流産手術後に微量の出血が。 再手術になった場合、 妊娠への影響が心配です
稽留流産の手術後に出血がある時、再手術は必要なのでしょうか。
また受けた場合、そのダメージや次の妊娠への影響は……?
とくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に伺いました。
徳岡 晋 先生 防衛医科大学校卒業。同校産婦人科学講座入局。自衛隊中央病 院産婦人科勤務後、防衛医科大学校医学研究科に入学し、学位 (医学博士)取得。2000年より 木場公園クリニックに勤務。5年 間の勤務を経て2005年に独立し、とくおかレディースクリニック を開設。A型・みずがめ座。徳岡先生もサッカーW杯に熱狂した ファンの1人。なかでもブラジル代表のネイマール選手の「プレッ シャーやストレスをうまく受け入れて、心地よい緊張感で試合に臨 みたい!」というひと言にとても感動。患者さんにも捧げたい言 葉だそうです。
目次
ドクターアドバイス
●胎盤でなくても絨毛や脱落膜が残る場合も
●まずはピルを使った治療を試してみては?
●再手術ではダメージを極力抑えるはず
moyuriさん(33歳)からの相談 Q.不妊治療の末に人工授精6回目で初めて妊娠することができたのです が、残念ながら心拍確認できず、8週で稽留流産手術を受けました。 術後1週間後の診察では異常がなく、出血もほぼ止まって安心していた のですが、術後20日目から少量の茶色い出血があったので受診したと ころ、血の塊が残っているとのことで血液検査を受けました。先生から 「もし残留物で胎盤が残っていたりしたら、再手術を受けないといけ ないかもしれない」といわれました。このようなことはよくあること? 薬などで再手術を回避できないのでしょうか。2回も続けて手術を 受けて、子宮へのダメージや次の妊娠への悪影響がないか心配です。
●これまでの治療データ
検査・治療歴
不妊治療歴2年。 不妊に関する検査はヒューナーテストは不良だったが、抗精子抗体、子宮卵管造影検査、子宮内視鏡検査は問題なし。 10ヵ月前に子宮内ポリープを切除。 人工授精6回目で初めて妊娠するが、8週で胎芽を確認でき ず、稽留流産手術を受ける。
不妊の原因と なる病名
特になし
現在の 治療方針
クロミッドⓇを使いながら人工授精を実施。 流産の再手術をするかどうかを検討中。
精子 データ
精子量3.3g、精子濃度5000万/mL、直進運動率60.2%、 奇形率30%で、特に大きな問題なし。
流産の手術後
このようなことはよくあるのでしょうか。 出血の原因はやはりまだ子宮内に残留物が あるということですか?
徳岡先生 流産の手術をした方において、 残留物が出血のような形で出てくるのはそ れほど珍しいことではありません。
ただし、 この週での流産で胎盤が残っているという のは少し考えにくいですね。
心拍が確認できなかったということは、 非常に初期の時点で成長が止まってしまっ たと思われます。
胎のうにしてもせいぜい 2~3 ㎝ 程度の大きさ。それを手術された のですから、取り除いた内容物も多くはな かったのではないでしょうか。
もし残っているとしたら、胎盤ではなく、 胎児の周りを包んでいた絨毛や母体側の脱 落膜である可能性が考えられます。
「再手術の必要もあるかもしれない」とい うことですが。
徳岡先生 このような場合、術後1週間く らいだったら様子を見ながら、子宮を収縮 させるお薬などを使って残留物を外に出す ようにしていきます。
それでも状態が良く ならないようであれば、再手術を提案する こともあるのではないかと思います。
薬を投与して対応
moyuriさんのようなケースでは、こち らのクリニックでも再手術を提案されますか?
徳岡先生 どのような状態かきちんと調べ てみないとはっきりとしたことはいえませ んが、再手術がファーストチョイスにはな らないのではないかと思います。
moyu riさんも「薬などで回避できないのでしょ うか?」とおっしゃっていますが、当院で もまずは薬での対応を考えますね。
プラノバール Ⓡ やソフィアA Ⓡ など、ピルを 10 日間くらい使用して、子宮内膜を基底膜からもう一度作って厚くしてあげる。
ピ ルの使用をやめるとそれがガサッと剥がれ るので、その時に子宮内のどこかにあった残留物も一緒に体外に出てくることがある んですね。
この方法は“化学的掻爬”と呼 ばれることもあります。
手術から時間が経っていると、固着して 残留物が剥がれにくくなっている場合もあ るので、「ピルでは出ないのではないか」と 考えていらっしゃる先生もいるかもしれま せんが、再手術を検討する前に一度試され てみてもいいのではないかと思います。
それでも出血が止まらないときは……。
徳岡先生 ピルを試して、次に生理が来ま すが、その時に出血が止まっているかどう か。
まだ同じように茶色い出血がある、また、基礎体温がなかなか下がらないというよう なことがあれば、最終的に再手術になるか と思います。
少量であっても出血がいつまでも続いて いると、次の卵胞が育ちにくくなってしま うという弊害があります。
そのまま放って おいても妊娠には良くないので、やはり再 手術という方法も視野に入れていただく必 要があるのではないでしょうか。
再手術も子宮内膜の保護を
2回も続けて掻爬手術をして子宮に悪影響 はないのでしょうか。
徳岡先生 2回目の手術は、できるだけ子宮 内膜にダメージを与えないように気を配られると思います。
残留物がある場合、超音 波で見るとどこか一部分が厚くなっている と思うんですね。
再手術では全体を掻爬す るのではなく、その一部分を処置するだけ で十分だと思います。
不妊治療をされている先生であれば、子宮内膜の重要性を十分理解されているので は。
妊娠するためにはよく卵子の質が問わ れますが、胚を移植していく時に子宮内膜 は薄いよりも厚いほうが着床率が良い、子宮内膜の状態も重要だと考えている先生も たくさんいらっしゃいます。
流産の内容物が残るというのも、そのような 考えから起こってしまうのかも。
ダメージを懸 念して子宮内膜を掻きすぎることを嫌うため、 抑えめに掻爬すると少し残ってしまう場合もあ ります。
医師からすると、どの程度掻くべきか 悩ましい問題でもありますね。
もし再手術を行ったとしても、ダメージ はゼロとはいえませんが、次の妊娠にはほ とんど影響がない範囲だと思います。
それ でも不安が消えないようでしたら、まずは ピルでの治療を試し、解消されずに再手術となった場合には、先生の説明をきちんと 受けられてみてはいかがでしょうか。
不妊 カウンセラーがいる施設であれば、そこで 不安な気持ちを相談されてみるのもいいか と思います。
再手術後、すぐに次の不妊治療をスタート できますか?
徳岡先生 1周期おいて出血が止まり、卵胞 が反応して子宮内膜が厚くなってきている ようでしたら、問題なく不妊治療を再開す ることができると思います。
今回は流産と いう残念な結果でしたが、 33 歳の方でした ら、ご本人に何も問題がなくても 10 ~ 14 % くらいの確率で流産するというデータがあ ります。
妊娠が成立したと前向きにとらえ て、気持ちを切り替えてトライしていただ きたいですね。
人工授精6回目で妊娠。
33 歳というご年 齢ですから、当院でしたらあと3回程度は 人工授精での治療をおすすめすると思いま す。
それでも結果が出ない場合は、体外受精へのステップアップを視野に入れられて もいいかと思います。