ポピーさん(41歳)
39歳の時に癌が見つかり、闘病を経て、39歳の時に採卵しておいた受精卵(全て良好胚)を移植しましたが全く着床しませんでした。
41歳になりPGT-A正常胚1個を保管しています。
今後、移植に向けて万全に準備しておきたいのですが、どのような検査や対策が必要でしょうか?
また癌の治療時にMRI検査で子宮筋腫が複数あることを指摘されてます。移植前に改めてMRI検査を受けて子宮筋腫の摘出をしたほうが良いでしょうか?
チョコレート嚢胞があるためなかなか採卵が出来ず、PGT-A正常胚のストックは増えていません。
先生方のお考えをお聞かせいただき、今後の参考にさせていただけたらと思います。どうか宜しくお願いいたします。
小川誠司先生に教えていただきました。
東京ARTクリニック 院長 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月に准教授に就任。2026年2月から東京ARTクリニックの院長に就任。藤田医科大学客員准教授。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●PGT-A正常胚移植に向けた準備として、どのような検査が必要ですか?
ポピーさんはこれまでに良好胚を複数回移植されているにもかかわらず着床に至っていないとのことですので、PGT-A正常胚の移植に先立ち、可能な範囲で着床不全に関する検査を受けておくことをお勧めします。
着床不全の原因を評価する検査としては、子宮内腔の状態を確認する子宮鏡検査、自己抗体検査や凝固系検査、甲状腺機能検査、慢性子宮内膜炎検査などがあります。また、胚移植に適したタイミング(着床の窓)を評価するERA検査やERPeak検査、子宮内の細菌環境を調べる子宮内フローラ検査やEMMA/ALICE検査、さらに免疫学的検査(Th1/Th2比、NK細胞活性など)も選択肢となります。
特に、これまでに内膜掻把術を繰り返し受けられているとのことですので、子宮内の細菌叢(マイクロバイオーム)の状態を十分に評価しておくことが重要と考えます。検査の結果、ラクトバチルス属細菌の減少が認められる場合には、移植前からラクトバチルス製剤(サプリメント等)を積極的に使用し、子宮内環境の改善を図ることを検討されるとよいでしょう。
●子宮筋腫がある場合、移植前に摘出手術は推奨されますか?
子宮筋腫が存在していても、必ずしも着床不全や妊娠率の低下につながるわけではありません。重要なのは筋腫の大きさよりも位置であり、特に粘膜下筋腫や、筋層内筋腫であっても子宮内膜を強く圧迫・変形させている場合には、胚移植前に摘出手術を検討することをお勧めします。
一方で、子宮内膜への影響が少ない漿膜下筋腫や、小さな筋層内筋腫については、必ずしも手術が必要とは限りません。
また、上記のような着床不全に関する検査を十分に行ったにもかかわらず明らかな原因が見つからない場合には、筋腫が子宮収縮や内膜蠕動に影響し、着床を妨げている可能性も考えられます。こうしたケースでは、cine-MRIを用いて移植周期における子宮内膜蠕動の有無や程度を評価することが有用な場合があります。
もし過剰な内膜蠕動が認められ、それが着床障害の一因と考えられる場合には、筋腫摘出術を治療選択肢の一つとして検討しても良いと思います。

●チョコレート嚢胞がある中での採卵の最適な方法は何ですか?
チョコレート嚢胞(子宮内膜症性卵巣嚢胞)がある場合でも、嚢胞そのものを理由に採卵時の刺激法を大きく変更することは一般的ではありません。しかし、子宮内膜症を有する方では卵巣予備能が低下していることも少なくないため、AMH値や過去の採卵成績などを参考に、低刺激法、中等度刺激法、高刺激法の中から、その時点の卵巣機能に適した方法を選択することが重要です。
また、採卵時には可能な限りチョコレート嚢胞を穿刺しないよう注意しながら卵胞を回収することが大切です。嚢胞の大きさや位置によっては採卵操作が難しくなる場合もありますが、多くの症例では嚢胞を温存したまま採卵を行うことが可能です。
ポピーさんの場合は、これまでの治療でPGT-A正常胚を獲得できているとのことですので、まずはその際に良好な結果が得られた刺激法を踏襲すると良いと思います。刺激法を変更することで必ずしも成績が向上するとは限らないため、これまでの反応性や採卵成績を参考にしながら、最適な方法を選択されると良いと思います。
●子宮筋腫の影響を再評価するため、MRI検査の再実施は必要ですか?
ポピーさんは複数の子宮筋腫をお持ちとのことですので、今後の治療方針を検討するうえで、MRI検査により現在の筋腫の状態を改めて評価しておくことは有用と考えます。
子宮筋腫は時間の経過とともに大きさや位置関係が変化することがあり、特に子宮内膜への圧迫の程度や子宮腔の変形の有無は、胚移植の成績に影響を与える可能性があります。そのため、最新のMRI画像をもとに筋腫の数、大きさ、位置を正確に把握しておくことが重要です。また先に述べたcine-MRIを同時に実施しても良いかもしれません。
●移植成功率を高めるためにできるライフスタイル改善策を教えてください。
移植成功率を高めるためには、まず基本となる健康的な生活習慣を整えることが大切です。規則正しい食生活を心がけ、1日3食をバランスよく摂取すること、十分な睡眠を確保すること、適度な運動を継続すること、そして過度なストレスをため込まないことを、移植前から意識していただくことをお勧めします。
また、ポピーさんは卵子の質の改善を目的としたサプリメントをすでに摂取されているとのことですので、今後は子宮内膜環境の改善も意識すると良いと思います。具体的には、子宮の血流改善が期待されるL-アルギニンや、子宮内フローラの改善を目的としたラクトバチルス製剤(乳酸菌サプリメント)の摂取をお勧めします。
さらに、これまでに良好胚を複数回移植されていることから、過去に移植した胚の中にも染色体正常胚が含まれていた可能性は十分考えられます。
そのため、今後の移植に際しては、通常の胚移植に加えて、
• SEET法
• 胚融解時にGM-CSF含有培養液の使用
• PRP(多血小板血漿)の子宮内投与
などの補助的治療を検討しても良いと思います。
ただし、PRPについては、ポピーさんには子宮体癌の既往があるため、安全性や適応について慎重な検討が必要です。実施の可否については、子宮体癌治療の主治医と十分に相談されたうえで判断されることをお勧めします。