子宮卵管造影検査で問題ありませんが初期胚移植では無理?
古井 憲司 先生 1986年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、1987年名古屋 大学産婦人科学教室入局。名古屋大学産婦人科では文部教官を務め る。さらにその後、大垣市民病院産婦人科医長を経て、1998年クリニック ママを開院。A型・やぎ座。クリスマスや年末年始、バレンタインデーなどの イベント時のデコレーションで、ロビーをはじめ院内全体が温かなムードに包 まれるこのシーズン。特にクリスマスは、毎年好評の楽しいイベントも開催さ れるそう。
わんさん(40歳)からの相談 Q. 体外受精4年目。刺激、低刺激、自然周期を行い、現在、自然周期(フェマーラⓇ誘発)で す。AMHは半年ぐらい前に測った時は年齢相応の値でした。 先日、初期胚移植をしましたが陰性でした。説明では、卵管に何かしらの原因があり、胚 が戻れずに妊娠することができないようなので、胚盤胞移植での治療でやっていきま しょうとのこと。 しかし、過去に初期胚移植で流産ではありましたが妊娠しており、2回の子宮卵管造影検査も問題ありません。腹腔鏡検査も問題なしでした。このような場合でも初期胚移植 をする意味はないのでしょうか? 少しでも確率があるのならば初期胚移植をしたいの ですが。
初期胚移植の意味
初期胚移植は無意味なのでしょうか?
古井先生 まず、初期胚移植は、受精卵を体外で長期間培養することを避けられるというメリットがあります。
長期間培養によるエピジェネティックな変化などの問題点も一部では言われていますから、長期間培養しないという意味で、決して無意味ではありません。
ただ当院では、基本的に胚盤胞移植をファ ーストチョイスにしています。
理由は、初期胚では本当に良い胚を選別することが難しいからです。
Day2でグレードの一番良い胚を選択するよりも、Day3のほうが1日進んだ分だけ選択は容易になります。
さらにDay5まで待てば、胚盤胞まで至った胚の中から、グレードが一番良いものを選択できます。
要するに、子宮内膜の状況や着床の環境が 同等であれば、良いグレードの胚を戻したほうが着床しやすいということは周知のことですから、胚盤胞まで培養する最大のメリットは、胚の選別がより容易になり、妊娠の確率も高まるということなんですね。
胚は一度、卵管に戻る?
卵管に何かしらの原因があり、胚が戻れないから妊娠できないということですが。
古井先生 初期胚を戻すと、胚はいったん卵管に行って、また子宮に戻ってきて着床するということが一部では言われているようです。
しかし、これは本当かどうかは誰も知りません。
もしそうだとするならば、たとえば過去に両側の卵管で子宮外妊娠をして、左右の卵管とも切除した人は初期胚を戻したら妊娠できないということになりますよね。
でも、そんなことはありません。
ですから、卵管に異常があるかもしれないから胚盤胞移植にするという説明は、私には少し疑問に思えます。
当院で、初期胚移植でうまくいかずに胚盤胞移植をすすめる場合があるとすれば、それは胚の質を見極める意味で継続培養しましょうというご提案になると思います。
胚盤胞移植の有用性
初期胚で一度妊娠したことについては?
古井先生 確かにそういった経緯があれば、初期胚でも、と思うお気持ちはわかります。
ただ、年齢が高くなるほど、グレードの良 い胚盤胞であったとしても、その胚の染色体異常の確率はかなり高いことがわかってきていますから、グレードの良い胚盤胞でさえ、戻しても必ず着床できるわけではありませんし、流産する可能性も高くなります。
つまり、それが初期胚であればなおさらで す。
もしかしたら胚盤胞までもいけない胚をDay2やDay3で戻していては、当然、確率はもっと低くなります。
わんさんは 40 歳ですから、まだ胚盤胞まで は難なくいくでしょうから、胚のグレードを見極める意味でも、一度は胚盤胞移植を行ってもいいのではないでしょうか。
さらに、同じ胚盤胞で行うにしても、低刺激でやってみて胚盤胞にならなければ、アンタゴニスト法で、それでも無理ならロング法でと、刺激の方法も変えてみて、そのうえで胚盤胞になるかを見極めるのがベストだと思います。