「不妊症看護認定看護師」資格認定制度を知っていますか? 登録者は、不妊女性の心と体をサポートする 専門知識を持った看護師、保健師、助産師たち。 増えてくれれば、もっと心と体に優しい治療になりそうです。
「不妊症看護認定看護師」は 頼りになる相談相手
不妊治療中は悩んだり、不安を感じることもしばしば。そんなときに頼になるのが、不妊治療に精通したナース「不妊症看護認定看護師」です。
これは日本看護協会の定める制度で、03 年にスタートしました。5年以上の臨床経験のうち、産科か婦人科で3年以上の実務経験を持つ看護師・保健師・助産師で、不妊の診断・治療から心のケアまで、600時間以上の専門的な講義と実習を経て、試験に合格した後に認定・登録されます。
登録までの道のりは大変困難ですが、現在、全国で 85 名が活躍しています。
不妊症看護認定看護師の育成を担う聖路加看護大学看護学部の森明子教授は、「不妊治療中の女性が独りでストレスを抱え込まないためのプログラム」の研究がご専門。ご自身も、十数年前に不妊治療をした経験をお持ちです。
「看護師がよき相談相手となり、気持ちを察してあげるだけでも、患者さんの不安やストレスを軽減することにつながります。また、患者さんは医師には治療法に関しての疑問や不満をなかなか直接伝えにくいのが現実です。
そんな患者さんと医師の関係を良好にとりもちながら、患者さんに他にもさまざまな治療法があることや、自分自身で治療法を選べること、そういった情報を提供して、心と体のケアをするのが不妊症看護認定看護師なのです」(森教授)。
〝やめどき〞の目安を決めて ストレスを大きくしない
なかなか妊娠できずに焦ったり、治療のせいで夫婦仲がギクシャクしたりなど、治療が長引くほどにストレスは大きくなるとされ、患者の約4割が「緊張・不安」、「抑うつ・落ち込み」を自覚しているとの調査もあります。
「そんな場合は、一人で悩まないよう、同じ悩みを持つ人々が集まる患者会(自助グループ)をご紹介したりもしています」(森教授)。
そして、孤立しないようにすることと、 「現実を受け入れて治療と向かい合うことも大切」と森教授は説きます。
「不妊治療は、辛抱強く続ければ必ず妊娠するというものではありません。どれだけの期間を試みるか、どこまでの治療法なら受け入れるかといったことから、どの時点でやめるかの目安もぜひご夫婦で話し合ってください」(森教授)。
一人ひとりの患者に ふさわしい治療法を願って
不妊症看護認定看護師は心のケアにも応じますが、具体的な治療方針についての相談も受けます。
たとえば、自己注射を利用すれば、通院にかかる費用や時間、手間などを軽減することができて、働く女性でも仕事を休まずに治療できます。
また、専業主婦の方でも、「社宅住まいで、連日外出するには近所の目が気になる……」といった理由で自己注射を選ぶ方もいるそう。
そういった一人ひとりの都合や事情、どんな治療を望んでいるかといった希望に耳を傾けて、相談相手になってくれる看護師は、患者にとっても心強い存在です。
「自己注射は、一般的な注射とはまったく異なり、初心者でも簡単・安全に使えるように工夫されています。講演会などでご紹介し、実物を手に取っていただくと、〝これならできるかも!〞という声が聞かれます。治療の現場でも、専門知識を持ったナースがきちんとその有用性を伝えれば、誤った認識や恐怖感もなくなって、より利用しやすくなるのではないでしょうか」(森教授)。
納得のいく治療のために 患者も遠慮しないで質問を!
働きながら治療をする女性も利用しやすいように、早朝や夜間に診察・治療してくれる病院も増えています。インターネットなどで情報も入手しやすくなり、徐々に患者側が病院を比べやすくなっています。
ドクターの評判や希望する治療法を受けられるかどうかといったことだけでなく、これからは自分にとって都合のよい病院かどうかを見極める目も必要です。
不妊治療は、患者さんにとって大きなストレスですが、正しい知識を持って納得のいく治療法を選択していれば、むやみに落ち込んだり、不安にかられることも少なくできるのではないでしょうか。
そのためにも、不妊治療の現場にいるナースには、患者さんが安心して、治療を受けられるようアドバイスできる不妊症看護認定看護師をぜひ目指していただきたいですね。また、患者さんが遠慮せずにナースに相談できるように環境を整えてあげられればと思います」(森教授)。
心と体をケアし、親身に相談に応じてくれる不妊症看護認定看護師がいるかどうかも、今後の病院選びにおいてチェックすべき点となりそうです。