プロゲステロン値が低く、黄体機能不全が 疑われる場合の治療法と妊娠の可能性について、 クリニックママの古井先生にお話を伺いました。
【医師監修】古井 憲司 先生 1986 年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、 1987年名古屋大学産婦人科学教室入局。名古屋大 学産婦人科では文部教官を務める。さらにその後、大 垣市民病院産婦人科医長を経て、1998 年クリニック ママを開院。A 型・やぎ座。最近は学会関連の仕事が 忙しく、シングルの腕前のゴルフを仲間から誘われても なかなか参加できないという古井先生。多忙ななかで の楽しみと安らぎは、学会で会った仲間たちと情報交 換をしながら食事をすることだそう。
目次
ドクターアドバイス
まずは、子宮内膜の厚さを知ることが大切。 そのうえでステップアップも考えましょう
ロンさん(会社員・30歳)からの投稿 Q.高温期のプロゲステロン値が3ng/mLでした。黄体機能不全と 診断されたわけではありませんが、治療のため生理5日目から5日間、 1日1錠クロミッドⓇを服用し、排卵後には10日間1日3錠ルトラールⓇを服用。 好転しなかったので、次の周期は加えて排卵前にHMG注射を 3回しました。それでもプロゲステロン値は上がらず、 高温期の体温も治療前と同じ36.5℃までしか上がりません。 この数値でも妊娠は可能ですか? この治療法は一般的でしょうか?
プロゲストロンの値
ロンさんは黄体機能不全の疑いがあるようですが、プロゲステロンが3 ng / mL という値は低いですか?
古井先生 ★黄体機能不全かどうかを調べるホルモン検査は、高温期中期に血液検査をしてプロゲステロン値を測定するのですが、3 ng / mL という値はちょっと低すぎますね。
10ng / mL 以上あるといいですね。
子宮内膜とクロミッド
ロンさんはクロミッドⓇとルトラールⓇを服用されているそうですが、この治療法はどうですか?
古井先生 黄体機能不全の改善ということは、着床に主眼を置いた話になりますね。
クロミッドⓇを使うと、抗エストロゲン作用で子宮内膜が薄くなる副作用があるので、着床にはマイナスになると思います。
ロンさんの子宮内膜の厚さが記載されていませんが、何㎜ぐらいだったのでしょうか。
僕は、基本的には内膜の厚さがある程度必要だと考えており、最低8㎜以上はあったほうがよいと思います。
それと、クロミッドⓇを使った場合の周期というのは、排卵までは内膜が薄くて、それから急に厚くなるケースがあるのです。
いくら厚くなっても、途中まで抑制されていた内膜というのはあまりよくないだろう、というのが僕の考えです。
ですから、それでルトラールⓇを使って黄体ホルモンを補充しても、あまり効果がないのではないかと思います。
クロミッドⓇは当院でも結構使用しますが、体外受精の場合は、内膜の状態が悪ければ凍結するという方法を取ることができるので使用しています。
しかし、基本的にタイミング指導や人工授精の場合は、クロミッドⓇを1回使って内膜が薄くなった場合は、次回からは絶対に使いません。
内膜が5㎜以下の薄さになると着床が難しいですから。
プロゲステロンの数値を 10ng /mL 以上に上げるためにクロミッドⓇを使っているのであれば、子宮内膜の状態がいいのに3 ng / mL という低い数値はまずないと思うので、おそらくロンさんの内膜は薄い状態だと思います。
ですから、まずは自然周期の場合の子宮内膜の厚さと比較してみることをおすすめします。
たとえば、自然周期では内膜が8㎜以上あるけれど、クロミッドⓇの周期で5㎜しかないとすれば、クロミッドⓇは使わないほうがいいということになります。
クロミッドⓇには内膜が薄くなったり頸管粘液が減るという副作用がありますが、個人差があるので、クロミッドⓇを使っても内膜が薄くならないのであれば、続けて使用するメリットはあると思います。
誘発方法を変える?
では、もし内膜が薄くなっていた場合は、ほかの排卵誘発剤を使ったほうがいいのですね。
古井先生 子宮内膜が薄くならないフェマーラⓇなどの排卵誘発剤もありますし、患者さんによっては自然排卵のほうがいい場合もあります。
もう1つ、内膜を厚くして着床を促進するには、HMG製剤を使う方法もあります。
ただ、これは卵胞が複数個できるので、多胎の可能性が高まるというデメリットもあります。
また、クロミッドⓇで内膜が薄くなる人は、HMG製剤をクロミッドⓇと併用してもなかなか厚くならない場合が多いので、その場合はクロミッドⓇなしで最初からHMG製剤を少量、1日おきに投与するという手段を取ったほうがいいかもしれません。
ステップアップを考える
今のままの治療では効果は期待しづらいということですね。
古井先生 同じ治療を続けても、難しいと思います。
ロンさんは 30 歳なので、本来は妊娠しやすい年齢ですが、いろいろな問題があって妊娠しにくいということがわかったら、やはり治療をステップアップしていくべきでしょう。
治療をしても、どうしてもプロゲステロンが上がっていかないとか、内膜が厚くならないという人は、自然の排卵周期でも内膜が薄い場合が多く、非常に着床しにくいケースがあると思います。
そうすると、最終的には体外受精が必要になります。
「どうして、いきなり体外受精をしないといけないのでしょうか?」という疑問が出てくるかもしれませんが、たとえば精子が少なくて顕微授精をしなくてはいけないとか、卵管が両方とも詰まっていて自然妊娠が不可能だとか、そういった"絶対適用"の例に当てはまらない人でも、体外受精をしないと妊娠できないケースがあります。
今回のように、子宮内膜が薄い場合もこれに当たります。
まずは、子宮内膜の厚さを比較してみて、その結果によっては1つの選択肢として、体外受精も考えてみてはいかがでしょうか。
ホルモン補充周期
自然周期でも子宮内膜が薄かった場合、どう治療されますか?
古井先生 そうですね。
自然周期でもクロミッド周期でも、両方とも内膜が薄いという場合はかなり厳しいですが、体外受精で一旦受精卵を凍結保存しておいて、★ホルモン補充周期で凍結融解胚移植を行うとよいかもしれません。
これは、胚移植をする前にホルモン剤で子宮内膜を厚くしてから胚移植を行う治療法ですが、当院では、この治療法にて毎月50 %以上、多い時は 70 %の妊娠率を認めます。
しかしながら、なかにはどんな治療をしても子宮内膜が厚くならないという人もいます。
当院でも時々行うことがありますが、この治療に加えて、ビタミンCとビタミンEを投与することによって、子宮内膜はそれほど厚くはならないけれど着床率が上がった、という例はあります。
おしえて!
黄体機能不全って?
妊娠が成立するためには、黄体ホルモンが一定期間、十分な量( 10ng / mL 以上が望ましい)分泌 される必要がある。
黄体機能不全とは、それが不十分な状態を指す。
排卵が起こると卵巣には黄体が形成され、基礎体温を高温状態にするプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌される。
プロゲステロンは、子宮内膜の状態を柔らかく厚くすることで、受精卵が着床しやすい状態にし、妊娠を保つ役割を担う。
しかしこの分泌が少ないと、子宮内膜が薄いままで、受精卵の着床を妨げたりする場合がある。
ホルモン補充周期って?
体内から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)が少ない場合に、飲み薬や貼り薬、塗り薬、腟座薬などで補充する治療。
排卵を起こさずにエストロゲンを毎日投与し、その後、黄体ホルモン(プロゲステロン)の投与を併用する方法。
この治療で子宮内膜を厚くして状態を整え、このホルモン補充周期に凍結融解胚移植を行う。
妊娠した場合は、一定期間プロゲステロンを補充する。
この方法だと移植日を特定しやすく、妊娠率も高いとされている。