夫が重度の乏精子症。精索静脈瘤の治療と顕微授精、優先順位は?

乏精子症と精索静脈瘤には因果関係があるのでしょうか。 あるとすれば今後の治療法は? 自然でも妊娠が可能? 京野アートクリニックの京野先生に聞きました。

京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦 人科学教室入局。1983 年、チームの一員として日 本初の体外受精による妊娠出産に成功。1995 年レ ディースクリニック京野(大崎市)開院、2007年、 京野アートクリニック(仙台市)開院。一代で終わっ てしまうのではなく、高品質の医療を長く継続してい くクリニックを目指す。そのシステムづくりの一環とし て、今秋、東京に分院を開院する予定。

ドクターアドバイス

同時進行で進めてみては? 精索静脈瘤の治療は 顕微授精の妊娠率を上げる メリットもあります

ハナさん(37歳)Q.前周期からタイミング療法を始め、今周期に入る前に精液検査を2 回受けたのですが、その結果、重度乏精子症と診断を受けました。 先生からは「顕微授精でなければ妊娠できない」と言われましたが、 主人は16 歳の時に「精索静脈瘤がある」と診断されたことがあるの で、泌尿器科でも診てもらうことになりました。案の定、精索静脈瘤 と前立腺炎が見つかり、手術という提案も。 調べると、精索静脈瘤と乏精子症の因果関係は「ある」「ない」と医 師によって意見が異なります。精索静脈瘤を治療して、可能なら自然 に近い形で妊娠したいのですが、やはり顕微授精のほうが妊娠する 可能性が高いのでしょうか?

ハナさん のデータ

■検査・治療歴

ひと通りのブライダルチェックをした結果、特に大きな問題 は見つからなかったが、プロゲステロンの値がいい周期と悪 い周期があるらしく、タイミング療法で注射を打つ。
夫は精液検査を2回受け、乏精子症と診断。泌尿器科の検査では前立腺炎と精索静脈瘤が見つかり、前立腺炎は抗生物 質で治療中。
精索静脈瘤はテストステロンの検査結果が悪け ればホルモン補充、異常がなければ「手術を行ったほうがよ い」と先生に提案されている(現在、検査の結果待ち)。

■現在の治療方針

自然妊娠が希望だが、不妊治療の担当医からは 顕微授精をすすめられている。

■精子データ

運動精子:160万/mL 精子運動率:21% 直進運動率:90% 正常形態率:正常

精索静脈瘤って??

ハナさんのご主人は、泌尿器科で精索静脈瘤があると診断されたそうですが、これはどのようなものなのでしょうか。
京野先生 精索静脈瘤とは、腹部のほうから睾丸の静脈に血液が逆流し、それが滞ってこぶ状になってしまうものです。
特に左側に多く見られます。
診断は、主に視診と触診によるもので、立ってお腹に力を入れていただくと、静脈瘤が浮き出てきます。
女性でも、ひざの後ろなどにボコッと静脈瘤が浮き出ることがありますが、それが睾丸にできてしまうと考えていただけばいいでしょうか。

精巣の働きとの関係

精索静脈瘤があると、乏精子症になるなど、精子をつくる機能に悪影響があるのですか?
京野先生 睾丸、つまり精巣は、体温より3~4度低い 32 ~ 33 度くらいの温度でよく機能します。
その精巣の周辺に精索静脈瘤ができてしまうと、血流が滞り、それによって精巣が温められてしまう。
精巣内が体温に近い温度まで上昇すると、精子をつくる能力が落ちてしまうと考えられているのです。
このことから、やはり精索静脈瘤と乏精子症の因果関係はあるのではないかと思います。
精索静脈瘤がある場合は手術をして造精機能を回復させる、というのが一般的な考え方だと思いますが、実はこのことについて、日本は調査・研究中で、正式なエビデンスはまだありません。
最近では、無精子症で精索静脈瘤を合併していた場合、精索静脈瘤の手術をすると精子が少しつくられるようになる、という報告もあります。
このようなケースが多く集まり、きちんとエビデンスが取れれば、治療法として確立するのではないかと思います。

女性も男性にも知見が必要

ハナさんは不妊治療の担当医からは「顕微授精でしか妊娠できない」、泌尿器科の医師からは「精索静脈瘤と乏精子症は大いに関係があり、手術でよくなる可能性がある」と言われ、その両者の見解の違いに戸惑われたようですが……。
京野先生 エビデンスが確立していないので、さまざまな見解があると思います。
また、科によっても考え方の違いがあるのでしょう。
おそらく婦人科の先生は、女性のご年齢を考慮して顕微授精をご提案した。
一方、泌尿器科の先生は、精索静脈瘤ということにだけ着目したために、治療方針に違いが出たのではないでしょうか。
患者さんが戸惑わずに治療を受けられるように、男性側も女性側もしっかり診られる医師や施設が増えることが望ましいですね。

年齢を意識した治療方針

京野先生なら、どのような治療方針を立てられますか?
京野先生  37 歳という女性の年齢、160万/ mL という運動 精子数を考慮すると、やはり自然妊娠は難しく、顕微授精の適用になるのではないでしょうか。
しかし、精索静脈瘤の手術を受けることも決してマイナスではないと思います。
最近の報告では、精索静脈瘤の手術をすると精子のDNAの損傷が少なくなるといわれています。
DNAの損傷が少なくなれば、顕微授精での受精率や妊娠率が上がります。
もちろん、本来の手術の目的である造精機能が改善される可能性も。
手術は日帰りでできる程度のもので、体への負担はそれほど大きくはありません。
ですから、手術の予約をしながら、顕微授精の準備も進めていくという同時進行で考えてはいかがでしょうか。
ハナさんの年齢を考えると、今後の治療は時間との勝負です。
ご不明な点があったら担当の先生とよく話し合い、早め早めに計画を立てていくことが必要だと思います
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。