受精卵のグレードがいいのに着床がうまくいかない……。 検査や治療法について、はらメディカルクリニックの 着床不全外来の佐藤先生にお聞きしました。
【医師監修】佐藤 健二 先生 慶應義塾大学医学部卒業。埼玉社会保険病院産婦人科、大田原赤十字病院第 2 産婦人科部長、東京歯科大学市川総合病院産婦人科 助教を経て、2010 年より、はらメディカルクリニック「着床不全外来」 の非常勤医師として勤務。2011年 6月から慶應義塾大学病院産婦 人科に勤務し、生殖医療チームに所属。日本生殖医学会生殖医療専 門医であり、特に内視鏡を中心とした不妊原因の特定を得意とする。 遺伝から着床障害まで不妊全般の治療に造詣が深く、内視鏡学会の 技術認定医でもある。子宮鏡、FT治療のエキスパートとしても活躍!
kanaさん(主婦・33歳)からの投稿 Q.今回7回目の胚移植で、また陰性判定でした。凍結胚がまだ残って いるので治療は続けるつもりですが、もう妊娠する気がまったくしませ ん……。卵管性不妊のため体外受精しか授かる方法がなく、誘発法 もいろいろ試しました。移植も分割胚、胚盤胞、2 段階、シート法など、 さまざまな方法にトライ。ホルモン検査、不育症検査、子宮内膜も異 常がありません。鍼治療も冷え改善もしています。受精卵のグレード はよく、かなりの胚盤胞ができますが、その後の着床がうまくいきませ ん。着床を助けるために、できることや検査はありますか?
子宮鏡検査
kanaさんはあらゆる方法を試されましたが、毎回着床まで至らないそうです。佐藤先生は着床不全外来で診察をされていますが、このような場合、どういう方法が有効なのでしょうか。
佐藤先生 kanaさんに着床の部分でもし妊娠しづらい原因があるとすれば、子宮の中の粘膜の状態に何かしら問題があるのかもしれません。
子宮内膜には異常がないということですが、それは超音波検査のみで出された診断でしょうか。
子宮内の粘膜には、超音波でみただけではわからない異常がかなり隠れている可能性があるといわれています。
もし、まだ受けられていないようでしたら、子宮の中に直接カメラを入れて粘膜の状態を詳しく調べる検査をおすすめします。
子宮鏡カメラの役割
それはどのような検査ですか?
佐藤先生 子宮鏡検査といって、ファイバースコープという直径3㎜ほどの細い管状のカメラを子宮口から挿入し、生理食塩水を子宮内に流しながら子宮内腔を観察する検査です。
原理は胃カメラと同じですね。
検査にともなう痛みは少ないので麻酔の必要はなく、5〜 15 分と短時間で行うことができます。
カメラでじっくりみることで異常が見つかる方もいますか?
佐藤先生 粘膜に小さな粒状のものが見られるなど、慢性的な炎症を起こしている方が時々いらっしゃいます。
人工授精や胚移植を何回もくり返すと、子宮の中に器具を出し入れする機会も多くなります。
その時に細菌も一緒に持ち込まれてしまい、炎症を引き起こしてしまうこともあるのです。
もし着床を障害するような病態が見つかれば、後日、治療を施す場合もあります。
子宮鏡検査はこのように粘膜の状態を調べることが目的なのですが、それだけではなく、着床にとってプラスの効果もあるのではないかといわれているんですね。
着床を手助けする目的
それは、治療的な役割も果たすということですか?
佐藤先生 2004年頃から海外の論文で、「胚移植の前の周期に子宮の粘膜をこすって刺激すると、妊娠率が約2倍に上がる」ということが何件か報告されています。
その理由はまだはっきりと解明されていない部分も多いのですが、1つには、こすった部分が修復される過程で出る物質が、受精卵の着床を手助けするのではないかと考えられています。
当院でも凍結胚があるという方は、カメラで見て異常が確認されない場合でも、最後にカメラの先端で粘膜を軽くこすってわざと傷つけるような処置をして、次の周期に移植をしていただくようにしています。
粘膜をきちんと調べ、さらに着床の可能性を少しでも高める手段として、kanaさんにもぜひ子宮鏡検査をおすすめしたいと思います。