3PNの受精卵は移植できないのでしょうか?

大島 隆史 先生 自治医科大学卒業。1982年、新潟大学医学部産科婦人科学教室入局。 産婦人科医として3年間研修後、県内の地域病院の1人医長として4年 間勤務。1992年、新潟大学医学部において医学博士号を授与される。 新潟県立がんセンター新潟病院、新潟県立中央病院勤務を経て、1999 年、大島クリニックを開設、院長に就任。現在の仕事が天職のように見える 大島先生ですが、もし受験の時、医大に落ちていたら、理工学部の数学科 に入っていたかもしれないとか。また、建築家に憧れていた時期もあったそう です。
桜さん(47歳)からの相談 Q.治療歴6年で、先日、初めて顕微授精をしました。先日、診察の時、カルテを見たら「3PN」 という言葉が書かれていました。先生に質問すると、「卵子に精子が2個入り、核が3つあ る状態」とのこと。インターネットで調べると、ある培養士さんのブログに「3PNは染色体 異常の確率が非常に高く、通常であれば移植はしない」と書いてありました。 本当に3PNの受精卵は移植することはないのでしょうか。3PNの状態でも胚盤胞まで 育てば、移植することは可能ですか?

多精子受精とは

まず、3PNとはどのような状態なのでしょうか。
大島先生 受精時、通常は1個の卵子の中に精子が1個侵入すると、次の精子が入ってこないように透明帯がバリアとなって阻止します。
それがうまくいかずに数個の精子が侵入してしまうことを多精子受精といいます。
3PNは、精子が2個入り、前核が3つ確認できる状態です。
これよりもさらに多い4PNや5PNという状態になることもあります。
多精子受精になってしまう原因は、透明帯に問題があることが考えられますね。
透明帯は卵子から産生されたものなので、卵子の質の低下が防御機能の低下に影響している可能性があります。
母体年齢と同時に卵子も年をとるので、年齢の高い方は多精子受精が多くなる傾向があるかもしれません。

顕微授精ではおきない

顕微授精でもこのような異常受精を起こすことはありますか?
大島先生 体外受精では起こりうることですが、顕微授精は1個の卵子に1個の精子しか入れませんから、多精子受精が起こるということはありません。
しかし、顕微授精でも時々、3前核になることがあるんですね。
これは、第2極体をうまく放出できなかったことが考えられます。
受精の前に1回染色体が分裂し、 精子が侵入した時にもう一度分裂するのですが、この2回目の分裂で細胞質の外に第2極体として出なければいけない染色体が放出されず、中に残ってしまう。
そのような異常が起こると、前核が3つになってしまうことがあるのです。
先生のご説明では多精子受精のよ うですが、もし顕微授精において3PNという状態が起こったのなら、この第2極体放出不全によるものだったのではないでしょうか。

移植するのか?しないのか?

そのような3PNの胚を移植することはあるのでしょうか。
大島先生 体外受精においても顕微授精においても、移植した翌日、だいたい 17 ~ 20 時間後に受精の確認をします。
その時に、女性の核が1つと男性の核が1つ、つまり前核が2つ確認できれば正常な受精だと判断します。
もし前核が3つであれば異常受精ということになり、この胚を移植するということはありません。
万が一、移植をしたとしても、このような異常胚は確実に流産してしまいますから。

多精子受精は胚盤胞になる?

桜さんの質問にあるように、3PNの胚が胚盤胞まで育つということもないのですね。
大島先生 3PNでも、なかにはきれいに分割するものもあるようですが、先に申し上げたように移植の翌日の受精確認で異常が認められれば、その後、培養をしていくことはないと思います。
移植に適している受精卵かどうか は医師や培養士がきちんとチェックをしていますから、あまりご心配されることなく治療に臨んでいただきたいですね。
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