奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに 留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、 顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック 勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜 を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医 療専門医。愛犬家の先生は、実家で家族が飼っているポメラニアンの子犬・ ティアラちゃんに夢中。先生が「ブリーダーさんに相談して、ぜひ品評会に出し てみたい」と惚れ込むほどなので、きっとかなりの器量よしに違いありません。
みんみんさん(31歳)からの相談 Q.先日、2回目の凍結5日目胚盤胞移植が陰性で、撃沈しました。2回とも自然周期での移 植で、1回目は化学流産、2回目は判定日を待たずに生理が来てしまいました。移植した 受精卵は院長先生から太鼓判をいただくほど、とてもよい状態。内膜の厚さも12㎜以上 あり、期待していた分、すごく落ち込んでしまいました。いい受精卵で内膜の厚さも良好 なのに妊娠しないということは、着床に問題があるのでしょうか。 何の問題がなくても、希望すればホルモン補充周期での移植は可能でしょうか。凍結して いる卵があと2個あります。次の移植はどうしたらいいでしょうか。
胚盤胞の着床率
5日目まで育てた胚盤胞を凍結して移植。胚の状態がよかったものの、2回続けて妊娠には至らず落ち込んでいらっしゃいます。
奥先生 胚盤胞の着床率でいえば、きれいな胚盤胞でも着床率は 50 %余り。
つまり2回に1回しか着床しないということです。
1回目は化学流産ですが着床しているということは、確率的にいえば、よくも悪くも考える必要はないと思います。
ホルモン補充周期のメリット
排卵誘発剤を使わない自然周期での胚移植でしたが、ホルモン補充周期での胚移植も検討すべきですか?
奥先生 自然周期で戻すのか、ホルモン補充周期で戻すのかということですが、当院では自然周期での移植はほとんど行わずに、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植をします。
文献的にはどちらも変わらないという報告もありますが、一般的にはホルモン補充周期のほうが、妊娠率が高いといわれていますので。
理論的な話をすれば、胚が子宮内膜に着床する際、インプランテーションウィンドウと呼ばれる、「着床の窓」が開いている期間があります。
着床は、この窓が開いている時期にしか成立しません。
ホルモン補充周期の凍結融解胚移植では、このインプランテーションウィンドウの開いている期間を自然周期と比較して、少し後ろへずらすことができるので、成長の遅い胚でも着床できるというメリットもあります。
また、移植の日を調整しやすくなるメリットもあります。
自然周期、ホルモン補充周期のどちらでも着床率は変わらないという報告もありますが、それは自然周期において、排卵を促す作用があるHCGの影響だろうと考えます。
ですから私も通常のホルモン補充周期でうまくいかない方には、当院ではホルモン補充周期においても、HCGの注射も併用することにしています。
ホルモン補充周期の種類
ホルモン補充周期胚移植にも、いろいろな方法があるのですね。
奥先生 そうです。
移植の前の周期にどんな薬を使うかも重要です。
たとえば前周期にアゴニストやピルを使用するかどうかです。
アゴニストやピルによって内因性のエストロゲンが抑制され、着床環境がよくなるといわれています。
その量も、1錠なのか2錠なのか、やり方によって微妙に妊娠率が変わってきますので、そこはドクターのさじ加減にかかっていると思いますよ。
方法を変えて移植する
凍結胚があと2個あるとのこと。次の移植については?
奥先生 凍結されている胚が前に移植した胚と同じグレードかどうかにもよると思います。
グレードのいい胚盤胞なら、再度、胚盤胞1個移植がいいと思います。
うまくいかない時は、何か方法を変えてみるというのは不妊治療における鉄則です。
そういう意味では、次回の移植はホルモン補充周期がいいと思います。
※ホルモン補充周期(胚移植法):ホルモン製剤を使用して自然排卵を抑え、子宮内膜を受精卵の着床に適した状態に調整して、胚移植をすること。胚移植日の変更や調節が困難な自然周期胚移植法に比べ、胚移植日を調節でき、 排卵障害による不妊でも適応可能であることがメリット。