染色体異常があったにもかかわらず、妊娠できた

抗体による染色体異常があったにもかかわらず、妊娠できた!

不妊の原因は、初めて知った抗セントロメア抗体。

もう子どもを授かるのは不可能と思いましたが、 奇跡が起きて一児の母親になれました。

体内に今までに聞いたことのない名前の抗体があり、 それによって妊娠できない可能性のほうが高いと言われた菊美さん。

どん底の気持ちを味わいつつもその困難を乗り越え、妊娠。 今年 6 月、無事女の子を出産しました。

早く子どもが欲しくて 人工授精も早めに開始

今年 4 月下旬、気持ちのよ い快晴の日、臨月を迎えた菊 美さん( 35 )がご主人の寛之 さん( 35 )と共に取材場所へ 現れました。

「去年の今頃を思えば、この幸 せはまさに奇跡です」(寛之さん)

同い年の二人が結婚したのは3 年前。子どもが欲しかったた め、すぐに妊活を開始しました が、 3 カ月経っても子どもがで きませんでした。

「それで、ジネコに掲載されて いた不妊治療の総合レディース クリニックへ行き、診察しても らったんです。先生からは3、4 カ月では何ともいえない、年齢 的にもまだそんなに焦らなくて もいいからタイミング法で様子 をみましょうと言われました」

半年経ったものの、やはり妊 娠の兆しがないため、再び医師 に相談。そこで初めて不妊検査 をひと通り受けます。結果は まったく問題なし。医師からは、 タイミング法を続けることを勧 められました。

「ただ、私はもともとせっかち な性格。早く次のステップに行 きたいからと先生にお願いし、 人工授精を始めました」

人工授精も休むことなく、立 て続けに 4 回チャレンジ。しか し、結果が出ませんでした。

「 4 回が終わった時点で 34 歳に なろうとしていました。年齢的 にも早く次に進んだほうがいい と思い、体外受精にステップ アップさせてもらいました」

とにかく早く結果が出した かったという菊美さん。しかし、 思いもよらない事態が待ち受け ていました。

初めて聞いた 「抗セントロメア抗体」

体外受精の初回は、ショート 法で排卵を誘発。卵子は 18 個も 採れました。しかし、ほとんど が異常受精。正常受精した 3 個 も、胚盤胞まで育ちませんでし た。卵子は採れるのに受精卵が できなかったのです。

「正常な受精卵だと前核は 2 つ、精子が飛び込み過ぎて多核 になっても 3 つ。でも私は 4 つ 以上できてしまう。たぶん、体 内に抗セントロメアという抗体 をもっている可能性があると先 生に言われて。セントロメアっ て初めて聞く言葉だったので最 初はよくわからず、戸惑いを隠 せませんでした」(菊美さん)

セントロメアとは染色体の中 央部分のこと。細胞分裂の際、 この部分と紡錘体との結合がうまくいけば正常な受精卵ができ ます。しかし、抗セントロメア 抗体があると結合がうまくいか ず、異常受精卵になってしまう というのです。採血検査で、先 生の言うようにその抗体がある ことが判明しました。

菊美さんが通院しているの は比較的規模の大きな神奈川 県のレディースクリニック。 患者数も多いのですが、それ でも抗セントロメア抗体の患 者は一年に数名程度。しかも、 過去に出産にまで至った人は いないとのことでした。

「そもそも抗セントロメア抗体 が、なぜ体内にできるのか原 因不明なんです。薬を飲めば 治るわけでもなさそうで。も う子どもは授かることはでき ないんだと暗澹たる気持ちに なりました」

菊美さんは体外受精が最後の 砦、体外受精さえすれば、子ど もができると心のどこかで思っ ていました。それだけにショッ クは計り知れませんでした。

培養士の励ましで 最後まで努力することに

「あの頃、僕もどう気持ちの折 り合いをつけていいのかわから ず、苦しみましたが、妻は本当 につらそうでした。彼女は子ど もができなければ、暗闇の人生 だと思っていたところがあった から。僕が仕事から帰ると落ち 込んでいるし、朝起きると泣い ているし。だから、子どもがで きないとしても二人で楽しく明 るく生きていこうと話したりし ていましたね」と寛之さんは当 時を振り返ります。

菊美さんは不妊治療のNPO 法人の相談サービスや病院でカ ウンセリングを受けたり、お寺 の人生相談にも行き、悲しみを 乗り越えようとしました。そん ななか、菊美さん夫婦の気持ち に希望の光を照らしてくれたの が培養士の存在でした。知識が 豊富で、抗体について理論的に 説明してくれました。

実は抗セントロメア抗体が不 妊の原因になることを知ってい る人は、医師ですら少ないので す。そのため、この培養士と出 会えたことは菊美さん夫婦に とって非常にラッキーなことで した。

「培養士さんに、“医学的にも 抗セントロメア抗体に有効な方 法は今のところない。でも、顕 微授精にすれば、少なくとも精 子が飛び込みすぎてしまうのを防げる。数多く卵子を採って受 精し、その中から抗体の影響を 受けていない受精卵が出てくる まで頑張るしかない”と教えて もらったんです」

ただし、同時にこう釘も刺さ れました。「 10 回トライしても ダメなこともあり得る。だから、 二人で終わりは決めておいた方 がいいですよ」と。そのアドバ イスを受けて菊美さんたちは話 し合い、市の補助金が出る 6 回 まで挑戦しようと決めました。

「同時に主人の言うように二人 だけで生きていく将来も考え始 めました。そのほうが治療もつ らくなりすぎなくていいかなと 思えてきたんです」

2回目の顕微授精で 奇跡が起こる!

初回は排卵誘発をアンタゴニ スト法にして 9 個卵子を採り、 顕微授精を行いましたがうま くいきませんでした。しかし、 奇跡が起きたのは2回目の時。 ショート法に戻したら卵子が 18 個採れました。そのうち 3 個が 正常受精卵、そして 2 個が胚盤 胞までいき、さらにその 1 つが 4AAという極めて優れたグ レードだったのです。医師も「抗 セントロメア抗体があってこの グレードはあり得ない」と絶賛。 「もう一生出会えないかもしれ ないから、完璧な状態で移植し たほうがいい」と言われたため、 受精卵を凍結して、移植前に再度子宮をひと通り検査すること になりました。

「2018年の 5 月末から3カ 月ほどかけて子宮内フローラ(細 菌バランス)検査、ERA(着 床能)検査、NK 細胞活性検査 などを受けました。この間に二 人でヨガに通ったり国内旅行を 楽しんだり。不妊治療中、ずっ と気持ちが張り詰めていたので、 よい休息になりました」と菊美 さんが言うと寛之さんも「移植 できる卵があるという、前向き な状態で休めたのはよかったよ ね」と言葉を添えます。

そして9月に入ってから移植 し、月末にはうまくいったこと が判明。ただ、抗セントロメア 抗体をもっている人は流産の確 率が高いと聞いていたので、そ の時はまだ不安のほうが大き かったと言います。

喜びを実感したのは6週目に 入り、心音を確認した瞬間。そ して安定期に入った3カ月目あ たりからようやく安心できるよ うになりました。

臨月のお腹をなでながら菊美 さんは「今はとにかくワクワク しています。女の子なんですよ」 とうれしそう。寛之さんも「の びのびと明るく自由に育ってく れれば十分です」と喜びを隠せ ない様子。手をつないで帰るお 二人の後ろ姿からも幸せオーラ があふれ出ていました。

その後、6月に無事出産し ましたと菊美さんからご報告 がありました。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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