【Q&A】PFC-FDの卵巣投与について~小川先生【医師監修】

まめたさん(40歳)

今通っているクリニックで出来る限りのことをしながら体外受精顕微授精を繰り返していますが、なかなか良好胚盤胞を凍結することが出来なくなってきました。
そこで、主治医からPFC-FDの卵巣注入による治療が世の中にはあることを教えてもらい、興味をもって調べ始めました。主治医自身も「まだよくわかっていない部分も多い治療法だ」と言っていた通り、調べていても他の治療よりも情報が少なく、私の住んでいる県ではまだどこでも実施していません。
やってみれる治療が世の中にあるのなら、他県に行ってでもやってみたい!と思って今情報を集めているところなのですが、なかなかどこへ行ったらいいかわかりません。
PFC-FDの卵巣注入療法自体の実施件数や実績などの情報にもなかなかたどりつけません。
何か参考にしたらよい文献や、情報がどこにあるかもわからずです。今は自分で検索して出てきた情報を頼りに、実施しているクリニックを探して問い合わせてみている段階ですが、さすがに全部のクリニックに紹介状を持って初診に行くのは現実的ではありません。
もう治療歴も長くなってきて、県内でも今のクリニックが3院目(転院2回)。次の転院をいわゆる『最後の砦』としたい気持ちが強く、尚更どこへ行くべきか悩んでいます。
長くなってしまいましたが、PFC-FDの卵巣注入療法に希望を持って転院したい場合、どのように情報を集めたら良い
でしょうか?情報さえ正しく集められれば、あとは自分達で考えて転院先を決められると思うので、何かよい方法があったらよろしくお願いいたします。

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

PFC-FD療法とはどのような治療法で、どのような効果が期待される治療法ですか?

PFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry)は、PRP(多血小板血漿)に含まれる様々な成長因子を抽出・濃縮し、凍結乾燥させたものです。そもそもPRPとはPlatelet Rich Plasmaの略で、血液に含まれる血小板から、多くの成長因子を抽出し、活性化したものです。私たちが本来持っている治癒能力、再生能力をさらに高めるための治療であり、不妊治療だけでなく、整形外科、形成外科などさまざまな領域の治療に応用されています。メジャーリーグの大谷翔平選手が右肘を損傷された際にPRPが使用されたことでも有名です。血液から作成したPRPをそのまま使用することも可能ですし、今回お問い合わせいただいたPFC-FDのように一旦凍結乾燥させたものを溶かして使用することもできます。
PRPは不妊治療の領域では、もともとは体外受精の胚移植周期に子宮内膜がなかなか厚くならない方に用いられてきました。PRPを子宮内に投与すると、わずかではありますが内膜が厚くなり、有意に妊娠率が改善すると報告されています。我々も内膜菲薄や反復着床不全の患者様にPRPの子宮内投与を行ってきましたが、良好な治療成績が得られています。
最近では卵巣機能低下や卵巣機能不全の患者様に対して、卵巣機能の改善を目的として卵巣投与が行われています。加齢等により卵巣への血流が悪くなり卵巣機能が低下していきますが、PRPが持つ血管の形成を促進する作用により卵巣への血流が良くなるなどの様々な理由により卵巣機能が改善するのではないかと期待されています。
ただ効果には個人差も大きく、確立された治療法ではありません。しかし最新のレビュー論文ではPRPを卵巣投与すると有意に採卵数が増え、移植できる胚の数も増えると報告されています。またPRP投与により体外受精で得られた胚の染色体正常率が上昇したとの報告もあり、卵子の数を増やすだけでなく、卵子の質を改善する可能性も期待されています。

40代の患者さんはPFC-FD療法で妊娠率が上がる可能性はありますか?

40歳以上の卵巣機能が低下してきている患者様に、卵巣機能を改善する根本的な治療はなかなかないのが現状です。
PRPあるいはPFC-FDの効果には個人差がありますが、先にも記載した通り、卵子数(前胞状卵胞数)を増やし、移植できる胚が増えたとする報告もあり、妊娠率が上がる可能性は十分にあると思いますし、実際にPRP投与後に妊娠された患者様もいらっしゃいます。なかなか良好胚が得られていない質問者様の現状を考えますと、PRPの卵巣投与は選択肢になると思います。

先生ならどのような検査や治療を提案されますか?

治療歴6年以上、流産もされていますので、着床不全検査や不育症検査はすでにされているかもしれませんが、もしまだやられていない検査があるのであれば、全て一通りの検査(自己抗体、凝固因子、免疫検査、子宮内膜炎検査、子宮内フローラ検査、ERA検査など)を実施することをお勧めします。その上で、胚盤胞に至っているのであれば、自費にはなりますが、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)も選択肢です。
ただ、得られる胚盤胞が少ないのであれば、検査の費用がかかり、胚を損傷するリスクもありますのでPGT-Aのメリットは大きくないかもしれません。治療歴が6年以上とのことですが、6年前と現在ではやはり状況が異なり、最適な治療方針も異なります。なかなか胚盤胞が得られないのであれば、胚盤胞に拘らず分割胚の二個胚移植や、治療期間を短くするという意味で新鮮胚移植も選択肢だと思います
長く治療を継続しておられると、どうしても最初の治療方針(例えば凍結融解胚盤胞胚移植など)を継続しがちですが、年齢と現在の状況に合わせて治療戦略を変えていくことも大切だと思います。

新しい治療法を調べる際にどのような方法で情報を得るのがよいでしょうか?


WEBサイトやSNS等でさまざまな情報が飛び交っていますが、必ずしも正確な情報とは限りません。WEB等でお調べになったことを担当の医師に確認される、あるいはセカンドオピニオン等で他院の医師にご相談するのも良いと思います。また今回のようにお問い合わせいただくことも、我々専門家が回答しますので、非常に良い方法の1つだと思います。

今後の治療の進め方や向き合い方についてアドバイスをお願いします。

現在の年齢、卵巣機能に合った治療戦略を立てることが重要です。もし6年間同じ医療機関で治療されているのであれば、他の医師の意見も聞かれた方が良いかもしれません。
さらに卵巣機能を改善させる可能性のある治療を併用していただくことが効果的です。エビデンスのあるサプリメントを摂取したり、今回の質問にあるPRPやPFC-FDも試していただいたりすることが良いと思います。PRPにも作成方法が複数あり、我々の施設ではダブルスピン法を用いて通常のPRPよりも成長因子が数倍濃縮したPRPを用いて治療していますので、実施する施設を選ぶことも重要です。
また最近では、PRPの卵巣投与が無効な方に、ご自身の脂肪や月経血由来の間葉系幹細胞を用いた治療も始まりつつあります。40歳代の方にとって、いつまで、どこまで不妊治療を行うかは非常に重要です。後悔なさらないよう、ご夫婦でよく相談された上で、PRPをはじめとする今できる治療を最大限やられることが良いと思います。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。