治療方法の限界と言われました

オーストラリアで 治療方法の限界と 言われました……

オーストラリアで治療の限界と言われた、きゅうさん。

海外での不妊治療とは?

ベストな治療法は?

セントマザー産婦人科医院の田中温先生に伺いました。

田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診 療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重な る研究と実験は毎日深夜にまで及び、 1985年、ついに日本 初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦 人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。2009年〜 2011年までJISARTの理事長に就任。内視鏡による検査や 治療を行うため、自ら研修に出向いて全身麻酔の技術を修得 している田中先生。「今後、良性疾患は当院でもお腹を切らず に治療ができるようになります。癒着もなく、より患者さんの体 の負担を軽減できると思いますよ」と語ってくださいました。

ドクターアドバイス

●排卵誘発の方法は画一的ではない
●外国人と日本人女性の体格の差を考慮して
●不育症の可能性を疑って検査を
きゅうさん(38歳)からの相談 Q.主人の母国で治療開始。主人の精子に問題があるため初めから顕微授精を行い、4回の 移植をしました。アンタゴニスト法でほぼ毎回20個前後を採卵し、8割程度受精します が胚盤胞になるのは3〜4個。最初は凍結胚移植、次は新鮮胚移植で5週目胎嚢確認手 前まで行きました。受精後3日目までの受精卵の成長は問題ないが、精子に問題がある ため4日目以降に成長が止まる傾向にあるとのこと。次回はドナー精子での移植を勧め られました。都会ではないため医師や病院の選択肢が少なく、次の凍結胚移植の結果次 第では日本での治療も視野に入れています。本当にドナー精子以外に方法はないのか、 ご意見をお聞かせください。

●これまでの治療データ

検査・治療歴

アンタゴニスト法により毎回20個前後を採卵。
新鮮胚→凍結胚移植→新鮮胚移植を順次行う。
治療中にバ ※ ルトリン腺膿瘍を発症したため、左側切除手術と右側切開& 抗生物質の処置。

不妊の原因 となる病名

不明

現在の 治療方針

陽性反応後のリセット周期のため次の周期まで休み、6月に凍結胚盤 胞移植予定。

精子 データ

精子量8.7mL、精子数10万/mL、正常な精子率2%、運動率25%、前 進運動率20%、非前進運動率5%

不育症の可能性

相談内容をご覧になって、この方たちの決定的な不妊の原因は何だと考えられますか?
田中先生 このご夫婦は過去に妊娠を経験しているので、不妊症だとは言いがたいです。
3回トライした顕微授精で、そのうち2回は妊娠反応が出ていますから。
しかし3回とも受精卵の成長が途中でストップしてしまう。
38 歳という年齢にしては、一度の採卵で 20 個以上採れるということですから、卵巣はかなり反応していて、受精率も高い。
凍結ができているので一般的に言えば良好な反応だと思われます。
それなのに着床しないのですから、不妊症ではなく不育症だと考えるのが自然です。3回以上の流産であれば習慣性流産といい、きゅうさんは2回以上ということで、現時点では反復性流産が疑われます。
まずは不育症のモニタリング検査を行うことが先決ではないでしょうか。
モニタリング検査の内容とは、どのようなものですか?
田中先生 抗核抗体、抗リン脂質抗体、甲状腺機能を調べる血液検査と、夫婦の染色体、子宮卵管造影などのスクリーニングテストです。
不育症を疑う異常が認められれば、代表的な治療としては、アスピリンの内服と、ヘパリンの注射が処方されます。

抗核抗体と抗リン脂質抗体

抗核抗体と抗リン脂質抗体について、もう少し詳しく教えてください。
田中先生 抗核抗体とは、細胞核内の細胞成分に対する自己免疫抗体の総称です。
本来は異物ではない自身の細胞を異物として認識し、その抗体を作ることで自らの細胞を攻撃するというものです。
抗リン脂質抗体とは、抗核抗体と同様で、自己免疫抗体によって血液の凝固が起こり、血栓症を発症する可能性を高めます。
抗リン脂質抗体症候群は習慣性流産の一因であり、これは、胎盤梗塞(胎盤の血管に生じる血栓)によって胎児へ血液が供給されなくなると考えられています。
どちらも血液検査で調べることができますから、必ず検査を受けていただきたいですね。

日豪では誘発法も違う?

妊娠反応が出ているのに途中で成長が止まってしまう理由は、ほかにもありますか?
田中先生 これはすべてオーストラリアでの治療データですよね。
相談内容を拝見した上での私見ですが、卵の数の多さに違和感を覚えます。
きゅうさんは156 cm ・ 45 kg と至って日本人的な体格ですが、現在、治療を受けているオーストラリア人と日本では、かなりの体格差があります。
従って、排卵誘発剤の量も多いと考えられ、日本で使用されている量の倍近くは使われているのではないでしょうか。
誘発剤を多く使えば卵はたくさん採れます が、それらが成熟した質の高い卵であるかどうかは疑問です。
オーストラリア人と日本人では体格が違うということを考慮して、卵の質を上げるという意味でも、排卵誘発法を慎重に検討する必要があるでしょう。

日本の凍結技術は高レベル

着床後に発症したバルトリン腺膿瘍も、流産に関連はないのですか?
田中先生 まったく関連がないと言っても過言ではないでしょう。
不妊治療という大きな流れの中では、ごく小さな疾患と捉えられますから、膿瘍の切除手術や抗生物質の服用などを行ったことが原因になることはありません。
新鮮胚移植をして凍結胚、新鮮胚と交互に行っているようです。きゅうさんは次の凍結胚移植の結果次第では日本での治療を視野に入れているそうですが……。
田中先生 それは賛成です。
ぜひ日本で、日本人女性に合った治療を受けていただきたいですね。
オーストラリアの医師は、精子に原因があると言っているようですが、顕微授精ができているのですから精子は関係ありません。
精子が原因というのはまず医学的ではないですね。
また、凍結の技術は現時点では日本が世界一のレベルを誇っています。
思い切って日本に帰って凍結することを視野に入れて検討されてはいかがでしょうか。

日本のオーダーメイドの生殖医療

JISARTのモデルがオーストラリアであることからも、不妊治療の先進国であると認識しているのですが……。
田中先生 欧米諸国など他の先進国とも関係が深いですし、保険適応も早くから対応されています。
さらに、R・ガードナー博士など不妊治療の飛躍的進歩に貢献された研究者を輩出していることからも、生殖医療に関して先進国であることには違いありません。
しかし、海外での治療ではよくある問題な のですが、治療を進めていく上で、医師から十分な説明をされない場合が多いのです。
きゅうさんが最初から変えずにアンタゴニスト法で排卵誘発をしているように、海外では治療法も画一的な場合が多く、日本のように一人ひとりの状況から判断するというオーダーメイドの手法はあまり取られていません。
体格や体型はもちろん、月経3日目までの胞状卵胞の数、LHFSH値を調べ、きゅうさん個人に合った排卵誘発法を決定していけば、結果も違ってくるかもしれません。
精子の奇形率が高く、運動率にも問題があ るというのはデータからも確認できますが、先ほども述べたように顕微授精ができているのですから、精子の良し悪しはまったく関係ありません。
よって、ドナー精子もまったく必要がないと言えるでしょう。
今一度、治療をどこで受けるのか、また、その方向性について、ぜひともご夫婦でしっかりと話し合っていただきたいですね。
※バルトリン腺病膿: 腟近くにある分泌腺が細菌感染をおこし、膿がたまったもの

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