家族のカタチ(最終回)

不妊治療を通して大切なことに気がついた、夫婦がつくる家族のカタチ

【最終回】【これまでのあらすじ】

不妊治療を受けながら、養子という選択も考え始めていた〝まぐ♪” と〝いも”5回目の体外受精を終えた後、気持ちが吹っ切れ、児童相談所で里親登録の申し込みをする。

同時期にNPO法人「環の会」の説明会にも出席し、その考え方に共感し、結局、児童相談所は断り、「環の会」に子どものための縁組を申請することに。

厳しい面談を終え、ドキドキしながら待つ二人の元に、念願だった育ての親の新登録申し込み用紙が届く――。

待ちに待った「子育て研修」

登録申し込み用紙をもらって1ヶ月後、「育て親研修」を受けることになった。内容は、子どもを迎えるにあたっての心構えや、養子というものに対する間違ったイメージの払拭だ。「何を甘えて生きているの? 子どもを迎えたら責任があるのよ。そのままじゃダメでしょ」という厳しい言葉もかけられたが、充実した研修だった。同じ研修に参加した夫婦とも子どもの話で盛り上がる。

「もしかしたら、私たちの子どもはもうどこかにいるのかもしれない。運命の子はきっといるよね」

しかし、研修に参加して登録できたからといって全員が子どもを迎えられるわけではない。育ての親は子どもを選ぶことができないが、産みの親は育ての親を選ぶことができる。

産みの親の出す条件によって、なかなか縁がない場合もあるのだ。道のりはまだ遠く、次は家庭訪問をクリアしなければならなかった。ところがなかなか連絡がなく、電話の前で待ち続け、結局、連絡がないといもにグチをぶちまける日々…。 「うちはダメなのかも…」まぐ♪はかなり焦っていた。会のシンポジウムにも参加し、もう一度夫婦で努力しますと熱意も伝えた。

その翌日、電話が突然鳴った。「家庭訪問に伺いたいんですけど」訪問日は今日。いもに会社を早退してもらい、急きょ家に帰ってもらった。緊張していたが、会の代表の方に家を見てもらったり、近所の学校や病院の説明など、家庭訪問は無事に終わった。

そして、その3日後、いもの勤務先に子育て研修の知らせが――。「子育て研修」とは子どもを迎えることになった場合、専用の施設で子どもと3日間過ごす研修のこと。そこでオムツ替えなどの子育てのノウハウを教えてもらう。終了後には子どもを連れて我が家へ帰る。つまり、子育て研修の知らせは「子どもを迎えられますよ」という意味なのだ。

「ホントに? ホントに? 夢じゃないよね。どんな子だろう? 会ったら泣いちゃうかも!」

運命の子〝ぷー太”との対面

まったく眠れないまま朝が来た。施設に着き、部屋に通されてしばらくすると、コンコンとノックする音がしてドアが開いた。その瞬間からまぐ♪は涙で前が見られなくなった。職員の方が赤ちゃんを抱っこして中に入ってくる。

「青い服を着てる!男の子だ!私たちの運命の子だ!」
「ぷー太くんです。32ヶ月になりました」
おしゃぶりをくわえ、目をクリクリさせた、ちょっぴりプクプクな男の子。涙が止まらないまぐ♪に代わって、いもが先に抱っこをした。

「へへ、かわいい…」
「やっと会えたね」
そう言って抱きしめて、それから三人は家族になった。

「苦しかった不妊治療の日々も、すべてはこの子に会うためだったんだなぁ…」 これまでのつらい思いはぷー太の笑顔でかき消され、まぐ♪はしみじみと喜びをかみしめた。

ミルクのあとのゲップもうまくさせられない、新米父と母の二人も何とか研修を終え、三人で自宅に帰った。ようやく家族での生活が始まるが、まだまだやらなければいけないこと、クリアしなければいけないことが山のようにあった。

転入届、いもの扶養にまだなれないぷー太の国民健康保険の手続き、乳幼児医療証や児童手当の申請…。そして、本当の家族になるためには、「特別養子縁組」の申し立てをしなければならないのだ。委託期間の3ヶ月を少し過ぎた頃、会からその書類が送られてきた。

審判が下り、本当の家族に

普通の養子縁組と違い、特別養子縁組は家庭裁判所の審判が必要となる。期間も少し長いが、これが決まればぷー太は〝養子”ではなく、いもとまぐ♪の〝長男”になるのだ。家庭裁判所に申し立てをした後、いよいよ裁判が始まった。裁判は二人の審問、産みの母親の審問、家庭訪問、審判という流れで進んでいく。

「もう手放して半年以上だし、裁判も始まっているから、産みのお母さんは育てたいって言わないよね」

「そうなったら、二人で土下座しても〝ぷー太を育てさせてください”って何度でもお願いしよう」

裁判の間も、まぐ♪といもの心には不安な気持ちが残り続けた。申し立てをしてから4ヶ月、最後の段階である家庭訪問の日が来た。まぐ♪がおそるおそる産みの母親のことをたずねると、同意はとれたという。その後、無事に審判が下り、ようやく特別養子縁組が確定する。

その日の夜はお赤飯を炊いた。いももうれしくて、ぷー太がせがむお馬さんを何回もしてあげた。そして2日後には戸籍謄本ができた。

[父:いも]
[母:まぐ♪]
[続柄:長男]

「ぷー太と出会えてから1年と少し。長かった…。ずっと一緒だね。ぷー太、私たちの大切な子 ―」

5年経った今も、まぐ♪は養子縁組で子どもを授かったことを大切に感じている。

「不妊治療のことはいっぱい書いてあっても、養子縁組に触れている情報ってほとんどない。家族が欲しい、子育てがしたいという場合、治療だけでなく、養子縁組というもう一つの選択肢もある。諦める前にこういう家族の形があることも知ってほしいと思います」

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