Q 夫 54 歳、精子奇形率 99 ・ 7 %。 赤ちゃんを授かる希望は?

内田昭弘先生 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、 1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。 1997 年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が 副院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カ ウンセリングとサポート体制が充実している。
あいさん(36歳)からの相談 Q.結婚して2年目、避妊をやめて1年半です。夫は54歳で、 喫煙歴20年以上でしたが、この1年禁煙しています。運 動嫌いで、少々肥満ぎみのBMI値です。去年からエスプレッ ソを、1日3杯くらい習慣的に飲んでいます。今月、初めて 精液検査を行い、精子奇形率99.7%、運動率14%、正 常精子率0.3%でした。私はクリニックの検査結果から異常 所見は出ておらず、たまに排卵が遅れますが、年齢相応の健 康状態です。健康な赤ちゃんを出産できる可能性は残されて いるのでしょうか? 重度の奇形率と年齢を考慮して、生活習 慣を改善して状況がよくなることはありますか? 喫煙、コー ヒーなど精子奇形の原因になりますか? 夫の年齢が高いの で、赤ちゃんの将来の苦労を気にかけています。

ご主人の 54 歳という年齢を、先生はどのよ うに考えますか?

内田先生 年齢には、身体的年齢と社会的年 齢があると考えます。まず社会的年齢の問題 を考えてみましょう。定年は延びて、今は 60 ~ 65 歳が多いですが、 65 歳定年とすると子 どもが 20 歳になったら父親は 74 歳。それで も望むのであれば、子どもに苦労をかける かもしれないことを前提に、経済面の問題 も二人でよく話し合い決心すること。そして、 周囲のご兄弟や親戚にも、その意思を伝え ておくことがあっていいと思います。

身体的年齢はどうでしょうか?

内田先生 女性は、閉経という身体的な限 界がありますが、男性にも限界があるとい う見方をすることが必要だと思います。男 性は、セックスさえできればと思いがちで すが、年齢からくる精子の問題は大きいで す。世界保健機関(WHO)の基準は、正常 な精子の割合が4%あれば 96 % 奇形精子で も妊娠は可能となっています。ご主人は 99 ・7 %で明らかに奇形精子が多く、治療をす るべき状況にあり、年齢的にものんびりし ていられないですね。

先生はどんな治療を提案しますか?

内田先生 人工授精から始め、 1 回目の精子 の条件により 2 回目を考えます。検査の時と 変わらず奇形精子が多ければ、ご夫妻の選 択で体外受精もしくは顕微授精へ進みます。 精子と卵子がある限り、妊娠の可能性はゼ ロではありません。

精子の質にかかわる習慣はありますか?

内田先生 コーヒーはカフェインの問題が 指摘されていますが、 1 日に2~3杯はい いと思います。タバコは、やめても吸う以 前の体に戻れませんが、やめて妊娠を目指 していくことは、ご夫婦の生活のなかでと ても大切なことです。

精子の状態の改善方法はありますか?

内田先生 妊娠を目指す際には、新鮮な精子を使うことが重要。禁欲期間が長いと精 子頭部の遺伝情報にキズがついて、壊れて しまうことがあると言われています。やはり、 禁欲期間を長くせず、できるだけ射精する ことが精子をいい状態にする方法の一つで はないでしょうか。

精子の遺伝子異常は遺伝しますか?

内田先生 遺伝する場合があるとされてい ます。遺伝子の中には精子をつくるために絶 対に必要な遺伝情報があります。その遺伝情 報が欠失していると精子がつくられません が、欠失の程度によってはごく少数つくら れる場合があります。その精子で顕微授精 をすることで妊娠を目指すことは可能です。

男女を決定するのは精子なので、男性 になる精子をつくるために必要な遺伝情 報が欠けていると、同じように精子がつ くりにくいという問題が遺伝する可能性 があるとされています。

ご主人のような奇形精子が多くなる病 態にも遺伝情報の異常が関与している可 能性はあります。最近では、「すべての病 気が遺伝情報により決まっている」と言 われることもありますが、今のところ明 らかな遺伝情報の関与の報告はなく今後 の研究が待たれます。

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