家族のカタチ(2)

「望んでいるのは妊娠することではなく、家族をつくること」

【これまでのあらすじ】33歳のとき、9歳年下の〝いも”と結婚した〝まぐ♪”。

年齢を考え、早めに不妊治療を始めたが、タイミング法、人工授精とトライするも妊娠に至らず、ついに体外受精へとステップアップ。

だが、結果は陰性だった―。

「妊娠、おめでとうございます!」

初めて臨んだ体外受精が陰性という結果に終わった日、病院で涙を抑えることができなかった〝まぐ♪”。その晩、元気を出そうと、〝いも”と二人で焼き鳥屋に食事に行くが、皮肉にもそこで悲しみに輪をかけるような出来事があった。

帰ろうとしたとき、店長が二人に焼き鳥の包みを差し出し、「妊娠、おめでとうございます!これ、よかったら食べてくださいね」と言ったのだ。

「だぼっとしたワンピースを着ていたし、お腹も腫れていたから妊婦に間違われたんだ。でも、まさかマイナス判定をもらった日にそんなことを言われるなんて…」違います、ってむきになるのも変だし、何も知らないこの人に当たってもしょうがない。あまりのタイミングの悪さに、逆におかしくて、思わずいもと顔を見合わせて笑ってしまった。

この出来事で逆に気分がすっきりしたまぐ♪は、気持ちを切り替え、2ヶ月後に2回目の体外受精に挑んだ。

別の道もあるかもしれない…

体外受精の2回目は、1回目よりももっと緊張する。一度撃沈しているから、そう簡単に妊娠できないとわかっているし、でももしダメだったら、またあのショックに耐えられるのだろうか?すごく怖かった――。

採れた卵は15個で、受精したのは10個。採卵から2日後、1回目と同じように通常より遅めの分割スピードの受精卵2つをお腹に戻した。残りの卵は「胚盤胞まで培養してください」とお願いしたが、すべて5日経つ前に分割が止まってしまい、全滅……。

そして妊娠の判定日。結果は陰性だった。「もう、何回やってもダメなのかな」前向きに治療に取り組んできたまぐ♪だが、2回目の体外受精の後、そんな思いが頭をよぎった。

ここまでの治療中、いもは何も言わなかった。「もういいんじゃない?」という言葉は一度も聞いたことがない。いつも変わらず、優しい笑顔でまぐ♪に接してくれていた。

今まで子どものことを二人で深刻に話し合ったことはなかったが、「もしかして、もう子どもはできないかもね。二人だけで暮らしていくか、それとも、別の道ってあるのかな……」というまぐ♪に、「そういう道もあるのかもね」と、いもが静かに答えた。自分は子どもを産みたいのか、それとも子育てしたいのか――。

どちらを望んでいるのか、ちゃんと考えたとき、まぐ♪は3人家族になりたいと思った。家族が欲しい……。たとえ血がつながっていなくても、家族になれるんじゃない?〝養子”については、一般的なイメージとしては頭にあった。不妊症の人たちが集う掲示板でもみんな、最後の保険のように語っていた。

「血がつながっていない子を育てる自信がない」「ダンナの子だから産みたいのに」掲示板ではそんな声もあったが、家族が欲しかったまぐ♪は、あまり抵抗を感じていなかった。自分が本当に求めているのは、妊娠の先にあるもの。「それなら、自分が産むことに、そうこだわらなくてもいいんじゃないかな」 母親にそのことを話すと、「考えられない」と激怒された。「人の子どもを育ててまで苦労を背負いこむことはないのでは」と。

しかし、いもに話すと、まぐ♪と同じ気持ちだったのか、養子という言葉にそれほど驚くことなく、「僕はいいよ」と言った。

治療を続けることで癒していた傷

家族をつくるために、別の道もある。でも、治療から逃げ出すような形はとりたくなかった。体外受精を2回したけれど、まだ「やるだけやった」という気持ちの踏ん切りはついていない。まぐ♪は、納得するまで体外受精に挑戦しようと決めた。

前回の失敗後からカウフマン療法を実施。次の採卵まで子宮と卵巣を完全に休ませ、コンディションを整えた。そして3回目の採卵。この回からは顕微授精にトライ。11個の卵が採れ、6個受精。3日後に4分割と8分割の受精卵を戻し、残りは長期培養をして、6日目に遅めの胚盤胞が1個できた。「遅くてもうれしい! 前回は全滅だったから」 だが、喜びも束の間、妊娠判定はまたしても陰性だった。

その後、また子宮を休ませた後、4回目の挑戦へ。「次の治療を始めれば、また妊娠への期待がふくらむ。その希望が撃沈して負った心の傷を癒してくれる」

ショックから立ち直るため、まぐ♪はたたみかけるように治療を続けた。お腹に戻した3個の卵に期待して2週間待ったが、結果は陰性……。

なぜここまでやっても一度も着床しないのか。まぐ♪は、主治医と相談して、腹腔鏡(ふくくうきょう)による検査をすることを決めた。しかし、検査結果は、右側の卵管が詰まっていたが、子宮内膜症も癒着もなく、特に妊娠を妨げる異常はないということだった。

〝夢の胚盤胞”が2個もできた!

体を少し休ませてから、5回目の体外受精の計画を立てる。次は妊娠率の高い5日目の胚盤胞を目指したい。そのために、排卵誘発法も培養液も変えたいと主治医に相談した。今、できるだけのことをすべてして、万全の態勢で臨みたかったのだ。

その甲斐があったのか、今回は5日目の胚盤胞が2個もできた。これを移植できれば、今までのどの挑戦よりも妊娠できる確率が高いのだ。まぐ♪は、すっかり親しくなっていた培養士さんと抱き合って喜んだ。この貴重なチャンスを生かすために、まぐ♪と医師は胚盤胞を凍結して、3ヶ月間体をしっかり休ませ、ベストな状態で胚移植に臨む予定を立てた。この3ヶ月間は、これまでの治療でも最も楽しく、ウキウキした期間だった。

「夢の胚盤胞が2個もあって、これを戻したらきっと妊娠できるはず!」でも、移植する日がだんだん近づいてくると「これで戻してダメだったら……」と怖くなり、まぐ♪の心の中は不安でいっぱいになってきた。

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