にゃんすけさん (38歳)
次の周期を移植しようか、検査をしようか悩んでいます。不妊治療を開始して1年が経ちますが、一度も着床したことがありません。子宮鏡検査も2回ほど受けたことがありますが、異常は見つかりません。
チョコレート嚢胞に関しては、不妊治療を開始する去年頃にはほぼなくなっていました。ですが、今日も2回目の移植判定日でしたがhCG<0.1であり、全く着床しません。
私としては着床障害があるのではないかと思ってしまい、次移植をする前に慢性子宮内膜炎の生検をするか、ERA検査をするか悩んでいます。
ただ、今の時点で先進医療費も含めかなり出費しているので、なるべく保険診療の検査あるいは低額な検査から進めたいというのも正直なところです。
採卵に関しては、転院も考えているためもうこちらのクリニックではする予定はないので、PGT-A検査は今は考えていません。
次の周期、検査をすべきでしょうか。それとももう一度移植をすべきでしょうか。もし移植をするなら2段階移植(胚盤胞2個)もしくは2個一度に戻すことを考えています。ただしSEET法をしても一切反応しないのに2段階移植しても意味があるのか、それすらもわからなくなっています。
本日クリニックで相談しましたが、今勧める検査に関しては答えをいただけず、あまり検査をしても意味がないのかな、とまた悩んでおります。
先生のお考えをご教示いただきたいです。
Noah ART Clinic 武蔵小杉の久慈先生に聞いてきました。
【医師監修】Noah ART Clinic 武蔵小杉 統括医師 久慈直昭 先生
慶應義塾大学医学部卒。東京医科大学産婦人科学教授を経て、2023年5月より、Noah ART Clinic 武蔵小杉の統括医師に。生殖医療専門医・指導医。臨床遺伝専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
体外受精胚移植で2回、良好胚をもどしているけれども妊娠しないと、「反復着床不全」と考えたくなります。でも、これが本当に子宮側に原因があって着床しないのかは、考える必要があると思います。
一般的な反復着床不全の定義は、「40歳未満の方が良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても臨床妊娠しない(子宮内に胎嚢が見えない)場合を「反復着床不全:repeated implantation failure:RIF」という」となっており、これを超えたら子宮側の検査を考えても良い目安、とされています。逆に言えば、これ以下の個数の受精卵をもどして胎嚢が見えなくても、受精卵側の原因が考えられるのです。
染色体異常が受精卵に起こる確率は、それほど低いものではありません。38歳でも少なくとも50%の受精卵は(良好胚でも)染色体異常と言われています。そして、これはあくまで平均ですので、同じ年齢でももっと染色体異常の受精卵の率が高い方もいらっしゃるかもしれません。まだ二つしか受精卵を戻していないので、1/4の確率で、どちらも染色体異常の受精卵を戻してしまった、という可能性もあります。

また染色体異常の程度によって、発生が止まる時期は異なります。染色体が、一本だけ多い(普通23対、46本のものが1対だけ2本でなく3本あり、染色体の数が47本となる)trisomyという状態は、流産でよく見られます。ところが、年齢が上がってくると23対46本であるはずの染色体の、一つではなく二つ、あるいは三つの対が異常となることが多くなるのです(たとえば、16番が2本でなく3本、かつ20番が2本でなく1本など)。この場合、正常からの遺伝子の量の差が大きくなるので、胚はたとえば移植して2日で育たなくなってしまい、妊娠反応は出なくなります。ですから、受精卵側の原因でも妊娠反応が出ない、「着床不全」はおきるのです。
これを考えて、次の移植をするか、子宮側の内膜生検やERAをするか、決めるべきだと思います。もちろん、いくらお金をかけてもよい、というなら先進医療をすべてやってみることはできると思いますが、先進医療は「まだその効果が明らかでない医療」ですので、本当に有効なのかどうかをいま、たくさんの患者さんのデータを使って検証している、いわば「聞くかどうかわからない」医療です。将来は、これらの医療がどういう患者さんに効くのか、明らかになってくるとは思いますが、現時点ではそれもはっきりしていません。
個人的にはにゃんすけさんの場合、先に移植胚を1個でなく2個にして、もう一度胚移植することをおすすめします。二段階移植は、二つの胚を同時に移植するのと妊娠率は変わらないといわれています。