【Q&A】子宮内膜炎について~藤本先生【医師監修】

りんさん(32歳)

子宮鏡検査で、子宮内膜炎の疑いと診断されました。次回EMMA検査をすることになりましたが、薬などは処方されていません。改善に向けて何か出来ること、治療はないのでしょうか?

さっぽろARTクリニックn24の藤本先生に聞いてきました

【医師監修】さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

今回は臨月での死産ということで、とてもつらい経験をされたことと思います。今回のお返事では、そこにも少し深堀していく内容となってしまいますことご容赦ください。
今回のご質問は子宮内膜炎についてのようですが、現状は子宮内膜炎の“疑い”であり、まだ確定はしていない状況ですよね。その状況で色々考えすぎてしまうのも良くないのかなと感じます。でもそれは今回の死産の経験が、何かできることは何でもしなきゃという気持ちにさせているのかなと思います。
次の妊娠のためにできることを考えたときに、今回の死産の原因を考えるというのがあります。死産の原因となるものには様々あります。原因がはっきりしている場合もあれば、原因不明なこともあります。逆に原因が不明なことが多いとも言えます。また原因によっては、次回の妊娠でそれを回避する手立てがあるものもありますが、多くは今回たまたま起きた突発的なもの(臍帯がねじれてしまい血流がへその緒から胎児に行かなくなる臍帯過捻転や、へその緒に縛り目ができてしまい血流が行かなくなってしまう臍帯真結節、等)や胎児側の原因(胎児の染色体異常や、胎児奇形など)のことも多いため、その原因がわかっても次回の妊娠のために何か生かせることがある場合は決して多くはありません。一方で、母体側因子の中に一部の不育症や免疫異常なども考えられる(可能性が高いという意味ではないですが)ので、臨月含めた妊娠12週以降の死産の方は流産が1回目でも不育症/免疫異常などの検査を行うという考えはあります。
子宮内膜炎は母体側の因子(子宮因子)に分類されますが、乳酸菌優位環境でない場合には妊娠率が低下するというデータが出ており、現在も不妊治療施設では盛んに調べる検査とも言えます。乳酸菌優位環境でない場合には抗菌剤の投与や、乳酸菌の補充を行います。ここで、りんさんが気にしていると困るので、ひとつだけはっきり言っておくと“子宮内膜炎が臨月の死産を引き起こす確率を上げる”というデータはありません。子宮内膜炎は着床率/妊娠率を下げます。そして妊娠した以降は流産率/早産率を上げる可能性はあります(これは子宮内膜炎に起因して、妊娠後の子宮内感染を引き起こした場合、前期破水などの原因となりえるからです)。
さて、子宮内膜炎の診断ですが、子宮鏡だけでは診断率が50%程度のため診断することができません。多くの施設では子宮内フローラ検査や、EMMA検査を行って診断を行います。子宮内膜炎で一番厄介なのは、それが改善(治癒)したかの判断(診断)になります。子宮内膜炎と診断され、投薬を行いそれが改善したかを判断するには検査が必要になります。EMMAや子宮内フローラ検査をするわけですが、それには数万円かかります。さらには、一度治癒した子宮内膜炎にもうならないという保証はどこにもありません。そもそも、子宮内膜炎を引き起こす菌は膣⇒子宮と侵入してきます。そしてその菌の多くは菌が大量に存在している肛門(腸内)から伝わって入ってきます。肛門を遠ざけることはだれにもできないため、子宮(膣)は常に菌にさらされている状況です。そしてもう一つ、子宮内フローラやEMMAの結果は検査後2-3週間後に届きますが、その結果は現在の2-3週間前の子宮内の状況を示しているだけで、現在の子宮内の状況を示しているという保証もありません。以上を考えるとそもそも検査して結果を見て治療することに意味があるのかも明確には言えません。もしかしたら、検査結果によらず、妊娠着床期にある一定期間乳酸菌を増やす治療(乳酸菌製剤の内服や膣内投与)をするほうが良いかもしれないとも考えます。


あとは、臨月での出産からまだ現時点で半年も経過していない状況です。子宮は妊娠前は卵くらいの大きさですが、妊娠することでどんどん大きくなります、最後はへそ上までの大きさになり元の大きさから10倍以上の大きさになります。分娩後にゆっくり元の大きさに戻っていくわけですが、元に戻るのには時間もかかります。どのくらい経過すれば再度妊娠してもいいというデータはありませんが、半年くらいは休む期間を設けて子宮が一度きちんと元に戻る時間が必要かもしれません。子宮鏡の子宮内膜炎を疑う所見(何らかの炎症を疑う所見)は、もしかしたら子宮が産後にまだきちんと元に戻っていないことによる所見の可能性も考えられます。僕自身も産後まだ月経が戻ってきていない人(あるいはまだ1~2回しか発来していない人)の子宮鏡をした際に炎症所見を疑うような所見だった方を数人見たことがあります。
今回、りんさんは残念ですが臨月の死産の経験をしましたが、少なくとも今回の原因が子宮内膜炎であるということはありませんし、年齢や一度妊娠されていることを踏まえればまた妊娠できるはずであると僕は思います。次回に向けて今できることはと聞かれれば、自分の気持ちを整える、もしくはコントロールするすべ(スキル)を身につけることかもしれません。それには時間も必要かもしれません。心配するな!というのが無理難題であることは私も重々承知していますが、心配が過度にならないように、前向きにがんばってくれたらいいなと陰ながら応援しています。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。