りーちゃんさん(37歳)
2026年10月現在、不妊治療で採卵13回、移植5回です。
4回目の移植で一度陽性が出ましたが、稽留流産でした。
最初の専門クリニックでは自費診察を勧められ、連続採卵をしましたが、8回の採卵で胚盤胞は4つでした。
3回目の移植で2個移植をして陽性でしたが、稽留流産でした。
自費診察のためかなり高額で、結果も伴わないため、保険診療で行ないたいと考えて別の専門クリニックに転院しました。
そこで採卵4回で、できた胚盤胞は2つ。2個移植をしましたが、陰性でした。
サプリ摂取や食生活改善、運動、鍼灸に通うなど治療以外で自分ができることは取り組んできました。
このまま同じ治療(2こ移植、胚盤胞凍結)を続けていて、妊娠できる可能性はあるのでしょうか。
このような場合では、初期胚移植を検討する価値はありますか?
治療方針を変えたり、再び自費診療の連続採卵に戻ったり、転院も選択肢に入るのか…。
どのような方法が考えられますか?
まるたARTクリニックの丸田 英先生に伺いました。

久留米大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院 産婦人科を経て、2012年3月より生殖医療専門。2020年3月、まるたARTクリニックを開業。初診から治療終了まで同じ医師が担当することにより、効率的で高い成功率が得られ、何より患者さまの安心へと繋がると考え、診療に臨んでいる。「どんな時も患者さま第一、患者さまご自身の一瞬一瞬を大切に」を目標に掲げ、不妊治療と仕事の両立に理解ある治療スケジュールを導入。また、PRP療法などの最新治療や無料託児所完備等、不妊治療の環境向上にも積極的に取り組んでいる。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
【質問1】これまでの治療方針で妊娠に至らない原因は何が考えられますか?
最も大きな原因は「胚の数と染色体」で、それを「胚の使い方と時間の設計」が増幅していた、と考えます。子宮側と精子側は補助的な要因です。AMH0.22の卵巣では、採卵1回あたりの胚盤胞は約0.5個で、これは最初のクリニックでも2つ目のクリニックでも同じでした。つまり治療の巧拙ではなく、患者様の卵巣の実力がこの数字です。37歳前後では胚盤胞の約45%が染色体正常ですので、これまでの胚盤胞6個に含まれる正常胚は期待値で2〜3個。妊娠は1回でしたから、確率から大きく外れた結果ではありません。「運が悪かった」のではなく、「正常な胚にたどり着くまでの母数が足りていない」のが本質です。
【質問2】初期胚移植に変更する価値について、先生のご意見を教えてください。
結論から申し上げると、この状況では原則としてお勧めしません。胚が途中で発育を止める理由の多くは、培養環境ではなく胚そのものの問題(染色体異常など)です。「培養液では止まるが子宮なら育つ」胚はごく一部で、初期胚移植にすると移植の回数は増えますが、出産にたどり着く胚の数はほとんど増えません。1個あたりの着床率も、初期胚は胚盤胞の半分程度です。胚を貯める時間の設計が崩れます。
移植を挟むと、その周期の採卵は止まります。胚盤胞が0.5個/回しかできない方にとって、貯める段階で移植を混ぜることは、時間の密度を下げる方向に働きます。
【質問3】保険診療と自費診療のどちらが妊娠の可能性を高めるでしょうか?
37歳、AMH0.22、移植2回以上不成功、流産1回では、自費で「連続採卵+PGT-A」を組む設計のほうが、妊娠の可能性を高めると考えます。ただし、それは「自費だから」ではなく「設計が変わるから」です。
・保険で続ける場合:月1回の採卵で胚盤胞は月0.5個ペース。2個移植1回分を集めるのに4〜5か月、1年で移植2〜3回。移植あたりの出産率は3〜4割で、陽性のうち2〜3割は流産になります。その1年の間にも卵巣機能は下がっていきます。
・自費で設計を変える場合:3か月で9回の採卵を目指し、胚盤胞4〜5個が見込み。PGT-Aで正常胚が2個前後見つかれば、1個ずつの移植で1回あたり出産率6割前後。6〜8か月で出産に至る可能性は、通算で5〜6割と見込みます。
どちらも妊娠を保証するものではありませんが、「時間」と「流産リスク」の2点で差がつきます。AMH0.22・周期25日の方にとって、時間は最も大きな要因です。
【質問4】現在の治療法以外に検討すべき方法があれば教えてください。
「連続採卵」「PGT-A」「1個ずつ移植」が軸になります。それ以外では、
①子宮の精査と前処置
生理痛が重い点から、子宮腺筋症・子宮内膜症の評価(超音波、必要ならMRI)を最初に行います。腺筋症があれば、移植前にGnRHアゴニストで子宮を一定期間休ませてから移植する前処置が有効です。第一子が帝王切開であれば、瘢痕部に液体が溜まっていないかを子宮鏡や超音波で確認します。
②着床・流産に関わる検査
慢性子宮内膜炎(CD138)、子宮内フローラ、免疫(Th1/Th2比、ネオセルフ抗体)、抗リン脂質抗体などの不育症検査です。一度流産されていますので、正常胚を移植する前に整えておく価値があります。異常があれば、抗菌薬・乳酸菌、タクロリムス、ヘパリン・アスピリンなどで対処します。これらの多くは保険診療中には併用できない検査です。
③精子の条件を整える
HDSが低めですので、ピクシーは継続。精子は持参ではなく院内採精、禁欲期間は1〜2日に短くします。精索静脈瘤があればHDSや胚盤胞到達率に影響しますので、当院の泌尿器科医による評価もお勧めします。
④移植周期の選び方
周期が規則的で排卵もある方ですので、ホルモン補充周期だけでなく、ご自身の排卵を利用する周期での移植も選択肢です。排卵周期のほうが流産率や妊娠高血圧のリスクが低いという報告があります。ただし腺筋症があればホルモン補充周期での管理が優先です。
⑤移植時の追加
子宮内膜PRP、GM-CSFなど着床率の向上が期待できる方法を、正常胚を移植する際に組み合わせることができます。
⑥卵巣PRP
当院で行っている治療ですが、効果が出るまで2〜3か月かかります。今の患者様にとって最優先は採卵の時間密度ですので、「先にPRPをして待つ」のではなく、3か月の連続採卵で採れる卵の数が見込みを下回った場合に、次のクールの前に検討する位置づけです。
【質問5】連続採卵に戻ることや転院のメリットについてご意見をお願いします。
連続採卵に戻ることには賛成です。ただし「以前と同じ連続採卵」に戻るのではなく、設計を変えて戻ること。転院については、転院そのものにメリットはなく、「今の施設で組めない設計が組めるかどうか」で決まる、というのが私の意見です。最初のクリニックでの連続採卵は、方向として正しかったと思います。8回で胚盤胞4個という結果は失敗ではなく、患者様の卵巣の実力通りの数字です。うまくいかなかったのは「貯めた後の使い方」であって、「貯め方」ではありません。
今、戻る理由は時間です。37歳・AMH0.22・周期25日という条件では、1周期1採卵で貯まる速さより、卵巣機能が下がる速さのほうが勝ちます。月3回の採卵で3か月に9回という密度は、この差を逆転させるための唯一の方法です。転院は手段であって目的ではありません。今通われている施設で、次の4点が組めるのであれば、転院の必要はありません。
●黄体期ランダムスタートで月3回の連続採卵ができるか
●PGT-Aを実施できる施設か
●腺筋症・慢性子宮内膜炎・免疫の検査と前処置を、採卵と並行して行えるか
●採卵回数が増えても費用が膨らまない仕組みがあるか
【質問6】最後に、検査・治療データをみて気になるところがあれば教えてください。
1. 稽留流産の原因が確認されているか
2. 生理痛の重さと月経周期25日
3. 採卵13回で胚盤胞6個、の内訳
4. 精子のHDSと採精の条件
5. 基本的なホルモン・栄養の確認
◆安心材料として
一度妊娠されている事実は、子宮が胚を受け入れられることの証明です。精子のDNA断片化は良好、体格も適正、周期も規則的で、これらは治療設計を複雑にしない要素です。問題は「卵の数」に集約されており、それは設計で補える種類の問題です。