【医師監修】己斐 秀樹 先生 東京医科歯科大学医学部卒業。川口工業総合病院産婦人 科勤務後、東京大学農学部応用動物科学にて国内留学、 米国留学を経験。東京医科歯科大学大学院生殖機能協関 学助手を経て、2005年亀田メディカルセンター産婦人科 (生殖・不妊担当)部長として着任。2010年不妊生殖科 部長・不妊生殖センター長兼務。患者さんのニーズを知り、 それを叶えるために徹底したチーム医療を目指す。妥協を 許さない有言実行の熱血ドクター! O型・てんびん座。
ローズさん(36歳)からの投稿 Q.結婚して3年。子どもを望んでいるのですが、自然妊娠ではな かなかできなかったため、婦人科で調べたところ、子宮に2.5 ㎝の筋腫があり、卵管が詰まっていると言われました。先生の 診断は「体外受精しかない」とのことですが、体外受精は経済 的にもかなりの負担がかかり、すぐには治療ができないので、 今はタイミング療法でチャレンジしています。「できることなら 自然妊娠しないかな?」と願うのは、やはり無理なことなので しょうか?
卵管のつまり=体外受精?
ローズさんは卵管の詰まりと筋腫があるということですが、このような場合、体外受精しか治療法はないのでしょうか。
己斐先生 詳しいデータが不明ですが、一般的には 2.5 ㎝の大きさの単発の筋腫で両卵管が完全に詰まってしまうということはまずないと思いますね。
ローズさんはどのような検査法で卵管が詰まっていると診断されたのでしょうか。
よく外来で行う検査として子宮卵管造影があります。
この検査では左右どちらかの卵管が詰まっているのかはわかります。
しかし影絵のような状態でみるので、必ずしも正確に診断されるわけではありません。
腹腔鏡検査で詳細を
確実な診断をするために、どんな検査法がありますか?
己斐先生 より精度の高い検査となると、麻酔をして内視鏡でお腹の中を直接みる腹腔鏡検査があります。
本当に卵管が詰まっているかどうかの診断は治療法の選択にとって重要な判断材料になると思うので、自然妊娠の可能性を確実に調べたいということでしたら、腹腔鏡による検査をおすすめいたします。
腹腔鏡下では検査と同時に治療もできるので、簡単に取れるようなものなら筋腫の除去もできます。
卵巣予備能から選択する
では、体外受精という選択肢だけではないということですね。
己斐先生 確かに腹腔鏡をされて自然妊娠を期待する選択肢もありますが、どちらに進むべきかは、今、卵巣の余力がどれくらいあるかによって決まってくると思います。
ローズさんは現在 36 歳とのこと。
一般的に 34 歳以下であれば余力は保たれていますが、 35 歳以上だと余力が減ってきます。
腹腔鏡をやって、数ヶ月タイミング療法に臨んでも、必ずしも結果が出るとは限りません。
それから体外受精に切り替えるとなると、その頃にはさらに卵巣機能が落ちて妊娠率が下がってしまいます。
治療法の選択は、時間の余裕があるかどうか、生理2、3日目の胞状卵胞の数やAMH、FSHなどホルモンの値をきちんと調べ、卵巣の予備能をみて決めるべきだと思います。
選ぶのは患者の権利
提示された選択肢が一つだったので、ローズさんはとまどってしまったのかもしれません。
己斐先生 患者さんに選択肢を与えることは医師の義務だと思います。
選択肢を与えて、最終的に選ぶのは患者さんの権利でもあると思うんですね。
きちんと正確な検査をしたうえで、将来的な妊娠の効率を下げないようにするのであれば、患者さんの希望を聞いてあげることを優先すべきではないかと思います。