不妊治療は夫婦、そしてドクターの3人が ベクトルを同じ方向に向けて進んで行くもの。
しかし、そのプロセスのなかで「夫婦の意見が違う」 「夫が向き合ってくれない」というような 夫婦のコミュニケーション上の 悩みを抱える人がほとんどのようです。
病院に行くまで、治療方針を決める際、 変更する際など、治療の過程で、 夫婦で話し合わなければならない局面は多いもの。
アイブイエフ詠田クリニックの詠田由美先生に どうしたら、もっと互いを理解し合えるのか、 その大切な部分を伺ってみました。
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【医師監修】詠田 由美 先生 福岡大学医学部卒業。日本産婦人科学会認定医。福岡大学病院不妊治療グ ループチーフ(福岡大学医学部講師)などを経て、1999年に開業。不妊治 療にかける熱い情熱に、患者さんからの信頼も厚く、すでに1万人以上の診 療を経験。A型・かに座。9歳から始め、一時中断していたクラシックバレエ を2年前から再開。時間を見つけてはスタジオでレッスンに励んでいる。
ドクターアドバイス
不妊治療は まずはパートナーシップ。 もう一度二人の関係性を 話し合うことが大切です。
ご主人に問題があった場合、 不妊治療を成功に導くケースは、 奥様の意志の強さがカギです。
不妊治療のゴールは妊娠ではありません。 子どもを社会に出すことです。 子育ては壁にぶつかることばかり。
治療も子育ても、父親、母親ともに ポジティブな気持ちで取り組んでほしいですね
不妊治療はパートナーシップ
ご夫婦両方に原因があり、一緒に治療を始めたジネラーさんで、「ご主人の理解が得られないために次のステップに進めない」という投稿がありました。
詠田先生 最近は、男女ともに妊娠の仕組み、閉経すること、年齢とともに卵の質が下がることなど、正しい知識をもっていない方が多いんです。
昔は今より家の中で〝性〞がオープンだったと思うんです。たくさんの子どもがいるなかで、母親が授乳している姿が普通だったり、初潮を迎えたらお赤飯でお祝いして家族に知らせるとか。いつしかそれを、隠すようになっていったんですね。
親も教えないし、一般的な知識を啓蒙するような教育システムもない。それですと、どんどん不妊は増えるばかりです。ご夫婦どちらにも原因がある場合、治療に即結びつける前に、「お互いの病気をしっかり治そうね」という気持ちで取り組めば、精神的な絆が深まると思います。
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まずは「病院に行く」ということにも抵抗を感じる夫に、悩む妻も多いようですが。
詠田先生 不妊治療はまずは、パートナーシップなんです。夫に言えない……という方もいらっしゃいますが、本当に自分の気持ちを伝えてみると意外にすっと受け入れられる場合があります。
また視点を変えて、二人の関係に向き合い、原点に立ち戻ってみることから始めてみると、もつれた糸もほどけてくるかもしれません。
たとえば患者さんのなかにはご主人との関係が従属的な方もいて、「私はもう 39 歳なので子どもが欲しいのですが、夫がまだって言うんです」と、おっしゃる方がいました。
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私は「あなたはそれでいいの? 後戻りはできないし、自分で物事を決めなくちゃいけない時もあるのよ。本当に子どもが欲しいと思うなら、子どもが何かをねだるときのように、ご主人の前で泣き叫んでみて」と。それを見たご主人は、「妻は取り乱して泣くくらい、真剣に子どもが欲しいと思っていたんだ……」と、そのとき初めて気づくかもしれません。
〝夫に従ういい妻〞の役を演じてチャンスを逃すより、欲しいものがあるのなら、何か一歩踏み出さないと。二人で話すなら、もう一度二人の関係性に向き合い「どうして二人は結婚したの? 好きだからだよね?」というところに立ち戻って、じっくり話し合ってもらいたいですね。
男性不妊が原因の時
一方、ご主人だけに不妊原因があり、治療を無理にすすめるのを悩まれているジネコユーザーの方もいらっしゃいます。
詠田先生 やはり夫婦間で、一度きちんと話をする必要がありますね。病院に行きたがらないご主人もいますが、それは婦人科に行くのが嫌なのかもしれません。男性の場合は泌尿器科でも検査が受けられるので、まずはそこからスタートしてみてはどうでしょうか?
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いずれにしても男性のほうに原因があるとはっきりした場合、往々にして男性のほうが傷つきやすくデリケートです。よく、夫に原因があるから妊娠できない、と〝悲劇のヒロイン〞になっている女性がいますが、女性がそうなることが男性をさらに傷つけ、追い込んでしまうことも多いです。
不思議なことに、男性に問題があった場合、妻が「私は何があってもあなたの子どもを産むから!」という意志の強さをもっていると、不妊治療がうまくいくケースが多いんですよ。この強さに男性は救われるんでしょうね。
子供を持つ、二つの意味
場合によってはご主人の精子がゼロで ※AID(非配偶者間人工授精)を選択することも考えられますが。
※AID:非配偶者間人工授精。対象者の状況や精子提供者、実施施設などにさまざまな適用条件がある。詳しくはかかりつけの医師に確認を。
詠田先生 AIDを選択しないと子どもができないとわかった場合、離婚するカップルもいらっしゃいますが、私はまず夫婦で子どもを作るのはどういうことか話し合ってほしいですね。
子どもを作ることは、二つの意味があると思うんです。一つは遺伝子が残るということ。そしてもう一つは教育をする、育てるということで親の経験や文化を次世代に伝えるということ。たとえ自分の遺伝子を受け継がせられなくても、AIDは愛する女性と子育ての経験ができるチャンスを作れるのですから、悲観的にばかり考えないでほしいですね。
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一方で私は、そこで諦めるという結論を出してもいいと思うんです。いいパートナーと出会い、いい人生を過ごすことが一番大切なのですから。
ご主人が治療に参加しやすく…
先生の病院では一緒に来られるご主人に対して、どういう接し方をしていらっしゃるのでしょうか?
詠田先生 まずはクリニックを作る際に 50 歳代の設計士さんと話し合い、「 50 歳の男性がいても自然なロビー」をテーマに、設計をお願いしました。男性、女性どちらがいても居心地がいいよう、モノトーンでシックな色合いを基調としました。コンシェルジュには男性もおり、男性患者さんの窓口としても対応をしています。
またご主人の検査をする場合は、検査結果を奥様に知らせていいか、という趣旨の委任状をきちんととります。夫婦であっても、ご主人の検査結果は奥様のものではありません。あくまでご主人のもので、そうすることで「自分のことなんだ」という意識ももってもらえたらと。
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まず来ていただいたご夫婦には、初診で妊娠の仕組み、睾丸と卵巣の機能にはじまり、何度も足を運ぶ必要がないように、検査の内容、治療の方針などをきちんとお話しします。そこでしっかり理解をしてもらえないと、次のステップへは進めません。夫婦と医師、三者が一つになって初めて不妊治療は成立するわけですから、信頼関係は重要です。
検査の結果が出て、ショックを受けられる方も多いのでは?
詠田先生 そうですね。難しいかもしれませんが、できるだけポジティブな思考をもってもらえるよう心がけています。原因がたくさん出てきた時は、包み隠さず「こんなに原因がありましたね。でも、これ以上の原因はもう出てこない、だから後は上に行くしかないですね」とお話しします。
私たちの仕事は「原因を見つけ、それに合わせた治療をする」こと。そして患者さんも事実を受け入れて、立ち向かっていく強さを持ってもらうこと。医師と患者さんが一つになってこそ治療は成立するんです。
男女が話し合って決めていく
先生はいろんなご夫婦をご覧になっていらっしゃいますが、不妊治療における夫婦の絆についてどう思われますか?
詠田先生 不妊治療は精神的にも肉体的にも金銭的にも負担がかかります。でも、治療のプロセスで、しっかり夫婦で向き合える、話し合って決めていく、こういうことってなかなか機会がないと思うんです。「あなたとの間に子どもが欲しい」。お互いにこの愛情のもとに接していれば、強い絆ができると思います。
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たとえばイギリスのデータによると、不妊治療の結果、妊娠してできた子どもはその発育段階で、親のいい影響を受けるそうです。これは不妊治療を通じて、家庭の中に「物事をきちんと話し合って決める」というコミュニケーションができていることが多いからだそうです。たとえ、結果的に子どもができなかったとしても、男女がきちんと向かい合って、互いを受け入れていく。これは素晴らしいことです。
ほかにも、不妊治療では原因をはっきりさせるためにさまざまな検査をしますが、その過程のなかで、たまたまがんや甲状腺の疾患などが
見つかることもあります。「こういう機会がなかったら早期発見できなかった」ということにもなるので、早めにスタートするにこしたことはないと思いますよ。
見つかることもあります。「こういう機会がなかったら早期発見できなかった」ということにもなるので、早めにスタートするにこしたことはないと思いますよ。