡晋先生にお聞きしました。
徳岡 晋 先生 防衛医科大学校卒業。同校産婦人科学講座入局。自衛隊 中央病院産婦人科勤務後、防衛医科大学校医学研究科に 入学し、学位(医学博士)取得。2005年、とくおかレディー スクリニックを開設。A型・みずがめ座。今先生が心が けている健康維持法は早寝早起きすること。「免疫を安定 させるメラトニンはがんや認知症を予防するのに大切な ホルモンで、22:00~3:00の間に脳の松果体から分 泌されます。妊娠したい人にとっても早寝早起きは大切。 12時前には寝るようにしてくださいね」
目次
ドクターアドバイス
●不正出血は黄体ホルモン補充が遅れたからという可能性が高い
●リセットするなら、エストラーナⓇとルトラールⓇを同時に使う
●受精障害を心配せず、前向きに治療を
なからむさん(31歳)からの相談 Q.体外受精で3回目の移植をしようと生理2日目からエストラー ナテープⓇ2枚を貼っていましたが、生理開始12日目で不正出 血。子宮内膜が厚くなりすぎたことによる剥離出血との診断で した。ルトラールⓇを飲んで止血しようとしていますが、3日間 出血が止まっていません。剥離出血はどのような原因が考えら れますか? テープが体質に合わないのか、ホルモンバランス の乱れなのか、何か病気なのでしょうか。また、2回目の移植 は見た目がより良い胚盤胞を移植しましたが、陰性でした。私 は着床障害なのでしょうか。小さい頃から両親が喫煙する環境 で育ってきた影響があるのでしょうか。今後転院も考えていま すが、移植何回を目安に考えればいいでしょうか。
●これまでの治療データ
検査・治療歴
抗精子抗体、精子不動化抗体は問題なし。子宮卵管造影検査、 子宮鏡検査は異常なし。タイミング6回、人工授精6回、 すべて陰性。ショート法で11個採卵し10個受精。10 分割胚を採卵周期に移植し、陰性。4分割胚1個、6分割 胚4個、胚盤胞3個を凍結保存。2回目凍結していた胚盤胞移植し、陰性。
不妊の原因と なる病名
不明
現在の 治療方針
3回目の移植に向けエストラーナテープⓇを貼っていたが、 剥離出血。テープをやめプレマリンⓇを飲み始めるが出血 量増加。プレマリンⓇをやめルトラールⓇに変更。今周期の 移植は中止に。
精子データ
特に異常なし
新鮮胚で戻す??
これまでの治療について、どのようにご覧 になられますか?
徳岡先生 なからむさんは特に不妊の原因 もなく、タイミング法、人工授精で妊娠に至 らず、体外受精に進んだという、一般的なス テップアップをしてこられています。
ショー ト法から入り、体外受精で 10 個受精し、全部 分割が進んでいるので、卵巣年齢は悪くない と思います。
これだけ受精率も分割率もいい ので、なぜ全部を胚盤胞まで持っていかず 10 分割胚をフレッシュで戻したのかは不明です ね。
一般的に新鮮胚を戻すのは、ほかに方法 がない場合です。
採卵周期の子宮内膜の環境 は着床に向かず、妊娠率は、子宮内膜を調整 したホルモン補充周期で凍結融解胚を移植す るほうが高いからです。
受精率や分割の進み 方を見ると、培養を続ければ 10 個中 6 ~ 7 個 は胚盤胞になったと思われます。
クリニック ごとの方針もあるでしょうけれど、 31 歳とい う若い方で、ここまでのデータが良ければ全 部胚盤胞まで持っていってもよかったのかな と思います。
子宮内膜をつくる
今回の移植周期での不正出血はなぜ起 こったのでしょうか。
徳岡先生 ホルモン補充周期とは、まずエストロゲンを補充し、どこかの時点で排卵後の 状態を作り出す黄体ホルモンを補充すること で子宮内膜をつくっていく方法です。
なから むさんは生理の 2 日目からエ ※ ストラーナテー プⓇを使ってエストロゲン補充をしていたと ころ、 12 日目に剥離出血をしてしまったとい うことですね。
剥離出血というのがどういう ことなのかわからないのですが、一般的には 「破綻出血」という言葉があります。
破綻出 血は、卵胞ホルモンだけで子宮内膜が途中ま で育ってきて、排卵がないため黄体ホルモン がつくられず、子宮内膜が保持できなくなり 途中ではがれてしまうことで起こります。
な からむさんが出血した原因として一番考えられるのは、思ったより早く子宮内膜が育って いってくれたので、黄体ホルモンを追加する タイミングが少し遅れてしまったために破綻 出血が起こってしまったのではないかという ことです。
しかし、通常 14 ~ 15 日目から黄体ホルモン を追加していきますので、それほど遅れてい たわけではないと思います。
12 日目で出血し たというのは少し早いと思いますね。
出血後 プレマリンⓇに変更したということですが、 これはエストラーナテープⓇより少し弱いエ ストロン(E1)製剤です。
出血したので、エストロゲンを少し弱めたけれど、それでも止 まらないのでルトラールⓇで黄体ホルモンを 補充したということになるのでしょう。
黄体ホルモン追加のタイミング
テープが体質に合わなかったのでしょうか。
徳岡先生 エストラーナテープⓇが合わない という人はまずいないでしょうし、なから むさんも 1 周期目はおそらく同じ方法でう まくいったのだと思います。
ホルモンの値 が書かれていないので断定はできませんが、 テープが合わなかったのではなく、やはり 黄体ホルモンを追加するタイミングが遅 かったのではないでしょうか。
プレマリンⓇからルトラールⓇに変更したのは、その周期 はもうやめましょうということで黄体ホル モンを加えたのだと思います。
しかし、完 全にやめるならルトラールⓇを使う時に一緒 にエストラーナテープⓇを 10 日間使い、ピル を飲んだのと同じ状態にして子宮内膜を剥 離してあげないと、しっかりリセットされ ないのではないかという心配があります。
着床障害?受精卵の問題?
前回は条件が良い胚盤胞を戻しても着床し なかったので、着床障害の心配をしていらっ しゃいます。
徳岡先生 先日の日本生殖医学会でも卵子 の染色体異常率についての報告があったので すが、 30 代で約 5 割、 40 代で 6 ~ 7 割の卵子 が染色体異常を持っているそうです。
検査は 胚が 8 分割くらいの時に 1 個の細胞を取り出 して調べるのですが、異常が見つかった胚の 残りの 7 個の細胞を調べたら、 4 個は正常で3 個は異常というものがあったそうです。
一 つの胚の中でも正常な細胞と異常な細胞が混 在しているということもたくさんあるという ことなんですね。
ですので、着床がうまくいかなかった場合も、着床障害というよりは、 まず受精卵が原因だと考えるのが自然だと 思います。
胚はあと 8 個残っているわけです から、いい子宮内膜をつくってあげればうま くいくのではないでしょうか。
幼少期の両親の喫煙の影響は何かあるの でしょうか。
徳岡先生 喫煙による影響は、卵子の予備 能の減少だといわれています。
採れた卵子 の染色体異常を増やすというデータはあり ません。
なからむさんの場合卵子はしっか り採れていますので、喫煙の影響はないと 考えていただいていいと思います。
転院のタイミング
転院をする場合、移植何回を目安に考えた らいいですか、ということですが。
徳岡先生 せっかく受精卵が凍結されてい るわけですから、少なくとも 2 回は今のと ころで移植されたほうがいいと思います。
胚盤胞のグレードがよいのだったら胚盤胞 を 2 回、 6 分割、 4 分割の方がいいと判断 した場合は、胚盤胞と分割期胚のいいもの を戻す。
それで妊娠の可能性は十分にある と思います。
もし それでうまくいけば、 残っているあとの 5 個でもう一人というこ ともあり得ると思いますよ。
気を落とさず に頑張ってほしいと思います。