高度不妊治療以前の 治療の充実について

不妊治療の技術の進歩により、妊娠率が高い手段として 体外受精顕微授精が注目されるようになりましたが、 どんな人にとってもそれがベストな手段なのでしょうか。 自然な妊娠を理想とする梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳先生と ファティリティクリニック東京の小田原先生に 治療の現状と意見を伺ってみました。

梅ヶ丘産婦人科 院長 辰巳 賢一先生 京都大学医学部卒業。京都大学病院産婦人科、 長浜市立病院産婦人科、東京大学医科学研究 所免疫学研究部などを経て、京都大学病院不妊 外来・体外受精チームの中心メンバーとして活動。 1992年、東京・世田谷区に梅ヶ丘産婦人科副 院長に。2004年院長に就任。JISART(日本 生殖補助医療標準化機関)副理事長。日本で の不妊治療のパイオニアの1人であり、ART以 前の一般不妊治療に重きを置くことで知られる。 アイスホッケー、テニス、ゴルフ、バイオリンな ど多くの趣味をたしなむ、行動的なB型。
東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。 1987年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズ ホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。 東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病 院科長を経て、1996年東京・恵比寿に開院。 JISART理事。高度な技術や最新設備を取り入 れつつ、患者の気持ちを考えた人間的な不妊治 療を目指す。積極的に交流の場を設け、他の医 師たちからの信頼も厚い。AB型・みずがめ座。

ドクターアドバイス

できるだけ自然な形で、 というのは患者さんも 望んでいることだと思います
インフォームド・コンセントと 自己決定権。後悔しない治療には この二つが重要です

必要最小限の不妊治療で 妊娠していただくことが理想

体外受精が世界に普及するようになって約 30 年、顕微授精が行われるようになって約 20 年が経ち、不妊治療において日本でもART(生殖補助医療技術)が定着してきましたが、辰巳先生は現在も「それぞれの患者さんの必要最小限の治療で妊娠していただくこと」を基本方針とし、一般不妊治療を重視されているということですが……。

辰巳 20 年以上不妊治療に携わってきましたが、その方針はぶれずにやってきました。両側の卵管閉塞や重症の男性不妊といった例外はありますが、必ずしも体外受精をしなければならないという方が多いわけではありません。

そのような、いわゆる妊娠しにくいという方には「最も弱い治療から開始し、妊娠するまで徐々に治療をステップアップして強くしていく」という治療方針をとっています。

患者さんもそのような治療を望まれる方 が多いですか?

辰巳 そうですね。おそらく多くの方が自然な形で妊娠したいと思っているのではないでしょうか。順番にステップアップしていくことで、最終的にARTによる治療をしなければならなくなったときも、納得して臨んでいただくことができると思います。

小田原 辰巳先生のクリニックでは、ステップアップの期間はどのように考えられていますか?

辰巳 まずタイミング指導を約半年間行って、妊娠されなかったら次に人工授精を半年程度。それでも結果が出なかった場合は、その時点で体外受精をご提案しています。

小田原 他の施設と比べて、一般不妊治療の期間を長めにとられていますね。特にAIH(人工授精)の期間が長いような気がしますが……。

辰巳 AIHはあまり回数をとらない施設も多いようですが、僕は非常に有効な手段だと考えているので重視しています。1回あたりの妊娠率は8%程度しかないのですが、繰り返しても妊娠率がそれほど落ちないんですね。

先日、手作業で1万例くらいのデータを分析してみたのですが、AIHでの妊娠率は1人あたり 30 %程度もありました。ある程度の回数をこなせば1回の体外受精と同じ、あるいはそれ以上の確率で妊娠できることを再確認したんです。精神的にも経済的にもAIHは体外受精よりハードルが低いので、その段階で妊娠されれば患者さんの負担も少なくてすみますよね。

小田原 トータル的に見て、一般不妊治療の結果はいかがですか。

辰巳 当院では平成3年から来院されたご夫婦の約6割の方が妊娠されているんですが、そのうちタイミング指導などの一般不妊治療で妊娠された方は約4割、人工授精まで考えた場合には6割以上という数字になっています。

小田原 それはかなり高い数字だと思います。初めて不妊治療の門を叩く方にとって、一般不妊治療というのは決して不要なものではないということをお伝えしたいですね。不妊だからすべて体外受精にしなければいけないということではないと……。

年齢が上がったことでARTが 増えてきたことも事実です

多くの方が一般不妊治療だけで妊娠されるのが理想だと思いますが、年々体外受精を受ける方が増えているのも事実ですね。

辰巳 10 年ほど前は体外受精で妊娠される患者さんは妊娠例の 25 %くらいだったのですが、最近では、 40 %近くにまで増えてきています。

小田原 ARTに対して抵抗がなくなってきたこともありますが、一番の原因は患者さんの年齢が上がってきたことではないでしょうか。

10 年前は来院する患者さんの平均年齢は 34 歳、それが今は 39 歳なんですね。年齢により、型通りの治療をステップアップしていく時間がない方も増えているということも事実です。 40 代から不妊治療を始めた方に長々とタイミング指導だけ続けていたら、妊娠できるべき方ができなくなるということになっても困りますし……。

辰巳 そうですね。やはり年齢の問題は大きいですね。当院の場合もあくまで自然な形でというのが基本ですが、年齢が上がるに従ってステップアップの期間を早めるご提案をするなど、柔軟な対応をとるようにしています。

そのような事情も含め、後悔しない不妊 治療を受けるために、患者側はどのようにすればいいのでしょうか。

小田原 今、いろいろな情報があるので迷われることも多いと思いますが、やはり医師や医療スタッフとよくディスカッションされることが大切だと思います。ちょっとでも疑問に思うことがあったら聞いて、それをその施設がどう考えているか納得しながら治療を進めていく。

辰巳 先生ときちんとコミュニケーションがとれるところがいいと思いますね。気がとがめてなかなか施設を移らない患者さんもいますが、疑問が多ければ早めに転院を考えてもいいのではないでしょうか。

小田原 医師側も判断に迷うケースがありますので、本当にその治療方針が正しいのかどうか、セカンドオピニオン的なことでいろいろな先生のお考えを聞くというのもあっていいと思います。

辰巳 医師としては患者さんに、今どのような状態で、どんな選択肢があるかということを最初にきちんと言ってあげなければいけないと思っています。

小田原 やはり、 ※ インフォームド・コンセントと自己決定権が重要。それぞれの治療のいい点と悪い点、その方にどれが合うかという見解も含めてお話しして、そのうえで患者さんが選択する。お互いに後悔しないためにはそれが必要だと思います。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。