【Q&A】PGT-Aが有効なのか知りたいです~木下先生【医師監修】

yuiさん(31歳)

転院を考えています。県内のPGT-Aが受けられない病院と遠方の受けられる病院で迷っています。大きな判断基準になるので、私の場合PGT-Aが有効なのかどうか意見をお聞きしたいです。
採卵3回(うち1回は受精0)行い、6個採卵で2個受精、4個採卵で2個受精。3AA、3BCの2つの胚盤胞、8.2分割7.2分割の2つの初期胚の計4回の移植を終え、結果全て陰性でした。
刺激方法はアンタゴニスト法、高AMHで採卵前の卵胞チェックでは左右10個以上見えていても、未熟卵が多いのか空胞が多いのか分かりませんが採れる卵の数が少ないです。4回とも着床すらしなかったので染色体異常が原因ではないかと考えているのですが、私は胚盤胞がなかなか採れないのでそんな状況でもPGT-Aは出来るのでしょうか?
PGT-Aは私にとっても有効な方法なのでしょうか?
2段階移植や2個戻しも検討していますが、残りの保険適用回数も少ないので、どの選択が適切なのか分からず悩んでいます。

京都IVFクリニックの木下 孝一 先生にお話を伺いました

【医師監修】木下レディースクリニック/京都IVFクリニック木下 孝一 先生

藤田保健衛生大学、東京歯科大学市川総合病院を経て、浅田レディースクリニックの副院長として従事。2019年、故郷の滋賀で最新の不妊治療を提供するべく木下レディースクリニックを、2021年には京都IVFクリニックを開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

①高AMHで卵胞チェックで10個以上見えていても採れる卵数が少ないそうです。

まず最初に担当医師に確認した方がいいと思うポイントを書きますね。その卵胞数は本当に医師が成熟卵を狙っている卵胞なのでしょうか
多くの施設では、PCOSの場合、OHSSを予防するために先行する首席卵胞数個を狙って採卵する低刺激、もしくはレコベルで8-14個程度を狙って採卵決定しているケースがあると思います。
(備考:ちなみに当院ではPCOSの場合、低刺激を第一選択にはしていません。詳しくは私のブログ「PCOSで体外受精をするなら絶対知ってほしいこと」を読んで頂ければ幸いです)
例えば、医師としては先行して育ってきた17 mmを超える卵胞を8個狙っているにも関わらず、患者さんにとっては超音波で10-12mm程度の卵胞を含めて15個近くあったのになと思っているケースもあると思います。採卵決定の時に今回は何個の卵子を狙えそうですか?と聞いてみることで医師との情報共有ができるかもしれません。
当院では採卵決定する時に、見えている卵胞数と狙っている卵子数を事前に分けて記載するくらい気をつけています。もし本当に狙っていた卵胞で卵子が回収できていないのであれば、
→採卵決定時の条件変更が必要かと思います。
→PCOS、高齢女性、成熟障害などの場合、卵胞がしっかりとした成熟状況でなければ排卵誘起をかけても卵子回収が難しいケースがあります。
・卵巣刺激日数(少し伸ばしたとありますが、何を目標値として何日伸ばしたのでしょうか)
・採卵決定時の卵胞サイズ
・最終のE2状況
・排卵抑制を何でかけているのか(アゴニスト?アンタゴニスト?PPOS?)
・排卵抑制をかけすぎていないか(卵巣刺激中のLHの値は確認されてますでしょうか)
・前周期で卵巣機能を抑制しすぎていないか(月経時のLH値は確認されてますでしょうか?)
・排卵誘起の種類・時間(採卵何時間前に誘起をかけて取りにくいのでしょうか)
上記採卵決定に関して検討を行い、それでも回収が難しい場合当院では、採卵当日はポンプでの採卵ではなく、卵胞内を培養液でフラッシュして本当に卵子がないのか、回収できないかをさらに検討していきます。当院ではPCOSの場合こういった形で患者背景、採卵決定方法、採卵方法など含めて対応していきます。

②刺激法すべてアンタゴニスト法とのことですが、 刺激法を変えることで採卵数が増える可能性がありますか?

採卵個数は刺激法、つまり排卵抑制がどんな薬か、だけで決まるわけではありません。例えば、低刺激(FSH150単位やHMG150単位)で低刺激となる量で排卵抑制としてアンタゴニストを選択することも可能ですし、レコベルで8-14個を狙ったアンタゴニスト法を選択することも可能です。
高刺激でそれより多くの卵子数を狙うアンタゴニスト法をすることも、もちろん可能です。
排卵抑制方法だけで採卵個数を調整しているわけではない点を知っていただくことも大事かと思います。まずは採卵開始・決定時の上記詳細を確認してみて、変更が必要な場合は他の刺激を検討してみてはどうでしょうか。

③どのような方法を試してみればよいでしょうか、今後の治療の進め方についてアドバイスをお願いします。

PCOSや成熟障害が採卵を本当に難しくしているのであれば、採卵決定時の状況を変えることで結果が大きく変わることはあります。相談者さんの場合は特に31歳で多嚢胞状況なので、今後複数の良好胚盤胞を狙う希望は求めていいと思います。
○○法ならいい?○○の注射ならいい?と端的に考えるよりは、当院であれば、治療希望月経中の採血、卵巣状況、前回の採卵結果を元に、刺激方法、注射内容、注射単位、排卵誘起内容・時間、受精、凍結基準などを一緒に決めていきます。

④相談者さんのように胚盤胞がなかなかできない状況でも、 PGT-Aはできますか?今後の治療の進め方についてアドバイスをお願いします。

相談者さんのように、31歳という若さで、高AMHなのに卵子がなかなか回収できない、胚盤胞になりにくい場合、まずは、なぜ胚盤胞にならないのかを徹底して医師と相談した方がいいと思います。相談者さんの背景を考えると、良好な胚盤胞を確保する希望は第一に持っていいと思います。もしPGT-Aを検討するとしても、良好胚盤胞が複数個できれば、PGT-Aのメリットをより受けられる状況となります。
PGT-Aが実施できますか?という質問で言えば、PGT-Aの実施基準を満たし、ガードナー分類のA・Bに相当する、細胞数が多い胚盤胞であれば可能です。

しかし、大事なことは、PGT-Aにどんなメリットをご夫婦が希望しているかです。もし採卵で胚盤胞が1個しかできない場合に、早く妊娠したいという治療期間短縮でPGT-Aを希望しているのであれば、胚盤胞1個だと移植した方が早いかもしれません。妊娠率を60-70%程度、流産率を10%程度一定にして、移植あたりの妊娠率を求めたいという希望であれば、PGT-Aで採卵を続けていくことも選択肢となりますが、自費診療での継続となり経済的な負担がかなりかかることになります。

⑤4回移植してすべて陰性だったそうですが、2段階移植や2個戻しで着床率が上がる可能性はありますか?

着床不全についてのご質問かと思います。ご存知かもしれませんが、しっかりと定義から順番に着床の理解を進めることが大事だと思います。

40歳未満の方は良好な胚を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるといわれています。良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を『反復着床不全』 (Repeated Implantation Failure)としている。

原因として
・1番に受精卵側
・2番に子宮側
・3番に免疫
と順に検討を進めていきます。

今回のケースで考えるのであれば、1の受精卵側として、胚盤胞移植ではまだ3AAが1個・3BCが1個、良好胚盤胞としてはまだ1個しか移植できていない状況となります。特に31歳、高AMHで卵子回収、胚盤胞培養への個数が確保できている状況であれば、まずは良好胚を確保するための採卵内容を重視されてはいかがでしょうか。

日本産科婦人科学会PGT-Aパイロットスタディーで反復ART不成功に対してのPGTAの結果があります。
39人208個の受精卵でPGT-Aの検査を実施したところ、全年齢で移植あたりの妊娠率は70.8%、流産率11.1%となりました。対象群は50人、移植あたりの妊娠率は36.6%で有意差が出ています。相談者さんの年齢区分でのデータはありませんが、35-36歳の移植あたりの妊娠率では71.4%となります。また、このパイロットスタディー全体の、35-36歳・PGT-A正倍数性(A)であった割合(PGT-Aに提出した胚盤胞のうちAで返ってきたもの)は39.5%でした。

私がこの結果で思うことは、ART反復不成功例でもPGT-Aの移植あたりの妊娠率は高いな!だけでなく、着床不全で悩んでいる時期だからこそ、まずは良好な胚盤胞を確保することが何よりも大切で、やはりそこにこだわる意味があるということです。PGT-Aを選択しない場合、移植方法として二段階胚移植、2個移植という選択肢は今後出てくると思います。もちろん当院でも実施しています。

また、治療が長くなってきた場合、内膜ポリープ、筋腫、子宮奇形や腺筋症、卵管に異常所見がないかを再度確認しておくことは非常に大切です。採卵からの流れで、確認が抜けていたり、以前より所見が増悪していたりすることがあるかもしれません。移植前に再度確認しておくと安心だと思います。

⑥今後の治療の進め方についてアドバイスをお願いします。

PCOSや成熟障害だけが相談者さんの採卵を本当に難しくしているのであれば、採卵開始の内容、採卵決定時の状況をかえることで結果が大きく変わることはあると思います。相談者さんの場合は特に31歳で多嚢胞状況なので、今後複数の良好胚盤胞を狙う希望は求めていいと思います。ご希望があれば、検査結果などをお持ちになってご相談ください。当院はオンラインでの相談も実施しています。
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