人工授精を11回続けるか ステップアップするか 迷っています
堀川 隆 先生 琉球大学医学部卒業。国立国際医療センター、国立成育医療センター不 妊診療科勤務を経て、2009年12月より高崎ARTクリニック院長に就任。 国際医療センター勤務時より内視鏡手術・生殖補助医療に従事。成育医 療センターでは難治性不妊治療・加齢と不妊についての研究に取り組む。 B型・みずがめ座。5歳になる末の娘さんはヒーローもののテレビが好きだっ たり、男の子と遊んでばかり……と、かなりやんちゃなお嬢さんだそう。最近で はキッズサッカーを始め、才能を発揮。第2の澤選手になりそうな予感!?
チョネさん(27歳)からの相談 Q. 病院に通い始めて1年が経過。タイミング療法8カ月を経て、現在4回目の人工授精に 挑戦中です。旦那の精子の状態があまりよくなく(精子運動率30~60%)、私も黄体機能不全(排卵障害、高温期が短く低い)ですが、人工授精をすれば授かれると思ってい ました。先生に相談したら「人工授精は11回くらいまでやるべき」とのこと。「インター ネットで6回くらいまでと見たのですが……」と言ったら、それは誤った情報だと返されま した。このまま先生の言う通り、人工授精を続けていってもいいのでしょうか。それとも、 ピックアップや受精の障害など、ほかの原因を考えてステップアップするべきですか?
精子所見について
ご主人の精液検査の結果ですが、1回目が精子濃度3000万/mL 、精子運動率 30 %、2回目が4000万/ mL 、 42 %、3回目が3200万/ mL 、 35 %、4回目が7000万/ mL 、 60 %、とのことです。この数値についてどう思われますか?
堀川先生 WHOの基準値では、精子濃度が1500万/ mL 以上、精子運動率が 40 %以上ですから、気にされるほど悪い数値ではないと思います。
チョネさんは乏精子症ではないかと考えていらっしゃるようですが、本当に乏精子症なら人工授精で治療するのは難しいと思います。
現在、人工授精の適応になっているので、精液について大きな問題はないということではないでしょうか。
黄体機能不全
女性側は黄体機能不全のほか、今トライ中の治療では頸管粘液の不足を指摘されたそうです。
堀川先生 黄体機能不全については、毎周期高温期が短いようなら治療の意義があると思います。
チョネさんはタイミング療法の頃から経口薬のクロミッド ® や注射で排卵誘発をされているそうですが、誘発をすると黄体機能の異常も改善することがあるので、そのようなことも考えてされていると思いますね。
頸管粘液の不足は、おそらくクロ ミッド ® の服用が原因だと考えられます。
ヒューナーテストの結果がよくなければ、人工授精を続けるということでいいのでは。
人工授精の回数的限界
では、このまま担当医の先生がおっしゃる通り、 11 回程度人工授精を続けたほうがいいのでしょうか。
堀川先生 「人工授精は 11 回程度続けるべき」という意見は、正直なことをいうと最近ではあまり聞かないですね。
おそらく、チョネさんが通院されているのは人工授精までしか治療の選択がない施設なのでは。
不妊治療専門ドクターの場合、人工授精は5〜6回まで、というのが一般的な意見だと思います。
人工授精で妊娠できる人の8〜9 割は、6回頃までに妊娠しています。
大部分の人は早い段階で結果が出るので、回数を重ねても妊娠率が上がることはそれほど期待できません。
もちろん、 10 回以上トライして妊 娠するケースもあります。
チョネさんは 27 歳とまだお若いので、 10 回以上やってみるという選択もあっていいと思いますが、危惧されているように、一般不妊治療ではわからない不妊原因が潜んでいる可能性も否定できません。
男性についても受精や造精の機能など、通常の精液検査ではわからないこともあります。
今、4回目の人工授精に挑戦され ているとのこと。もし結果が出ないようなら、あと2回は続け、6回を一つの区切りと考えてはどうでしょうか。6回過ぎたら、ほかの原因を視野に入れてもいい時期。腹腔鏡検査や体外受精もできる選択肢の多い専門施設で、セカンドオピニオンを受けてみることをおすすめします。