治療で起こりうることを事前にお伝えする【医師監修】

【医師監修】高橋 克彦 先生 慶應義塾大学医学部卒業。インターン時代に立ち 会ったお産に感激し、産婦人科医を目指す。1990 年に日本初の体外受精専門外来クリニック、高橋産 婦人科を開業。後に広島HARTクリニックと改名。 2000年、東京HARTクリニック開設。「日本初」 の実績を次々と打ち立て、日本の不妊治療界をリー ドする。AB型・やぎ座。昨年10月にクリニック開 業20周年を迎え、宮島の温泉で職員旅行を楽しま れた先生。奇しくも同年は、世界初の体外受精を 成功させた、ロバート・エドワーズ、ケンブリッジ大 学名誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞。先生 にとっても喜びの多い1年だったそう。

妊娠率は100%ではない

心のケアがますます重要になっていますね。

高橋先生 生殖医療、特に体外受精への期待がとても大きい半面、実際の妊娠率は低いことが背景にあると思います。

一般的な体外受精の場合、30 代の出産率は約 25 %、さらに年々増加する 40 歳以上の人の出産率は10 %以下です。

ここに該当しなかった人たちの心のケアが、特に重要になってきていると思います。

しかし産婦人科医の役割は、一人でも多くの方の妊娠をかなえること。

心のケアが専門ではありません。

私たちも覚悟のうえですが、医学的な事実をはっきりとお伝えするほど、患者さんの心理的ダメージになることはやむを得ません。

だからこそ、心のケアについては専門家の力が必要だと考えています。

ストレス軽減のために

先生のクリニックで行われていることは?

高橋先生 当院は体外受精が中心ですが、まず医師の初診後に、専門カウンセラーが初診時面談を行うことで、後々カウンセリングを利用していただきやすい態勢をとっています。

さらに、体外受精を初めて行うご夫婦には、看護師による説明会も行っています。

ここでは、体外受精から妊娠までの目安として、採卵が3回、期間は1年程度であるということ(当院では 80 %以上の人が1年以内に妊娠しているため)。

また、体外受精にあたって今後起こりうるであろうこと、それにともなうストレスについて事前にお伝えしています。

さらに、年2回、NPO法人「FINE」の協力で、患者さん同士が交流できる場も設けています。

これでも十分とはいえませんが、患者さんのストレスの一つは、身近に相談相手がおらず、孤独に陥りやすいということです。

ですから、このような機会を通じて「悩んでいるのは自分だけではない」、または「こんなはずではなかった……」ということにならないよう、あらかじめいろいろな現実があることを知ってもらうことが大切だと考えています。

ですから、当院の多くの患者さんはある程度、覚悟して臨んでくださっていると思います。

難しいことは十分承知のうえですが、患者さん自身も適度に気分転換をはかりながら、心にゆとりを持って治療に臨んでいただけるといいですね。

治療を諦める時の選択肢

結果によっては、治療を諦めるという現実もありますね。

高橋先生 残念ながらそうです。

ですが、ただ「諦めなさい」ということではありません。

「何を諦めるか?」です。

当然、ご自身の子どもは諦めなければなりませんが、基本的には3つの選択肢をご提案、サポートしています。

1つ目は、夫婦だけの生活を選ぶ。

2つ目は、里親や養子縁組をして家族をつくる。

3つ目は、非配偶者間の体外受精で母親になる。

特に 40 歳以上の人は、時代の流れもあり、3つ目を選ぶケースが増えつつあります。

しかし、ご夫婦の希望とはいえ、目的は生まれてくるお子さんの幸せです。

ご夫婦の年齢や、経済的なこともよく考えて、早めにご決断いただくのが大切だと思います。

※NPO法人「FINE」:不妊当事者による、不妊当事者のためのセルフサポートグループ。主にウェブサイトを中心に、体験者同士の仲間づくりや情報提供、啓発活動、患者と医療機関や公的機関の橋渡しなどの 活動を行う。

 

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