患者さんの小さな変化も見逃さず、一番近くでケアする看護師の役割

検査や採血、採卵や胚移植の介助などの 処置だけでなく、患者さん一人ひとりの状態を把握し、精神的援助を担う看護師さんは、治療中の患者さんにとって一番身近で頼りになる存在ではないでしょうか。そこで、不妊治療における看護師の役割や患者さんに伝えたいことなどを、横浜HARTクリニックで看護師長を務める平良麻奈美さんと院長の後藤哲也先生に伺ってみました。

患者さんにとって、看護師さんはどのような存在だと思われますか。

後藤先生●不妊治療は治療年数に関わらず悩みや不安、心配、苦しいなど心の負担がとても大きくなりがちな治療です。中にはパートナーや知人にも話せないこともあり、その部分を受け止めてくれるのが看護師ではないでしょうか。

平良さん●院長は一人の患者さんにつき約30分かけて診察しているので、患者さんは医学的なことはその場でじゅうぶんに解決されていると思います。ただ、時にはうまく話せなかったり言葉にできなかったり、治療内容が難しくて理解できなかったという患者さんもいらっしゃいます。それを、きちんと言葉にして先生に伝えたり、咀嚼して説明したり、その時に心の奥で思っていることを具現化することも看護師の役割だと思っています。

看護師さんへの個別相談はどんな内容の相談や質問が多いですか。

平良さん●「夫婦で治療の足並みが揃わない」「実はあまり治療をしたくないけど、主人や義理両親が勧めてきて…」など、治療に関する相談を受けることは全体の2〜3割程度。実際は、職場の人間関係や治療以外での夫婦関係、義理のご両親のこと、子育てに関することが、内容の多くを占めています。

例えば職場の人間関係なら、治療のことや休みを言いづらいということではなく、「こんな新人が入社した」「こんなトラブルがあって…」という風に、純粋に人間関係の悩みや実際に起きたことをお話される方が多いですね。

患者さんから「こういう時、看護師さんならどうしますか?」と聞かれることもありますが、基本的にはお話を聞くというスタンスは守りつつ「私なら、こうするかな」と、やんわりお伝えするようにしています。

それ以外では、「夫婦でお出かけして、おいしいものを食べてきた!」など、プライベートの話題でしたり、「ようやく、子供が〇〇できるようになったよ!」「保育園でこういうことがあった。親としてどう対応したら良いか…」等の子育てのもお話もよくお伺いします。

後藤先生●看護師は、外来の患者さんに採血や注射、治療スケジュールや薬の説明などを行うだけではなく、「今日はどういう治療のどの過程で来ているのか」「この患者さんは治療の1周期をどう過ごしていくのか」まで考えることが大切です。そんな関わり方をすることで、治療以外の話も言いやすくなるのだと思います。男性のドクターには話しにくいことも女性の看護師には話しやすいという側面も大きいでしょう。

患者さんと接する上で、大切にしていることを教えてください。

平良さん●「相手の目を見て、ゆっくり話す」「話し声のトーンに気をつける」「じっくりと傾聴する」ことです。そして、「不妊治療の患者さん」ではなく「ひとりの人」として接するということをいつも心がけています。その方をさまざまな角度から拝見し、関わっていくことで、その方に合ったサポートや、不安やストレスを少しでも軽減できる方法を常に考えています。

治療内容について、患者さんにはどのように説明されていますか。

平良さん●当院 はセカンドオピニオン、サードオピニオンで転院されてきて、豊富な治療に関する知識をお持ちの方が多いです。しかし、教科書的な知識と実際の臨床とでは大きく異なります。

経験が長くて知識がたくさんある方は、ご自身がもっている知識と、実際の治療が異なる場合、大きな不安に陥るケースが多いです。

その場合は、「今回は、医師がなぜこういう治療を行うのか」を写真やイラストを見せて説明を行ない、少しずつ時間をかけ、患者さんと向き合っています。

後藤先生●他院で治療を重ねて転院されてくる患者さんの状況を受け止めつつ、結果を出すことが当院の務めです。信頼関係を築くことは治療の結果にもつながる大事なことなので、そこを看護師に担ってもらえればと思っています。

診療時間以外の電話対応やメール相談とは、どのような内容のものですか。

平良さん● 卵巣刺激の患者さんが自宅で注射を実施する時間帯は、診療時間外である、21時〜23時です。その際、「失敗して薬をこぼしてしまった」「副作用が出た」などのトラブルがあるため夜間の緊急時の対応が主になります。

また、「体調を崩してしまったが、このまま 治療を継続していいですか?」「移植周期だけど、こういう症状が出ています…」など医学的判断を伴う場合は、院長に確認し、その指示を患者さんにお伝えしています。

患者さんへメッセージをお願いします。

後藤先生●当院で無事に妊娠された方はもちろん、転院先で妊娠された方も「ここでの時間があったから、治療を続けることができた」と、生まれた子どもを連れて会いに来てくれることがあります。妊娠出産が目標の一つですが、その後の長い子育てに何かしら前向きになってもらえるような関わりができたことを嬉しく思います。

医療は信頼関係のうえでこそ成り立つものであり、ドクターと患者さんをつなぐのが看護師の役割です。患者さんに寄り添い、心と体のケアに奮闘する看護師に何でも話してみてください。

平良さん●治療中、精神的な負担は少なからずあり、その原因が治療以外であっても同じだと思います。パンパンに空気の入った風船のように緊張が張り詰めていて、診察後、風船がパンと割れたように、辛い思いや悩みを話されたり号泣される方もいらっしゃいます。

安定した気持ちと妊孕力は密接に関係がありますので、必要な時は、ぜひお声かけください。少しでもお力になれれば嬉しいです。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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