【医師監修】操 良 先生 岐阜大学医学部卒業。岐阜大学附属病院で8 年間、不妊専門外来 を担当し、1992年には岐阜県下初の体外受精に成功。女性ホルモ ンに関する研究成果が認められ、平成 9 年度に岐阜県医学研究奨 励賞を、平成11年度に日本内分泌学会で研究奨励賞を受賞。現在、 操レディスホスピタル副院長。医学博士。日本生殖医学会専門医。 趣味は旅行、映画鑑賞、読書 etc.と多彩。特に旅行は一人でもどん どん出掛けるタイプとか。「最近は忙しくてなかなか行けませんが、秋 なら湿原でトレッキングが気持ちよさそうですね」と語る。
がんばり中さん(43歳)Q.治療歴1年8カ月。初体外受精では妊娠するも流産。その後、6回 採卵し、胚盤胞にはなるものの凍結するまで育ちません。 今年に入って生理周期がおかしくなり、今周期はソフィアⓇを飲み終えて も生理が来ず、FSH値も急上昇。昨年のD3は12~16だったFSH 値が、今年に入り18.6→21.9→57.2です。生理が来ない原因は内 膜が薄すぎるとのこと。FSH値はストレスで高くなるとも聞きますが、 医師によるとこの数値は卵巣の老化が原因だそうで、今後の排卵も厳 しいと。現在、DHEA、マカ、ザクロジュースを飲み、鍼灸をして烏骨 鶏卵を食べています。ほかにも漢方薬など、改善策はありますか?
FSHから見えること
FSH値が 57 ・2とは、どのような状態なのでしょうか?
操先生 値としては閉経に近い状態です。
40 代に限らず、 20 代、 30 代でも急に生理不順になったからとホルモン値を測ってみると、ビックリするようなレベルになっている方はかなりいらっしゃいます。
早発閉経は突然起こり、原因はわからないことがほとんどです。
また、ストレスが原因で生理が来ない場合は、FSH値は低くなるのが一般的です。
摂食障害などで生理が止まるケースなどもそうですが、ゴ ナドトロピンの分泌が低下して排卵が起こらなくなるのです。
ストレスが体にいい影響を与えないことは当然なのですが、この方のFSH値を見るかぎり、ストレスよりもやはり卵巣機能の低下が一番考えられる原因ではないかと思います。
サプリメントの効用
サプリメントについては?
操先生 それは構わないと思いますよ。
私がよく患者さんから飲んでいいかと尋ねられるのは、マカやタンポポ茶。
マカには、抗体やホルモンの構成成分のリジン、アルギニンなど大量のアミノ酸成分が含有されています。
これらの民間療法には、抗酸化作用や血流促進などが期待できるようです。
また、烏骨鶏の卵に含まれるビタミンEは、子宮の中の血流をよくしたり、子宮内膜の厚みを増すという報告もあります。
私もビタミンEはよく処方します。
ただ、ザクロに関しては、種にエストロンというエストロゲンのなかでも一番弱い成分はあるものの、直接、卵巣機能に作用するかは疑問です。
カフマン療法や、漢方
今後はどのような治療法を?
操先生 まずは、カウフマン療法ですね。
卵胞ホルモンと黄体ホルモンを投与することによって正常な内分泌の周期をつくり、卵巣の機能を元に戻します。
それを2〜3クール行ってFSH値が下がれば、自力で排卵が起こる可能性はあります。
また、低用量ピルが有効な場合もあります。
漢方薬は、治療と併用して使うのが望ましいですね。一般的には温経湯や当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など。
これらの漢方薬は、たとえば下垂体に働いてゴナドトロピンの分泌を促進したり、LHの分泌パターンを整えたり、排卵後の黄体に働きかけて卵胞ホルモンや黄体ホルモンを分泌させる効果など、エビデンスに基づく報告がいくつもあります。
しかし、卵巣機能がかなり低下していると、漢方薬単独ではもちろん、カウフマン療法などの治療法でも改善が難しいのも事実です。
ただ不思議なことに、FSH値はある日突然、ストーンと下がることもあります。
ウォーキングなどの有酸素運動や、ストレスを解消できる趣味を持つこと、また食事をバランスよく摂って体重の増減を抑えるなど、日常生活のなかでホルモンバランスを整える工夫も大切だと思いますね。
※ゴナドトロピン:黄体化ホルモンや卵胞刺激ホルモンなど性腺刺激ホルモンの総称