【医師監修】京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。 1983 年、チームの一員として日本初の体外受精による妊娠出産に成功。 1995 年レディースクリニック京野(大崎市)開院、2007年、京野アート クリニック(仙台市)開院。常に最先端の医療を提供すべく、海外の学会 へも積極的に参加し、知見を広めている。現在は新たなホームページ「ガン でもママパパ」を立ち上げるなど、病気が原因で妊娠できなくなる方の妊孕 性温存についても研究を進めている。
あいるさん(37歳)からの投稿 Q.産婦人科でタイミング指導2回の後、36 歳で不妊治療専門クリニックに転院。 タイミング2回、人工授精に2回トライするも結果が出ず、再び転院。男性 不妊ということで体外受精を行いましたが、妊娠まで至りませんでした。顕微授精でも妊娠が難しいと言われていましたが、治療をお休みしたところ、4カ 月後に自然妊娠。流産という残念な結果になりましたが、自然妊娠したことで 今後の治療をどうしたらいいか悩んでいます。このまま自然に任せて頑張った ほうがいいのか、それとも年齢や結果を考え、すぐに治療を再開したほうがい いのか? 再開するなら人工授精と顕微授精、どちらがいいのでしょうか。
奇形率で考える顕微授精
ご主人の精液検査のデータは多少ムラがあるようですが、一番悪い時で、精子運動率5%、精子正常形態率 10 %。クルーガーテストでは正常群が3%だったということです。この結果をどう思われますか?
京野先生 精子の運動率が低く、奇形率も高いですね。
クルーガーテストも、正常であれば 14 %以上の値ですが、ご主人の値は3%ということ。
これは、奇形の精子が多く、正常な精子が少ないということを示しています。
これらの所見から考えると、やはり顕微授精の適用となるでしょう。
精子所見が悪いが自然妊娠
治療をお休みしている間に自然妊娠されたということですが……。
京野先生 すごく精子が悪い状態であっても自然妊娠することはまれにあるんですよ。
実際、当院でも無事に出産までいった方もいらっしゃいます。
確率はゼロではありませんが、一般的にみればかなり低いです。
一度自然妊娠できたので、どうしても自然妊娠を期待してしまうお気持ちはわかりますが、確率を考えれば体外受精で治療していくほうが望ましいと思います。
検査結果から、治療を検討
問題は男性側だけですか? 治療方針はどのように立てていくといいでしょうか。
京野先生 体外受精の際、クロミフェン周期で採卵され、その時採れた卵子の数は1個だったとのこと。
クロミフェンで1個というのはちょっと少ないですね。
また、3日目のホルモンの値、FSH/ 10 ・8、E2/ 67 ということですが、これは高めですね。
やはり加齢による卵巣機能の低下が見られるようです。
女性側に関しては、さらに卵巣の予備能を詳しく調べるために、抗ミュラー管ホルモン(AMH)の検査をしてみてはいかがでしょうか。
この値が5を切るようでしたら、低刺激もしくは自然周期と、卵巣刺激法を工夫してみるのも1つの方法です。
また、1年前に子宮卵管造影検査をされているということですが、この検査をすると卵管の通りがよくなって直後に妊娠する方も多いので、再度受けてみてもいいと思います。
受精方法に関しては、精子の状態からみると、人工授精は適さないと考えられます。
顕微授精、もしくは高倍率の顕微鏡で良好な精子を選別し、それを子宮に注入するIMSIという方法が有効だと思います。
いずれにせよ、 37 歳という女性の年齢を考慮し、なるべく早い治療再開をおすすめいたします。
※クロミフェン周期(法):抗エストロゲン作用を持つ経口排卵誘発薬のクロミフェンを用いて、排卵誘発する方法。