AMH値が低い場合、排卵誘発はどのような方法がいいのですか?【医師監修】

AMH値が低い場合、低刺激もしくは刺激を強めるなど、 どのような排卵誘発法をとるべきなのか、 臼井医院不妊治療センターの臼井先生に伺いました。

【医師監修】臼井 彰 先生  東邦大学医学部卒業。東邦大学大森病院で久保春海 教授の体外受精グループにて研究・診察に従事。医局 長を経て、1995 年より現在の東京・亀有にて産婦人 科医院を開業。5年前より不妊専門の治療センターに。 「本当は患者さんの顔は覚えたくない」という先生。実 はその言葉の裏には「早くいい結果が出て、僕の前を 駆け抜けていってほしいから」という優しい気持ちが込 められている。

ドクターアドバイス

AMH値が低い方でも刺激が有効な場合も。 方法に変化を持たせることが大事です

ナイルさん(主婦・38歳)からの投稿 Q.男性不妊と低 AMHのため、1年前より、顕微授精を行っています。 体外受精を始める前、誘発法を決めるためにAMHを測定したところ、 4.8と非常に低かったため、低刺激法をすすめられ、これまですべて 低刺激(クロミッドⓇのみ、もしくはクロミッドⓇ+注射 2~3 本)での 採卵を行い、計 6回を数えました。その後、低刺激中心のクリニックに 転院しましたが、そちらでも3回治療を行って成果が出ていません。 刺激による誘発も行ってみたほうがいいのでしょうか?

AMHについて

AMHとはどのようなホルモンで、この数値を測ることで何がわかるのでしょうか?
臼井先生 AMHは、抗ミュラー管ホルモンともいい、もともと生まれた時から卵巣内に持つ原子卵胞から発育中の発育卵胞、前胞状卵胞から分泌されるホルモンです。
この発育卵胞の数は加齢とともに減少していくので、★採血でのAMHの計測は卵巣の予備能を知るいい指標になると考えられています。

FSHについて

卵巣の状態をみるためには、FSHというホルモンの値も重要だといわれていますが、AMHとは調べる視点が違うのですか?
臼井先生 前胞状卵胞から、その周期に排卵する卵子の候補 20 個くらい(胞状卵胞)が決まってくるのですが、最後にこの胞状卵胞はFSH(卵胞刺激ホルモン)によって成熟し、排卵する★成熟卵胞へと成熟していきます。
間脳―下垂体系にはフィードバック機能があり、下垂体で分泌されるFSHは胞状卵胞を刺激し卵を成熟させ、成熟した卵からは卵胞ホルモンが分泌されて、そのホルモンの上昇が排卵の引き金になってFSHの分泌を抑制していきます。
このフィードバック機能の乱れは、生理中のホルモンを乱していきます。
つまり、卵巣の機能が悪くなるとFSHの値は高くなる。
卵巣の予備能力が悪くなるとAMH値は減少し、卵巣の機能が悪くなるとFSH値は上昇するんですね。
これらのホルモンに加え、ほかの排 卵に関係するホルモン(LH、E2、インヒビンB)や、身長・体重、生理周期などを考慮することによって、卵巣の状態を包括的に推測することができます。

AMHはバラつきがある

ナイルさんは 38 歳でAMH値が 4.8 ということですが。
臼井先生  37 、 38 歳くらいだと 15 くらいが平均的だと思われるので、 4.8 という数値はご年齢の割にはかなり低いと思われます。
AMHの値は加齢とともに下がっていくのですが、ナイルさんのように年齢以上に低くなってしまっていたり、なかには 20代でも閉経に近い低値が出てしまうという方も……。
確かに低い値ですが、 2.5 くらいま では十分不妊治療は可能だと思いますし、もっと低い方でも排卵があれば採卵できる方もいます。

AMHが低い、排卵誘発は?

AMH以外、FSHなどのホルモン値は悪くないということですが。
臼井先生 FSHの値はその時の月経周期によって変動することがありますが、AMHの値は比較的、変動が少ないといわれています。
しかし、まれにAMHもバラつきが出る場合があるので、ナイルさんのように値が低かった場合、当院では一度では
なく、何回か測るようにしています。
AMH値が低い、つまり卵巣の機能が落ちている場合、ナイルさんのように排卵誘発は低刺激法という選択肢しかないのでしょうか。
臼井先生 そうとは限らないと思います。
僕はいろいろな方法を試してみようと思っているんですね。
当院では、最初はどの方も低刺激でスタートしますが、それで結果が出なければ、AMH値が低い方でも刺激を強くしてみます。
ナイルさんは1軒目のクリニックで6回、転院されてからもすべて低刺激で治療されています。
同じ方法で試すのはもう限界ではないでしょうか。
当院では、卵子の状態がよく、胚盤胞まで育ってもうまくいかなかったら、次回も同じ方法でチャレンジするかもしれませんが、基本的には結果が悪ければ毎回方法を変えいます。
先生なら、次はどのような排卵誘発法を考えられますか?
臼井先生 ナイルさんのようにAMHが低い方はロング法を行っても卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こす可能性は少ないと思われるので、ロング法を選択してもいいのですが、この方法は2周期ほど引きずってしまいます。
ですから、できればショート法か、HMG製剤からスタートするアンタゴニスト法のほうがいいのではないでしょうか。
これまで卵子は2~3個採れていたそうですが、そのような刺激をすれば採卵数も増えますか?
臼井先生 卵子がたくさん採れるというより、卵子の質が上がるかもしれないですね。
変性卵や空胞、異常受精が多かったということですから、それも改善されるかもしれません。
やはり、やり方を変えてみたほうがいいということですね。
臼井先生 低刺激法で続けるなら、注射の薬を変えてみるのも選択肢の1つだと思います。
とにかく同じ方法ではなく、変化を持たせることが大事。
卵巣の機能が落ちている方でも、方法を変えればいい卵子ができる可能性は十分あると思います。

AMHの重要性

最後にAMHの話に戻りますが、こちらではAMH検査は患者さん全員に実施しているのですか?
臼井先生 はい。初診でお越しいただいた次の月経時に実施しています。
AMHは治療方針を決めるうえでの指針になりますし、OHSSのリスクもわかります。
また、卵巣の予備能をきちんと知ることで、治療のスピードを速めることもできます。
後悔のない治療のために、患者さんにとっても有意義な検査だと思います。

おしえて!

★AMH検査

AMH検査は、月経が始まって3~5日目くらいが適しているとされる。
それは、この時期は排卵前の卵胞がなく、各種のホルモンが安定しているため。
少量の採血ですむので痛みや体の負担はないが、検査費は保険適用されず自費となる。
AMH値が正常範囲から逸脱していると考えられた場合は、再度測定するか、卵巣の状況を超音波でみて、その周期の遺残卵胞の状況や卵巣の腫れなどがあるかどうかを確認するほうがよいとされている。

★成熟卵胞

卵巣の中には生まれた時からたくさんの原子卵胞が存在し、これらの原子卵胞は生理が来るまで眠っている。
生理が始まる頃から卵巣の中で休眠している原子卵胞は、1回の排卵周期あたり約1000個ほど起こされ、その中から選択され、排卵が可能な状態の卵胞に発育していく。
起こされてから排卵までの間に原子卵胞は、[発育卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞]という流れを経て徐々に成熟し、約190日ほどかかってようやく排卵を迎える。
※インヒビンB:卵巣から産生されるホルモンで、卵胞の発育と排卵を調節する。卵巣の予備能を評価する際の指標の1つになる。
※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排 卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水がたまる、血液の電解質バランス異常、血液の濃縮などの症状をみせるもの。
※ロング法、ショート法、アンタゴニスト法:いずれも体外受精を目的に卵巣から採卵するため、ホルモン剤を多めに使って排卵を誘発する方法。GnRHアナログという点鼻薬の投与時期の違いによって、ロン グ法とショート法に分かれ、点鼻薬を使用せず、GnRHアンタゴニストを皮下注射する場合をアンタゴニスト法という。AMH値やFSH値、目的によって選択する。
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