同じ治療をくり返して妊娠できますか?

グレードの良い胚を 3回移植しても陰性です 同じ方法で続けていい?

検査では何も問題が見つからないのに、陰性が続いている場合。

今後どのように治療を進めていけばよいのか、 ファティリティクリニック東京の小田原靖先生にお聞きしました。

小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、 オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピタルに留学し、チー ム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、 スズキ病院科長を経て、1996年恵比寿に開院。AB型・ みずがめ座。「現在は、未受精卵の凍結や事実婚の体外 受精など、社会の変化が治療にダイレクトにかかわる状況 になっています。今年は、そういった社会的な要望にどう応 じていくか、技術的なことはできつつありますが、それにとも なうカウンセリングやケアをどうするかを考えていく年になり そうです」と先生。

ドクターアドバイス

卵巣刺激方法や移植周期を変えてみる
子宮内環境を調べる検査も
可能性のある方法を試していくことが大事
ぽてこさん(32歳)からの相談 Q.治療歴2年半で、病院は3軒目です。これまで、人工授精3回、体外受精では採卵1回 で20個採れて、ホルモン補充周期で3回移植しましたが、すべて陰性です。不育症の 検査をすすめられて血液検査を受けましたが、すべて異常なしでした。このまま同じ方法 で移植をし続けて、妊娠する可能性は高いのでしょうか? 現在の病院では、もう1度採卵する時も注射等で刺激をしたほうがいいし、移植もハッチングのみで他の方法は無意味という方針。私は、採卵方法や移植方法をいろいろ変え て試したいと考えています。「若いし、検査でも問題ないからすぐ妊娠できる」と言われ 続け、もうすぐ33歳になるので焦っています。治療の方向性は正しいのでしょうか。

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

不妊治療歴2年半。
子宮卵管造影検査、子宮鏡検査、血液検査は異常 なし。
AMH:9.21ng/mL。
1年半タイミング法ですべて陰性、人工授精3回陰性、体外受精は採卵1回、移植3回ですべて陰性。
残った 卵子を半分ずつ体外受精・顕微授精し、10個を胚盤胞で凍結。

不妊の原因 となる病名

不明

現在の 治療方針

グレードの良い受精卵が7個残っているので、移植し続けるしか方法が ないと言われている。

精子 データ

総精子数:94334個
精子運動率:21.19%
総運動精子数:19986個

PCOのスクリーニング

1回の採卵で 20 個採れて、体外受精・顕微授精で4AAや3ABなど状態の良い胚を 10個凍結。3回移植しましたが、陰性とのことです。
小田原先生 年齢の若い方が質のいい胚を戻した場合、1個あたりの妊娠率は一般的には35 ~ 40 %といわれています。
つまり、3回戻せば大体妊娠に至るということになります。
このケースのように、卵子の個数もある程 度採れるのに結果があまり良くないという場合は、通常はまずPCOでないかどうかを疑います。
しかし、ぽてこさんは、AMH値は多少高めですが、月経周期もよく、肥満ということでもありません。
とすると典型的なPCOではありません。
ただ、やはり 20 個も卵子が採れて、胚盤胞のグレードもいいのに妊娠に至っていないということは、PCOに似た問題があるのかもしれません。
まずはPCOに関する一通りのスクリーニングをしておくといいと思います。
ホルモンの負荷試験であるLH - RHテス トや糖の負荷試験を行い、たとえばLH - RHテストでLHが非常に亢進しているようであれば、多少PCOの問題に準じて治療をしていくという切り口があるかもしれません。
あとは、卵巣刺激の過程でのホルモンの状 態に異常がみられると、数は採れていても質のいい卵子ができないことがあります。
LHやプロゲステロン(黄体ホルモン)の値が上がるなどの兆候が認められるということであれば、卵巣刺激の方法を変えて、採卵をもう1回すると、いい卵子が採れる可能性もあります。

グレードは、形態的評価

胚のグレードがAAやABのように良くても、質が良くないということがあるのですね。
小田原先生 私たちも診療の際に、「胚はいいんだけど……」という話をすることがあります。
グレードがいい胚といっても、それはあくまで形態的な評価でしかありません。
胚のグレードと妊娠率というのは、確かに ある程度は互換があり、若い方であればグレードAAの胚盤胞なら 40 %くらいの妊娠率になりますが、それは1年間のトータルの成績としてデータを出しているわけで、1個1個の胚が良かったかどうかはわかりません。
いい胚かどうかというのは、本当は胚の形 だけではなく、染色体のような本質的な問題からくることなのです。
しかし、残念ながら日本では、それを調べることは現在は認められておらず、形態的に見ていくしかないのが現状です。
そうすると、本質的にいい胚に出会うまで、ある程度移植をくり返していくしかないというケースもあるわけです。

治療法にも賛否両論

ぽてこさんは、このまま同じ治療を続けていくことに疑問をお持ちのようです。
小田原先生 ぽてこさんは、3回ともホルモン補充周期で移植されていますね。ホルモン補充周期の内膜調整はすごくいいですし、当院でもそれを基本としてやっていますが、その方法で結果が得られないというのであれば、自然周期を試してみてもいいのではないでしょうか。
移植は、妊娠成績を考えると、一度に2つ の胚を戻す2個移植が考え方として上がってくると思います。
移植方法については、シート法や二段階胚移植、移植の前周期に子宮内膜を少し削って着床を助ける方法など、成果があったと報告されている方法がいくつかあります。
ただ、これらには賛否両論があり、絶対に いいとは言い切れません。
私も試してみたことがありますが、全体としてどれも妊娠成績に差は出ませんでした。
しかし、統計では有意差が出なくても、個々のケースでは有効だったということもありますので、移植4回目以降はそのような方法を積極的に試していくことが必要になってくるのではないかと思います。
現在していらっしゃるアシステッドハッチ ングについては、これも賛否両論がありますが、凍結融解胚移植に関しては受精卵の透明帯が硬化することがありますので、続けていったほうがいいと思います。

移植をしないと分からないことも…

他に何かできることはありますか?
小田原先生 あとは、子宮の中のサイトカインという免疫のタンパクを調べて、着床を阻害するような免疫環境がないかを調べる検査があります。
これは、オーストラリアのメルボルン大学で開発された方法で、当院と埼玉のセントウィメンズクリニックのコラボレーションで行っています。
この検査で子宮内の異常が認められた場合は、薬物療法を行い、状況が改善した後に胚移植を行います。
同様の検査としては、サイトカインではなくエンドトキシンを測る方法があり、これは当院以外でも受けられる施設があります。
ほかには、まだまだ議論のあるものですが、最近の学会でNK細胞の活性が高い人は着床率が低いのではないかという演題が出ており、これを改善したところ妊娠成績が上がったという報告がありました。
学会では、こういった新たな試みも発表されています。
ぽてこさんのような状況ですと、何が原因 と指摘することも難しいのが現状です。
最終的には受精卵の質が一番大きな要素を占めていると思いますが、前述のように、いい受精卵かどうかの定義というのは形態的なことだけではわかりません。
そういう意味では、移植をくり返すことがメインになってしまうとは思います。
そこにいくつかある方法の中から、可能性のあるものは何でも試して、治療に加えていくことが大事なのではないかと思います。
※シート法:胚盤胞とそれを培養した培養液を別々に凍結・保存し、移植の際、先に培養液を融解し子宮に注入し、その後に胚移植する方法。
※二段階胚移植:受精卵を移植するにあたり、初期胚を採卵後2~3日後、 別の胚盤胞に至った胚を5~6日後の2回に分けて移植する方法。
※NK(ナチュラルキラー)細胞:ヒトの自然免疫に重要な役割を果たしているリンパ球の1つ。がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃する。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。