女性側には問題がなく、 男性側に問題があると診断された場合、 どのように不妊治療を進めていけば いいのでしょうか? 蔵本ウイメンズクリニックの蔵本先生に伺いました。
【医師監修】蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大 学院修了。山口県立中央病院産婦人科 副部長、済生会下関総合病院産婦人 科部長を経て、1990 年オーストラリア・ PIVETメディカルセンターへ留学。帰 国後、1995 年蔵本ウイメンズクリニッ ク開院。O 型・おうし座。
ドクターアドバイス
一度、立ち返ってみるのも一つの方法です。 ご夫婦二人三脚で治療を進めていきましょう
ふじこさん(兼業主婦・30歳)からの投稿 Q.1年前から本格的に不妊治療をしています。 これまでに人工授精を3回、顕微授精を2回行ったのですが 妊娠せず、先生も「なぜ妊娠しないのかわからない」とのこと。 ちなみに私のほうは検査で卵子の質もよく、毎回内膜も12㎜、 自然周期のホルモンの値も正常値ということで、 原因は男性不妊ではと言われています。 今は3回目のホルモン補充周期での移植をし、結果待ちです。 もし失敗した場合、 今後はどんな治療を続けたらいいのでしょうか……。
先生からアドバイス!
●男性側の状態をしっかり把握する
● 子宮卵管造影検査や子宮ファイバースコープ検査 を受けてみる
●すべての治療をいったん休んでみる
男性因子もチェックする
今回は、男性不妊の治療の進め方についてのご相談です。
蔵本先生 相談内容を拝見する限り、女性側には問題がないようですね。
けれど妊娠しない。
不妊治療も1年ほど続けているがうまくいかない……。
それで、男性に問題があるの"では"ということですね。
ご主人は、詳しい検査前の段階なのでしょうか。
相談の内容では不明ですね。
蔵本先生 ではまず、ご主人にも検査を受けていただき、精子や精巣の状態をしっかりみてもらいましょう。
専門は泌尿器科ですが、当院のように週1回ほど男性不妊の専門医を招き、外来を行っているところもあります。
同じ医院内で診察を受けると、男性と女性、両方の状態が把握できますし、情報の共有ができるので、治療方針が立てやすいというメリットがあります。
もちろん、男性がお近くの専門医で検査を受け、紹介状をもとに産婦人科で不妊治療を受けることもできます。
男性不妊の検査内容
男性側の検査ではどのような点がチェックされるのでしょうか。
蔵本先生 精巣の大きさ、ホルモン、精子数と運動能力ですね。
ただし近年、男性の精子の基準値はどんどん下がっており、精子濃度が精液1㎖当たり500万個以上でも正常と診断されるようになりました。
ただ、男性の精子の数は毎回異なり、まれに、一ケタ違いが出るような方もいらっしゃいます。精子は 60~ 80 日で作られるものなのですが、高熱やストレスが原因で数が増えない場合も考えられるのです。
そうしたことも頭に入れて検査を受けましょう。
また最低2回は受けることをおすすめします。
検査結果に応じて
精子の数が少なかった場合にはどんな治療が考えられますか。
蔵本先生 女性が 35 歳以下であれば、さらに男性の精巣の大きさが正常で、血中LH、FSH、テストステロン値が正常かやや低めであれば、3カ月程度、男性にクロミフェ ン(セロフェンⓇ)、クロミッドⓇの内服を行ってもらい、精液所見の改善を図ります。
ただし女性が 35 歳以上の場合は、早い段階で顕微授精へと進みます。
精子の運動能力が低い場合はいかがでしょうか。
蔵本先生 運動率ゼロの不動精子症の場合でも、精巣の中に生きた精子がいる場合があります。
まず射精精子を低張液につけ、尾部が変化する精子があれば、それを用いて顕微授精を行います。
精子尾部の変化がない場合は、精巣から精子を採取する方法も考えます。
精子所見改善へ向けて
精子の状態をよくするために、できることはありますか?
蔵本先生 食事の見直しや禁煙によって、精子の質が向上する場合があります。
特に喫煙は、活性酸素を生み、血行を悪くするので、精子によくありません。
しかし世の中には運動精子が500万しかいなくてもふいに妊娠したり、120万で人工授精は無理かと思った夫婦が妊娠するという例もあります。
数や質にあまり振り回されるのもよくないということなんですね。
基本に立ち返る
ただ、ふじこさんの場合は、これまでに人工授精3回、顕微授精2回に挑戦していて、うまくいっていません。今後の治療に不安を感じるのも理解できます。
蔵本先生 そうですね。今回は男性側の状態がわからないので、アドバイスが難しいのですが、今後は顕微授精の間に、タイミング療法か人工授精を1回入れてみてはいかがでしょう。
現在、不安を感じていらっしゃるのは、おそらくこれまでは「トントントン」と治療が進み、「もう後がない」という点なのだと思います。
ですから、ここで一度立ち返ってみる。
もしくは、一度治療を休んでみるのもいいかもしれません。
ふじこさんは、年齢の若い段階で顕微授精をどんどん行っています。
でも妊娠できない。
それがストレスの原因になり、妊娠しにくい状態を生んでいるのかもしれません。
または、もう一度きちんとご自身の基本検査をすべてしてみてはいかがでしょうか。
有効な検査はある?
なるほど。一度立ち返ってみるのですね。どんな検査が有効ですか?
蔵本先生 もし子宮卵管造影検査を受けたことがないのであれば、一度受けることをおすすめします。
それから子宮ファイバースコープで、子宮内にポリープなどがないかをチェックします。
これらは、当院では必ず行っています。
また、こうした検査を行いながらも「やはり顕微授精は続けていきたい」ということであれば、次回は通常卵巣刺激で卵子を7~8個採って凍結し、数回に分けて解凍しながら、アシステッドハッチング(孵化補助法)をしてから胚盤胞移植を行うのもいいかもしれませんね。
ただ、ふじこさんのように、女性側より男性側に問題がある場合もあります。
一般の病気とは違い、不妊症は二人で乗り越えていかなければならないものです。
奥さんばかりが頑張らず、ご主人ともしっかり話をして、ご夫婦が二人三脚で治療に専念できるように。
これも大切なアドバイスです。
※不動精子症:精液中に精子はあるものの、ほとんど動きが認められないもの。