【Q&A】精索静脈瘤の手術は効果的?~木下先生【医師監修】

たぬきさん(31歳)

31歳で2回採卵で移植までいかなかったことから、夫と話し合い精索静脈瘤の手術もすることを検討中です。
婦人科の先生のコメントでは「精索静脈瘤の手術で効果は薄く、効果があったとしても6か月後」。
泌尿器科の先生のコメントは「7割良くなり、手術後3か月頃から不妊治療再開できる」でした。
精索静脈瘤の手術で効果が出るのでしょうか?他にできる治療はありますか?

京都IVFクリニックの木下 孝一 先生にお話を伺いました

【医師監修】木下レディースクリニック/京都IVFクリニック木下 孝一 先生

藤田保健衛生大学、東京歯科大学市川総合病院を経て、浅田レディースクリニックの副院長として従事。2019年、故郷の滋賀で最新の不妊治療を提供するべく木下レディースクリニックを、2021年には京都IVFクリニックを開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

検査・治療歴を見てどの様な印象を持たれますか?先生ならどの様な治療を提案されますか?

 

採卵内容を見せて頂きましたが、1回目の成熟率30%、2回目の成熟率23%、GV卵もかなり多い状況です。

成熟率がかなり低い採卵となっています。特にGV卵子は成熟卵になる二段階前の未熟度の高い卵子です。

#成熟障害
卵子が受精できる状況になっていない
精子を正しく受け入れる状況になっていない
精子が入ってから卵子が活性化される状況でない
という状況のことです

未熟が多いけど、成熟卵はありました。その成熟卵に受精を施してるから大丈夫です。
というわけではなく、成熟しづらい環境にある場合、核は成熟していても、細胞質は成熟していない場合、成熟卵と判断されてもまだ紡錘体が確認できていきない場合、極体の所見が強く成熟卵判定が非常に難しい場合、など、成熟障害がある場合あらゆる状況を想定して、刺激法選択、採卵決定、培養環境設定を進めていく必要があります。

卵子の成熟度(核成熟、細胞質成熟)は受精率・良好胚盤胞を確保する上で当院が最も大切にするところです。

今回の採卵結果であれば、当院ではまず卵子側の因子を徹底して対策する状況です。

#成熟障害に対して
・刺激方法変更
・排卵誘起の種類・時間変更
・刺激日数の延長
・刺激日数を伸ばすための注射量調整
・採卵決定時の卵胞計調整
・採卵から受精までの前培養時間調整
・紡錘体チェックによる顕微授精時間調整
・タイムラプスによる第二極体確認
・第二極体が放出されるまでの時間確認
・前核が形成される前の時間確認
それらをもとに最終は培養液変更もしていきます。

精索静脈瘤が疑われる場合、精液検査に加えて
・精子のDNA損傷を調べる検査(DFI)
・DNA損傷が少ない精子を選別する方法検討
(スパームセパレーター/PICSI/IMSIなど)

現在の採卵内容の場合、精索静脈瘤のオペだけで全ての問題が解決されるわけではないのかなという印象です。

当院では、まずは採卵の内容をしっかりと吟味して、卵子の状況、受精状況、胚の培養状況の詳細を検討した上で男性へ手術を提案していく流れとなります。

もちろん、精索静脈瘤の程度、精液所見の程度で男性手術を優先していただくケースもあります。

ここで少し最新情報を示しておきます。
当院でもどれだけ成熟対策を徹底して行っても、培養環境をどれだけ変更しても、変性卵・GV卵子が特に多い方がおられます。
また、そういった方の受精卵では3日目までの分割ですでに遅れが出ていることが多くあります。
現在では卵母細胞・受精卵・胚が成熟を停止をする
Oocyte zygote embryo maturation arrest(OZEMA)というグループ概念として原因となる遺伝子がいくつか報告されています。
当院では治療で何度も明らかに変性卵・G V卵子・受精障害・3日目までの胚発生が明らかに悪い方に対しては報告のある原因遺伝子の研究検査のご提案も始めています。

精索静脈瘤・精子DNA損傷(Sperm DNA fragmentation)について

不妊症の原因の40%に男性側の要因があり、実際に精子濃度や運動率が低い症例においては、IVFの成績が低下することは知られています。

しかし、一方で顕微授精(ICSI)においては精液所見と治療成績と相関がないとする報告もあります。
Wang C.Fertil Steril.2014

そんな中で出てきたのが精子数や運動率以外に受精卵の発生に関わる因子として、精子のDNA損傷が注目される様になりました。

精子DNA損傷と体外受精の成績には関連があるという報告があります。
Agawal A.World J Mens Health.2020

この精子DNA損傷に関わるとされる原因に今回の精索静脈瘤があるわけです。

顕微授精では精子DNA損傷の影響が少ないという報告より、精子DNA損傷が多い症例では、早期に顕微授精を検討していくという考え方もあります。
Agawal A.World J Mens Health.2020

現在では、精子DNA損傷が低い精子を厳選する方法も出てきており、
スパームセパレーター、PICSI、IMSIなど精子DNA損傷が少ない精子を選別して顕微授精に用いる選択肢があります。

しかし、精子自体が非常に少ない状況では選択できる精子がないので、TESEや精索静脈瘤手術などの男性手術が選択肢に入ってきます。先ほど精液所見の程度で当院では男性手術を優先していただくケースもあります。と書いたのはこういった精子選別ができない場合についてです。

精子DNA損傷は妊娠率に影響がないという報告もあるので、
(Huang CC.Fertil Steril.2005)
相談者様のようにすでに体外受精を希望されている、実施されているご夫婦に対しては当院では精索静脈瘤があるから全て手術、精子DNA損傷が高いからすぐ手術という様にはしていません。
治療が中断となる数ヶ月を大変不安に思われる女性も多くおられるからです。
また、女性側の因子(卵子側)がある場合、男性因子の改善だけでは卵子の改善には至らないからです。上記対策の上で、採卵結果、卵子の状況、顕微授精の結果において、明らかに男性因子を疑う場合に対しては女性側の治療を中断してでも、男性手術をご提案することがあります。

精索静脈瘤の手術後、妊娠率は手術前より上がりますか?

前述した様に、女性側の成熟障害の部分に対しての対策がまず必要かと思います。その上で、男性側の手術を併用するのかを当院では検討します。

Goldsteinらの報告では女性不妊因子を除くと、精索静脈瘤術後の自然妊娠率は1年で43%、2年で69%と報告もあるため、女性側の因子が少なく、自然妊娠、一般不妊(タイミング・人工授精)での妊娠希望が強い方の場合は、早めに男性手術を検討します。

精索静脈瘤の手術後、どのくらい経ってから不妊治療を再開できますか?

術後3ヶ月より精液所見の再検、治療再開をしていく施設が多いと思います。男性の場合、精子を作り始めて、約3ヶ月経過してからようやく射出されるからです。

乳腺症とブドウ糖境界型が不妊原因になっていると考えられますか?

これらが、相談者の採卵時の成熟障害、GV卵の多さの直接的な原因となっているとは思えません。
あまりにも気になるようでしたら、インスリン抵抗性検査を受け、インスリン抵抗性改善薬と共に採卵周期を検討されると良いかと思います。
血糖コントロールについては妊娠後のリスクとしても重要となりますので、妊娠前から食事改善、運動の指示を出していきます。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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