ホルモン検査の結果を 説明してもらえず 今後の治療が不安です
生田 克夫 先生 名古屋市立大学医学部卒業。名古屋市立大学産科婦人科学教室助 教授、名古屋市立大学看護学部教授などの経歴を重ねたが、不妊に悩 む名古屋の方たちの役に立ちたいという思いで、教育者の立場を辞して 独立。地元・名古屋の中心部、栄に開院し、1986年から体外受精の現 場を歩いてきた経験と穏やかな人柄で、数多くの患者さんを妊娠に導く。 プライベートではかなりの愛犬家な先生。現在、ご自宅にはミニチュアシュナ ウザーの兄弟とゴールデンレトリバーの計3匹がいて、「気分転換は犬と遊 ぶこと。休日はほとんど犬の散歩と餌やりで終わってしまいます」とのこと。
カノンさん(26歳)からの相談 Q.先日、人工授精までできる病院へ転院し、ホルモン検査を行ったのですが、結果の表を渡されただけで説明は特になく、「異常なので温経湯を飲んで」とだけ言われまし た。せっかく検査をしたのにすっきりしません。 <検査結果> LH 前:31.6 30分:265.8 60分:261.5 FSH 前:5.8 30分:23.9 60分:25.4 PRL 前:15.6 30分:92.1 60分:49.6 と表に書いてあります。この結果から今後どういう治療をしていくのでしょうか? 現在はクロミッド ®5日間と温経湯を服用。月経周期は32~34日、経血量は多め。 身長158kg、体重70kgです。
しっかり検査されているか?
まず、この検査の結果からどんなことがわかりますか?
生田先生 正直なところ、この負荷テストの結果ではハッキリしたことはわかりません。
というのは、この検査を月経周期のいつ行ったのかということが疑問なんですね。
LHやFSHの検査は通常、エストラジオールの影響を受けるため、生理中に行うものなのです。
その時期にはエストラジオールが出てきていても 30pg /mL 未満くらいで影響が少ないためです。
しかし、カノンさんの場合は刺激前のLH 値がすでに 31 ・6あり、刺激した 30 分後には265・8まで上がっていますが、これは基礎値も刺激後の値も非常に高く、通常の反応とは思えません。
FSHの反応も過剰です。
この数値だけで見ると、適正な時期に検査 をしたとは思えないですね。
もしかしたら、月経が遅延したままの状態で検査を行い、排卵が近い時期に検査をしてしまったのではないでしょうか。
もし生理中に行った結果であれば、早発閉経ということも考えられますが、FSHの基礎値が低く否定的です。
多嚢胞性卵巣症候群?
温経湯を処方されたことについては?
生田先生 温経湯は、LH、FSHなどの各ホルモンの分泌バランスを整える働きがあり、不妊治療では当帰芍薬散などとともによく選択される漢方薬です。
カノンさんの場合は、LHが高いということ から多嚢胞性卵巣ぎみだと判断されたのかもしれませんが、多嚢胞性卵巣症候群の場合は月経周期が長くなることが多く、カノンさんの月経周期を見る限り、少し遅めではありますが、心配するほどではないのではと思いますね。
ただ、温経湯は月経周期や基礎体温を安定させるほかに、クロミッド ® などの排卵誘発剤の作用を高める効果もありますから、温経湯を服用することで排卵誘発に効果があれば、特に問題はないと思いますよ。
PCOSと肥満との関係
多嚢胞性卵巣症候群の人の多くは肥満と聞きます。カノンさんは身長158 cm 、体重 70 kg ですが。
生田先生 不妊治療における肥満は、BMI値が 25 以上の人をいいます。
カノンさんはBMI値が 28 で、確かに肥満ぎみといえます。
多嚢胞性卵巣症候群で肥満をともなうこと も多いのですが、多嚢胞性卵巣ではなくても、肥満により皮下脂肪で産生される女性ホルモンが多くなり、生理の中枢の働きが妨げられ、結果として典型的ではありませんが、多嚢胞性卵巣症候群に似たホルモン分泌環境になります。
この場合には、肥満が解消されるとホルモン分泌も正常化することが多くあります。
また、肥満自体が妊娠率を下げるという論文もありますから、少しダイエットされることはおすすめしたいですね。
BMIの理想値は 22 くらいですから、それ くらいになるとクロミッド ® などの排卵誘発剤の服用なしで、自然な排卵が起こり、規則的な月経周期に戻るかもしれません。
そのうえで、生理5日目頃に再検査をされると確かな数値もわかり、今後の治療方針も改めて検討できるのではないでしょうか。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):月経異常、慢性的にアンドロゲンの過剰や血液中の黄体化ホルモンが高値(卵胞刺激ホルモン上昇を伴わない)を示し、卵巣内にたくさんの小嚢胞がある。