【Q&A】採卵成功率向上のための治療戦略について〜松浦 俊樹先生【医師監修】

きなこさん(32歳)

段々と自分でも自分の状況が分からなくなってしまいました。
11個も移植し、自費検査も網羅しました。
この年齢で全ての卵に異常があるのかな?と感じたり、色々な側面での不安が募っています。

そして「自費だし、もう最後にしよう」と信じて、4院目(セカンドオピニオン)でタクロリムスやPGT-Aの話を聞いて、転院したのですが、自費採卵を2回して、2回とも凍結ができませんでした。
胚盤胞にならなかったのは初めてで、自身でも本当にショックでした。
次はサプリメントを全てやめること、ダブルトリガーにすることを医師から提案されています。

ちなみに採卵8回の内、トリガーは全てブセレリン、取れる卵子は15個前後。
アンタゴニスト2回、PPOS6回経験済みです。
自費採卵の2回胚盤胞にならなかった時は、E2が1500・2050と個人的に低いかな…?とだけは感じていました。(いつも3000弱行きます)
自費採卵2回目は高刺激にしよう!とゴナペン225✖️9daysを毎日打っていました。最終的な成熟卵MⅡは5個でした。

①自身は次どのような戦略で治療をしていけば良いのか?
②PGT-Aまで辿り着けない場合は、初期胚移植を検討しても良いか?
③PCOSな分、自己の中では刺激を強くしたり採卵日を後ろに倒したりE2を高くし成熟卵を獲得するやり方が向いているのではないかと考えているが、どうか?
④培養技術の相性は本当に存在するのか?

相談内容が長くなり本当に申し訳ございません。
夫も私も切に子供が欲しいと懇願しております。
これまで全てのクリニックに良くして頂き、常に全力でぶつかってきました。
自費治療に突入し、やはり金銭面の点がネックで今のクリニックで先生たちにすごく良くして頂いているのですが、これ以上の高刺激には積極的ではない点と培養技術が合っていないのかな?と感じてる点…加えて2回ダメで3回目またダメだったら…と少し怖くなってきております。

アクトタワークリニックの松浦 俊樹先生に伺いました。

【医師監修】アクトタワークリニック 松浦 俊樹 先生
2002年に渡米、アメリカでリサーチフェローとして生殖医療の基礎・臨床研究に従事し、最先端の体外受精、胚培養技術について学ぶ。帰国後、加藤レディスクリニック、浜松医療センター新生児科などを経て、浜松医科大学附属病院助教に。2013年7月、アクトタワークリニック開設。「人間の本来持っている妊娠力を生かす治療」を基本とし、「妊娠できる不妊治療」を追求する。女性不妊はもちろんのこと、自身の手で顕微授精やTESE等の施術まで行えるため、女性だけでなく、多くの男性患者からも信頼を寄せられる。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

【質問1】この状況での次の治療戦略について、先生でしたらどのような提案をされますか?
初めにお伝えしたいのは、32歳という年齢で、これまでの採卵では実際に複数の胚盤胞が得られていることから、「もともと卵子の質が非常に悪く、胚盤胞ができない体質である」と直ちに考える必要はないと思います。
実際、これまでの治療では1院目で7個、2院目で7個、3院目で5個と胚盤胞が得られています。それにもかかわらず、直近2回の採卵だけ胚盤胞まで到達しなかったのであれば、私はまず、「何をさらに追加するか」よりも、過去に胚盤胞が得られていた採卵周期と直近2周期との違いを詳細に比較します。
具体的には、
①刺激開始時の卵胞数と大きさ
②使用したFSH/HMGの種類と投与量
③刺激日数
④トリガー当日の各卵胞径
⑤E2・LH・P4・FSHの値
⑥トリガー方法と採卵までの時間
⑦採卵数
⑧成熟卵(MⅡ)率
⑨正常受精(2PN)率
⑩Day2~3までの分割状況
⑪Day4~7の胚盤胞到達率
という順に確認します。

今回、特に気になるのは、15個前後の卵子が採れていた方で、直近の高刺激周期では成熟卵MⅡが5個にとどまったという点です。もし採卵数に対してMⅡ率が明らかに低下しているのであれば、培養以前に「卵子の最終成熟」の段階を検討する必要があります。また、以前の治療で卵巣予備能力が低下していることも考えられます。ゴナペンの量を増やしても良質な卵子が得られるとは限りません。
これまでトリガーがすべてブセレリンとのことですので、次周期にダブルトリガーを検討するという現在の主治医の先生の方針には一定の合理性があると思います。特に過去の周期と比較して成熟卵率が低下しているのであれば、トリガーの種類、タイミング、トリガー時の卵胞径、必要に応じてトリガー前後のLHなどを確認し、最終成熟を改善できないか検討する価値があります。ただし、PCOSではOHSSのリスクが高いため、hCGを加えるダブルトリガーを「強ければ強いほど良い」と考えるべきではないでしょう。採卵数や卵胞数、E2値などをみながら慎重に投与量や投与時間を判断する必要があります。また、サプリメントについては、種類を増やすほど採卵成績が向上するという十分な根拠はありません。特にDHEAはすべての患者さんに必要なものではなく、PCOSでAMHも高い今回のケースでは漫然と使用する必要はないと考えます。葉酸、必要に応じたビタミンD程度に整理するという現在の先生の提案は妥当だと思います。私であれば、次の1回は闇雲に刺激量を増やすのではなく、「過去に胚盤胞ができていた周期を再現する」ことを基本にしながら、卵胞のそろい方と成熟卵率を改善することを第一目標とし、採卵数の量を増やすのではなく卵子自体の質を上げる治療を目指します。

【質問2】PGT-Aまで進めない場合、初期胚移植を考えるべきだと思われますか?
選択肢の一つとして考えてよいと思います。ただし、私は最初から「胚盤胞にならないので、すべて初期胚で戻しましょう」とするのではなく、もう少し原因を整理してから判断します。PGT-Aを行うためには原則として胚盤胞まで培養する必要があります。そのため、胚盤胞形成が得られない状態では、当然PGT-Aそのものに進むことができません。
一方、初期胚移植には「体外でDay4~7まで培養する前に子宮内へ戻せる」という利点があります。採卵できる卵子や受精卵が少ない周期、あるいは良好な受精卵が繰り返し胚盤胞まで到達しない場合には、Day2~3での凍結や移植を検討すること自体は合理的です。ただし、「培養器の中では育たない胚でも、子宮内に戻せば必ず育つ」ということが証明されているわけではありません。一般的には、胚盤胞まで培養することで発育能の高い胚を選択できるというメリットがありますので、十分な数の良好胚がある場合には胚盤胞移植が基本になります。
また、二段階移植を行う目的で初期胚を保存することも良いかと考えます。今回のケースで重要なのは、以前の施設では何度も胚盤胞まで育っているという点です。そのため、2回胚盤胞にならなかったという事実だけで「この方は初期胚移植しかない」と判断する必要はありません。私であれば、まず次回の採卵で成熟卵率・正常受精率・Day2~3までの分割をタイムラプス等で詳しく解析します。そのうえで、良好な初期胚が存在するにもかかわらず、その後の胚盤胞到達率だけが繰り返し極端に低いのであれば、初期胚を一部凍結しておく、あるいは初期胚移植または二段階移植を試すという選択肢を患者さんと相談します。
つまり、「PGT-Aができなければ初期胚移植」という二者択一ではなく、胚の数や発育経過に応じて、胚盤胞培養する胚と初期胚で保存する胚を分ける方法も含めて検討してよいケースだと思います。

【質問3】PCOSを考慮した場合、強い刺激や採卵日を調整して成熟卵を得る方法について、先生の見解をお聞かせください。
PCOSだから刺激を強くすれば成熟卵が増える、あるいはE2を高くすれば卵子の質が良くなる、という単純な関係ではないと考えています。PCOSでは卵巣予備能が高く、多数の小卵胞が発育しやすい一方で、卵胞径や卵子の成熟度にばらつきが生じることがあります。そのため、刺激量を必要以上に増やすことよりも、卵胞群をできるだけそろえ、適切なタイミングで最終成熟を促すことが重要です。
また、採卵周期前の月経周期の管理を適切に行うことで良質な卵子が得られることがあります。今回、E2が1500、2050だったとのことですが、E2の絶対値だけで刺激不足とは判断できません。E2は発育卵胞数や卵胞径によって大きく変動するため、以前3000程度だったから今回も3000以上を目標にすべき、という治療方針では良質な卵子が得られるわけではないと考えます。
一方、ゴナペン225単位を9日間使用して成熟卵MⅡが5個だった点については、採卵数に対する成熟卵率、トリガー時の卵胞径の分布、刺激日数などを詳しく確認する必要があります。私自身は、採卵前の最終成熟にhCGやオビドレルを積極的に使用するという考え方は取っていません。自然周期における排卵は、下垂体から分泌されるLHサージによって引き起こされます。
一方、hCGは本来、受精・着床後に産生されるホルモンであり、自然な排卵過程において妊娠前に分泌されるホルモンではありません。もちろん、hCGはLHと共通のLH/hCG受容体に作用するため、生殖補助医療では長年、卵子の最終成熟を目的として使用されてきました。しかし、hCGとLHでは体内での薬物動態が大きく異なります。特に重要なのは、hCGはLHと比較して血中半減期がはるかに長く、LH/hCG受容体に対する刺激が長時間持続するという点です。 生理的なLHは比較的短時間で代謝されますが、hCGは数十時間単位の長い半減期を有します。オビドレル(遺伝子組換えhCG)も同様に長い消失半減期を有しています。したがって、hCGを「生理的なLHサージを単純に置き換えるもの」と考えることには、私は慎重です。同じ受容体に作用するとしても、短時間の生理的LHサージと、長時間にわたり作用するhCG刺激とでは、卵巣が受ける刺激の時間的な性質が異なるからです。特にPCOSのように多数の卵胞を有する患者さんでは、hCGによるLH/hCG受容体への刺激が長時間持続することが、OHSSの発症・遷延につながることはよく知られています。
この点からも、成熟卵を増やすという目的だけでhCGやオビドレルを追加することには慎重であるべきだと考えています。
また、私は体外受精を開始する以前の治療歴も重要だと考えています。タイミング療法や人工授精の際に、排卵を促す目的でhCGやオビドレルを繰り返し使用している患者さんでは、長期間にわたって遺残卵胞や変性卵などが認められることがあります。こうした長時間作用するhCGを繰り返し使用した後に遺残卵胞を認める症例では、次周期の卵胞発育が不均一となり、その後の採卵における卵子の成熟度や質に影響している可能性についても、私は臨床上考慮しています。そのため体外受精を開始する際には、採卵周期だけを見るのではなく、それ以前のタイミング療法や人工授精で、hCGやオビドレルなどの排卵トリガーがどの程度使用されていたかについても確認することが重要だと考えています。
私は、生殖医療では本来の生理的なホルモン環境を尊重することが重要だと考えています。もし排卵前のhCG刺激が人の生殖に本来必要不可欠なものであれば、生理的にも妊娠成立前からhCGが分泌される仕組みになっているはずですが、実際にはそうではありません。その意味からも私は、単に成熟卵数を増やす目的でhCGやオビドレルを追加することは特に考慮すべき治療だと考えています。今回のようなPCOS症例では、まず刺激量をさらに増やすことやhCGを追加することよりも、卵胞径のそろい方を確認し、必要であれば刺激期間や採卵時期を微調整しながら、GnRHアゴニストによって内因性のLHサージを誘導し、成熟卵を得る方法を優先したいと考えます。
したがって、「PCOSだから高刺激にする」「E2を高くする」「成熟卵が少なかったからhCGを追加する」と考えるのではなく、過去に良好な成熟卵・胚盤胞が得られた周期と比較しながら、卵胞発育と採卵時期を個別に調整していくことが重要だと思います。

【質問4】培養技術の相性が存在する可能性について、先生のご意見をお伺いしたいです。
「患者さんと培養室との相性」という言葉を医学的に証明することは難しいのですが、施設によって培養成績に差が生じる可能性自体はあります。胚培養の結果には、培養液、インキュベーター、酸素濃度、温度・pH管理、ICSIの手技、卵子を操作する時間、培養室の環境、胚評価基準、Day4・5・6・7のどこまで培養するか、凍結可能と判断する胚盤胞の基準などに加え、先進医療として厚生労働省から認可を受けているタイムラプス、IMSI、PICSI、膜構造を用いた生理学的精子選別術などの技術をどうやって活用していくのかなど多数の培養技術があります。したがって、同じ患者さんでも施設によって「凍結できた胚盤胞数」が多少変わることは十分にあり得ます。
ただ、今回のケースでは「培養技術が悪い」と直ちに判断するのも適切ではありません。最も重要なのは、胚がどの段階で止まっているかです。例えば、採卵した卵子の多くが未成熟であれば、培養室よりも刺激・トリガーを含めた卵子成熟の問題をまず考えます。MⅡは十分なのに正常受精率が低いのであれば、卵子・精子・ICSIなどを検討します。正常受精率も良好でDay2~3まではきれいに分割しているにもかかわらず、Day4~6で一斉に発育停止しているのであれば、その段階ではじめて胚自体の発育能や培養条件についてより詳しく考えます。
今回は、過去3施設では複数の胚盤胞が得られており、直近の施設で2周期連続して胚盤胞凍結がゼロになったという経過ですので、少なくとも「なぜ急に成績が変わったのか」は検討する価値があります。もちろん、治療歴や年齢を経るほど採卵数、受精率、胚盤胞発生率は低下します。ですから、2周期だけで施設の培養技術を評価することもできません。採卵ごとの卵子の状態には偶然の変動もあります。
したがって、転院するかどうかを決める前に、現在の施設で、採卵数、MⅡ率、2PN率、Day2~3良好胚率、Day4~7胚盤胞到達率を教えていただき、過去の施設のデータと比較してみることをお勧めします。その比較によって、「成熟卵の段階から低下している」のか、「受精後の培養段階でのみ低下している」のかが分かれば、次回以降の治療方法についての参考になる場合があります。

【質問5】最後に、検査・治療データをみて気になるところがあれば教えてください。
私がこの経過を拝見して最も気になるのは、「胚盤胞ができないこと」だけではありません。むしろ、これまで11個の胚を移植して5回hCGが陽性になっているにもかかわらず、いずれも胎嚢確認に至っていないという点です。これは「全く着床していない」状態とは少し違います。少なくとも5回は胚が着床過程に入り、hCGを産生するところまでは進んでいます。そのため、単純に「着床障害」という言葉だけで整理するより、「なぜ妊娠反応は出るのに、その後の発育が継続しないのか」という視点も重要です。
原因として最も頻度が高いものの一つは胚の染色体異常ですが、32歳という年齢を考えると、移植したすべての胚が染色体異常だったと判断することもできません。胚移植前に行うアシステッドハッチングと呼ばれる透明帯の処理方法を変更することにより、妊娠継続率が上昇することがあります。PGT-Aについても、32歳のすべての患者さんに行えば最終的な累積出生率が必ず上がると証明されているわけではありません。
ただ、これだけ移植回数が多く、化学流産を繰り返していることから、「移植する胚側の要因を確認する」という目的でPGT-Aについて相談すること自体は十分理解できる選択だと思います。一方、これまで行われたCD138、子宮鏡、ERPeak、フローラなどがすべて正常であったとのことですので、「検査が正常だったから、さらに別の特殊検査を次々追加すれば原因が分かる」とは限りません。タクロリムスなどの免疫療法についても、一部の限られた患者さんを対象とした報告はありますが、反復着床不成功に対する標準治療として有効性が確立しているわけではありません。副作用を伴う治療ですので、明確な適応なく経験的に使用することには慎重であるべきだと思います。
尚、最近ではPFC-FD療法といった再生医療の技術を応用して子宮内膜の受精卵の受容能を向上させる治療が行われることがあります。また、「血液検査3項目に引っかかったためバイアスピリンを処方された」とありますが、何の検査が陽性であったのかはぜひ確認してください。特に抗リン脂質抗体が明確に陽性で、抗リン脂質抗体症候群の診断基準を満たすのか、それとも妊娠との関連が十分に確立していない検査の軽度異常なのかでは意味が大きく異なります。検査名と実際の数値を確認したうえで治療方針を決めることが重要です。
必要に応じて、甲状腺機能、子宮形態、抗リン脂質抗体、夫婦の染色体検査を行っているかなど、基本的な項目も一度整理してよいと思います。
ご主人についてもDFIが正常とのことですので、その結果は安心材料です。左精索静脈瘤については、DFIを含めた精液所見が良好であれば、今回の経過だけを理由に直ちに手術が必要とは考えません。また、凍結精子を使用すること自体が、今回のような経過の主原因であると考える必要もありません。この症例で一番大切なのは、治療をさらに複雑にすることではないと思います。32歳で、過去には繰り返し胚盤胞を作ることができています。
したがって私は、「すべての卵子の質が悪い」と悲観する状況ではないと考えます。次回は、まず採卵から胚盤胞までを一つの結果として見るのではなく、
採卵数 → MⅡ数 → 正常受精数 → Day2~3良好胚数 → 胚盤胞数
という各段階に分けて確認し、どこから成績が低下しているのかを明確にすることが大切です。そのうえで、成熟卵率が問題であれば刺激法・トリガー・採卵時期を調整し、良好な初期胚まではできるのに胚盤胞形成だけが極端に低ければ培養方法や初期胚凍結・移植について検討する、胚盤胞が再び得られるようになればPGT-Aのメリットとデメリットを改めて検討する、という順序がよいと思います。

これまで多くの治療を受けられているため、「何か新しい治療を加えなければ」と思われるお気持ちはよく分かります。しかし、このようなケースほど、一度これまでの採卵・培養・胚移植データ等を比較し、過去にうまくいった周期と現在の周期の違いを丁寧に検証することが、次の治療戦略を立てるうえで最も有用だと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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