以前、OHSSになり入院一度かかったら次もなる可能性が高いのですか?

採卵後に重篤な症状を引き起こすこともあるOHSS。 予防しながら不妊治療を行う方法はあるのでしょうか。 吉田レディースクリニックの吉田先生にお話を伺いました。

吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学部産 婦人科学教室入局、不妊・体外受精チ ーム研究室へ。米国マイアミ大学留学 後、竹田総合病院産婦人科部長、東北 公済病院医長を経て、吉田レディースク リニック開設。来年3月、中国で開催 される学会でIVMについて講演をする 予定。同院は国内でいち早くIVMに着 目しており、さらに成熟率・妊娠率を向 上させるため、現在は大学の農学部と 協力して培養液の研究を行っている。

ドクターアドバイス

◎ 同じ排卵誘発法ではOHSSをくり返すことも
◎ HCG注射の代わりに点鼻薬で刺激を
◎ IVMなら排卵誘発せずに採卵が可能
ハイチュウさん(38歳)Q.以前、採卵した直後にOHSSで入院といわれ、6日 間病院にいたことがあります。今、次の採卵に向けて 準備をしていますが、またOHSSになったら心配だし、 仕事も何日も休まなくてはならないので不安です。だか らといって採卵をやめるつもりはないのですが、病院 から「最悪の場合、死に至ることもあるんですよ」と言 われて怖くなりました。一度OHSSにかかったら、次 もなる可能性は高いのでしょうか?

ハイチュウさんの投稿に寄せられたコメント

ぽん(主婦・年齢秘密) 軽度のOHSSを経験しました。歩くのはとても苦 痛で、卵巣は10cmほどにはなりましたが、腹水が 溜まらなかったのが幸いです。OHSSになりやすい =薬の反応がある、ということなので体質的には恵 まれているのだとは思いますが、どうしてもOHSS が恐怖なのであれば、自然周期にしてもらうとかク ロミッドⓇ程度にしてもらうか相談されてはどうで すか?
るみ(主婦・38歳) 私もHMG+HCGの注射を使うと必ずOHSSにな り入院をくり返していました。8回は入院したかな ……。しかし、HCGの注射を使わない病院へ転院 したら、入院するほどのOHSSになることはなく なりました。OHSSになるかならないかは、誘発方 法によってもまったく違います。

OHSSについて

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)はなぜ起こってしまうのですか。
吉田先生 OHSSは、排卵誘発による刺激に卵巣が過剰に反応してしまうことで起こります。
特に、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方は発症するリスクが高く、多量のHMGとHCGを使用して誘発を行うと卵巣が腫れて、OHSSを引き起こしてしまうことがあります。
最悪の場合、死に至ることもあるとのことですが、そんなに危険な状態になってしまうのですか?
吉田先生 過剰な刺激を受けて卵胞が急激に成長することで、卵巣が腫れてしまいます。
すると、腫大した卵巣の表面の血管から水分が腹腔内に流れ込んで溜まり、血液が濃縮されて尿の量が減少します。
その結果、腎機能障害や血栓症などを引き起こしてしまうのですね。
さらに悪化すると、胸にまで水が溜まって呼吸が困難になり、ICUに入って治療をしなければならない場合もあります。
なかには、排卵誘発の注射をそれ ほどたくさん打っていないけれど過剰に反応してしまい、中絶を余儀なくされる患者さんもいらっしゃいます。

OHSS後の不妊治療

一度OHSSにかかった方はまたくり返すのでしょうか?そうだとすれば予防する方法はありますか。
吉田先生 OHSSになった時と同じ排卵誘発の方法をとれば、またくり返す可能性はあります。
注射によりOHSSを引き起こしたと思われるので、予防するのならHCGの注射を打つ代わりに、内因性のLHを使うことも1つの方法だと思います。
HCGの注射は半減期が長いので、体の中にしばらく残って効いてしまうのです。
そうなると、妊娠後、さらに症状が悪化してしまいます。
注射の代わりに刺激の弱い点鼻薬のスプレキュアⓇを使い、それで卵胞を成熟させることができればOHSSを抑えることができます。

IVMという選択肢

採卵するために排卵誘発の薬はどうしても必要になると思いますが、ハイチュウさんのように副作用が怖いという方のために、なるべく薬を使わない採卵法はないのでしょうか。
吉田先生 当院では、PCOSの方にはIVM(未成熟卵子体外成熟培養)という方法もおすすめしています。
これは、まだ成長過程である小さな卵胞を早い時期に採取し、体外で成熟させる方法です。
これは、まだ比較的新しい治療法で、1991年、韓国のCha医師らが摘出した卵巣から未成熟な卵子を採取し、体外で培養して成長させ、妊娠・出産を成功させたのが始まりです。
日本で行われるようになったのは 10 年ほど前からで、OHSSを予防することを主な目的として実施されています。
当院では早い時期からこの治療法に着目し、1990年代後半からCha医師のワークショップに参加して勉強を続け、現在は不妊治療の選択肢の1つとして患者さんにご紹介しています。

IVMのメリット

IVMのメリットはどんなところですか?
吉田先生 まず、未成熟の卵胞を採るので、卵巣刺激の注射をしなくてもいいということ。
注射をしなくてすめば、OHSSを回避することができますよね。
薬の量が減ることで治療費や通院の手間も軽減することができます。
当院でこれまで行ってきたIVMのデータをみると、未成熟卵が体外できちんと成熟するのが全体の5〜6割、そのうち受精するのが7〜8割、妊娠まで至る確率は3割程度でしょうか。今後、培養液などの工夫でさらに妊娠率が上がってくれば、PCOSの方にはとても有効な治療法になると思います。

IVMの治療方法

では、実際にIVMはどのように行われるのか教えてください。
吉田先生 通常は、卵胞が直径 20 ㎜前後になってから採卵をしますが、IVMでは8〜 14 ㎜程度の成長過程の卵胞を特殊な針を使って採取します。
未熟な卵胞は小さく、顆粒膜という綿のようなものにしっかり包まれているので、採卵は容易ではありません。
先端は細く、なおかつ支える芯は太い特別な器具と熟練した手技が必要とされます。
採った未成熟卵胞は 26 〜 28 時間、だいたい翌日までIVM用の培養液に入れて成熟させます。
受精法は、成熟を確認する際に卵子の周りを覆っている顆粒膜細胞を剥がすので、顕微授精で行うことになります。
胚移植に関しては、通常の体外受精と変わりはありません。
卵巣刺激を行った場合は卵巣が腫れる場合があるので、移植を翌々月までなど延ばすことがありますが、IVMの場
合は腫れることはないので、内膜が厚ければ、採卵の月に移植可能です。
内膜が薄ければ翌月にホルモン補充周期で移植可能です。

OHSSの方にはIVM

OHSSを確実に避けることができるので、ハイチュウさんにも提案したい治療の選択肢といえますね。
吉田先生 OHSSを予防するために低刺激の飲み薬や注射に変えたら、今度はまったく反応せず、卵胞が育たないという方もいらっしゃいます。
もしハイチュウさんがそのような状態でしたら、IVMは非常に有効な手段だと思います。
まだ多くの施設で普及している一般的な治療ではありませんが、行っている施設もありますので、ぜひ選択肢の1つとして考えていただきたいです。
※IVM(未成熟卵子体外成熟培養):未熟な卵子を採取し、体外で培養・成熟させる新しい方法。多嚢胞性卵巣症候群の患者さんには、卵巣過剰刺激症候群 を回避することができる。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。