体外受精に進むので 卵巣の腫れや 体調不良が不安です
人工授精のときの刺激で卵巣が腫れてしまった経験から、 体外受精へのステップアップを前に、薬や注射の体への影響が心配。
宮崎レディースクリニックの宮崎和典先生に伺いました。
宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興味が きっかけとなり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同大学産 婦人科婦人科講師を経て、1992年に不妊症、不育症治療専門 クリニック、宮崎レディースクリニック開業。開業当初より泌尿 器科の専門医による男性不妊外来を開設する。A型・しし座。 より多くの患者さんの悩みに応えたいと、従来は月2回の診療 だった男性不妊外来が、毎週木曜日となりました。診療時間は 17時30 分〜19時30 分。ホームページのWEB予約システム からも予約できます。
目次
ドクターアドバイス
●AMHで自分の卵巣予備能を知る
●人工授精を5、6回試みるのも1つの方法
●1回目の顕微授精は半分を通常の体外受精に
みいさん(31歳)からの投稿 Q.3回の人工授精の刺激で、卵巣が45㎜くらいに腫れてしまいました。 腹痛、吐き気がひどく、立っているのもつらいときがあり、体調不良に 悩んでいます。今回から体外受精にステップアップする予定でしたが、 1回お休みし、次に自然に生理が来たら挑戦することになりましたが、 卵巣の状態が心配です。どのくらいで腫れは引くものなのでしょうか? また体外受精に進むと、薬や注射も増えるので心配です。医師にも OHSSになりやすいタイプだと言われました。そうならないようにす るために心がけられることはあるのでしょうか? また今の卵巣の腫 れを少しでも早く治すようにするにはどうすればよいのでしょうか?
●これまでの治療データ
検査・ 治療歴
2014年4月から、人工授精を3回。しかし、精子の運動率 が低く、直進している精子が少ないため、顕微授精でないと 難しいかもと診断されました。
不妊の原因と なる病名
精子無力症、乏精子症
現在の 治療方針
次の月経が来たら体外受精へと進む予定。
精子 データ
精子数2000、運動率20〜35%
卵巣機能の低下が気になる
OHSSになりやすいタイプと医師に診断さ れたそうですが、注意して回避することはで きますか?
宮崎先生 卵巣が腫れてしまったら、刺激を やめて、1周期待つしかないと思いますが、 一般的にOHSSは 70 ㎜を越えたあたりから、 腹水がたまってお腹が張るといった症状が出 始めます。
45 ㎜程度の腫れは日常的な不妊治療でもよくあることなので、腫れたとしても50 ㎜以上にならなければ、まず問題はないと 思います。
それより気になるのは、5年ほど前にダイ エットで2年間月経がストップしていたとい うこと。
その後、自力で排卵できるまでに回 復されたとのことですが、体重減少性無月経 といって、短期間のうちに急激に減量したり すると脳内でホルモン分泌異常が起こり、卵巣機能が止まってしまうことがあるのです。
二次性の下垂体機能低下症という症状で、経 験的にこういうタイプの人は卵巣が腫れやす い場合もあります。
見た目の体重や月経は回復しているように 見えても、卵巣予備能の指標となるAMHと いうホルモンを測定すると、もっとつぶさに わかります。
まだ検査を受けておられないよ うですので、ぜひ測定していただきたいです ね。
保険適用ではないので少し高額になりま すが、卵巣刺激で薬の量を調整する際の参考 にもするのでぜひお願いします。
治療法の選択は慎重に
ご主人の精液所見に問題があることから、人 工授精を経て、顕微授精にステップアップさ れる予定です。
宮崎先生 人工授精については3回行ったと いうことだけど、ご主人の治療をしてもう少 し運動率が良くなれば確率的にあと2、3回は 挑戦してみてもいいのかなと思います。
まだ 年齢的にはお若いので、その間に次のステッ プへ向けて、体外受精の勉強や準備をすると いうのもいいんじゃないでしょうか。
当院でも定期的に体外受精説明会を行っていますが、 その中で医師や胚培養士に質問もできますの で、卵巣刺激に関する不安な部分などについ ては、総合的に理解を深めながら直接質問す ることもできておすすめです。
顕微授精については、ご主人のほうも確か に運動率が悪いのですが、この辺の領域にな ると顕微授精にするかどうかの選択は境界線 上で難しいですね。
みいさんは卵巣が腫れや すいということですし、最初の卵巣刺激でた くさん採卵できるかもしれません。
たとえば、 もし 10 個の卵子が採れたとしたら、精子を卵 子に針で直接注入する顕微授精、もう半分は通常の精子を振りかけるだけの体外受精とい うように5個ずつ受精の方法を変えてみる、 いわゆるスプリットICSIにするのも一つ の方法でしょう。
採れた卵子の数にもよるの ですが、必ずしも顕微授精だけにこだわらな くてもいいと思います。
顕微授精を繰り返し ても原因不明で妊娠できずに、体外受精にス テップダウンして妊娠することができるよう なケースもあります。
一度、顕微授精に進ん でしまうとなかなか通常の体外受精に戻りに くいので、初回の顕微授精の際に試しておく といいかもしれません。
PMSは薬に頼っても良い
月経時にPMS(月経前症候群)でうつ状態のようになることもあってつらいとのこと。 何かいい対策はありますか?
宮崎先生 漢方薬なら桂枝茯苓丸(けいしぶ くりょうがん)がよく効きますよ。当院では 月経の1週間くらい前からよく処方していま す。
治療が長引くと難しいかもしれないけれ ど、あまり気に病むよりも、つらいときはそ ういう薬に頼ってもいいんじゃないかな。
誘発法、移植法
体外受精に進むなら、排卵誘発の方法につい ては、どのようにすればよいですか?
宮崎先生 月経周期が 40 日ということなので、 多少は排卵誘発剤を使って排卵を促進させ、30 日くらいに近づけたほうがいいとは思いま す。
それが不妊に直接関係はないと思います が、プロラクチンなど他のホルモン値も測定 したほうがいいかもしれません。
AMHの値にもよりますが、体外受精に進 んだ場合、今後の治療は卵巣刺激法をどうす るかがポイントになってくるでしょうね。
AMHの値が8を超えていたら、点鼻薬は使え ないかもしれない。ショート法にしてもロン グ法にしても、やはり刺激がきつすぎるよう だったら、クロミッド Ⓡ を少し飲んでもらって、 HMGの注射を一日置きに打つなど、できる だけ自然周期に近い方法で誘発するのがいい んじゃないかと思います。
そうすると思いが けず、意外にいい卵子が1個だけできたりし て、年齢が若いとその受精卵で妊娠できたり することも多いです。
まとめますと、自然周期をサポートする ようなマイルドな誘発方法で排卵誘発。
も し腫れてきたら、それ以上は卵巣を刺激せ ず、腫れが引くまで休ませてあげれば大丈 夫です。
受精の方法は顕微授精と体外受精 を組み合わせたスプリットICSIで。移 植の方法は子宮内膜のコンディションを整 えて凍結胚移植にするのがいいでしょう。
年齢的にもまだ時間に余裕があるので、い くらでも方法は見つかりますよ。悲観的に なる必要はありませんので、前向きな気持 ちで治療を続けてください。