男性不妊や、加齢による不妊などの問題に 突き当たったとき、どう対処したらいいのか ――。
不妊治療現場での心のケアの重要性について、 広島HARTクリニック院長の高橋克彦先生と 生殖心理カウンセラーの平山史朗先生に 詳しいお話を伺ってみました。
ドクターアドバイス
一度の精液検査で 男性不妊と落ち込まないで
今回の号では「不妊と男性」というテー マについても取り上げていますが、男性因子の不妊について、医師として患者さんに知っておいてほしいことはありますか?
高橋 男性不妊といわれるものには、セックス自体ができないというタイプと、精液検査で芳しくない結果が出るという場合があるのですが、後者の場合は女性の場合と比べて、結果がはっきり数字で表れてしまうものなんですね。
ところが正常な男性の場合でも、その時々によって数値に波があるので、1回だけではなく最低3回は受けていただくことが必要です。3回受けた結果でWHOが示している基準値より数値が低い場合は、男性に原因がある可能性が高い、ということが言えるでしょう。
WHOの基準値を少しでも下回ると気に病んでしまう方も多いようですが……。
そのことで傷つかないようにしていただきたいですね。
不妊の原因にこだわると 夫婦関係が崩れることも……
数字で明確に出ると、やはり男性は精神的にかなりショックを受けるものなのでしょうか。
高橋 かなり精子の状態が悪いと言われた男性の場合は、精神的に立ち直るまでに最低でも半年くらいはかかるようですね。そういう場合はこちらも治療を焦りませんが、なかには「もういいや」と途中で治療を諦めてしまう人もいます。
平山 逆に「実は男性因子の不妊ではなく、女性側の卵の問題だった」とわかったときも問題です。これは不妊治療の特性ですが、治療を受ける過程で原因や診断が変わってくることがあります。
二人の間で責める、責められるを繰り返していても意味はありません。患者さんとしては原因を知りたいと思うけれど、そこは医師に任せて、原因にかかわらず二人で一緒に取り組んでいくという気持ちで進めていくほうが、夫婦関係は健全だと思いますね。
治療を受ける前にそういった心の準備をしておくことが大切なんですね。
子どものいない人生を考える 心の準備へのケアも必要な時代に
高橋 心の準備ということについては、女性の年齢に関しても言えます。我々が不妊治療を始めた 20 年前と比べて、現在は 40 歳を過ぎて初めて不妊治療を受けるという方が増えてきています。2008年の広島・東京HARTクリニックのデータでも、 40歳以上の女性のART治療の数が全周期数の3分の1を超えました。
患者さんにもその力をつけていただきたいのですが、これからは我々医療の現場でも、その先の人生の充実を考えるターミナルケアが必要になってくると思います。そのために、専門のカウンセラーの配置や養成も重要ですね。
そのプロセスで我々のような心の専門家が関わって、患者さんが納得できる人生のお手伝いをしていくことができればいいなと思います。
高橋 現在、不妊治療は技術的には完成に近い段階に来ていると思います。そこで、医療でのケアが難しい加齢による不妊の患者さんなどへの対応をどうするのか。以前のようにとにかく妊娠させることだけを考えるのではなく、そういった方たちのメンタルな部分のケアも充実させていく時代が来たのかなと思っています。