移植まで順調だけど着床しない… 「EndomeTRIO検査」をやるといいの?

不妊治療をしても妊娠できない場合、受精卵の問題と考えられることがよくありますが、子宮側になんらかの原因があるケースもあります。今回はそういった方に有効な検査や治療法について仙台ART クリニックの小川誠司先生に教えていただきました。

仙台ARTクリニック 小川 誠司 先生 2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長を経て2020 年仙台ART クリニックに入職。副院長を務める。患者さん一人ひとりの思いや希望をていねいにヒアリングし、それに沿った治療を提案。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医

2回以上良好胚を移植しても妊娠しない時は着床不全を疑う

体外受精で移植まではスムーズなのに、その先の妊娠成立にたどりつかない患者さんもいらっしゃることでしょう。2回以上良好胚を移植したにもかかわらず妊娠が成立しない場合、着床不全の疑いがあるため、当院では検査をおすすめしています。

着床不全の場合、最近よくいわれているのが慢性子宮内膜炎です。受精卵が着床して赤ちゃんとして育っていく子宮内膜という部分に炎症が起こるトラブルで、あまり自覚症状が出ないため、知らないうちに発症してしまうのが特徴。炎症が慢性化することで免疫活動が活発になり、子宮内膜内の免疫異常が発生し、着床障害や反復流産を引き起こすと考えられています。

まずは子宮鏡検査で、子宮内に細いカメラを挿入し、子宮内部をのぞき、マイクロポリープなど異常がないかを確認します。子宮鏡検査によって慢性子宮内膜炎が疑わしい場合は、子宮内膜の組織を取り、病理検査によって、より詳しく調べます。

慢性子宮内膜炎以外に着床不全となるのが、最適なタイミングに移植できていないケースです。一般的に排卵してから5日頃が、着床しやすいタイミング、いわゆる「着床の窓」といわれています。ただ、一部の方は、着床の窓にズレがあるといわれています。その場合、いくら状態の良い胚を移植してもなかなか着床しない、妊娠成立にいたらないという結果になってしまいます。

着床不全に悩む方にはEndomeTRIO検査が有効

着床不全に悩む方に有効とされている検査はいくつかありますが、その1つがEndomeTRIO検査です。これは1度の検査で、子宮内膜に関する3つのことを調べたり、解析することができるものです。具体的にどんなことがわかるかを解説していきます。

着床できない原因の一つは、「着床の窓」のズレです。「着床の窓」については、1950年代からいわれており、排卵後、一定の期間しか着床できないことが知られていました。当初は「内膜日付診」といって、病理検査で確認していましたが、正確性は決して高くありませんでした。2015年にERA(子宮内膜着床能検査)がスタートし、遺伝子の発現パターンからより科学的に客観的に着床に最適なタイミングがわかるようになりました。その少し前に関連の論文が発表された時は私も大きな衝撃を受け、ぜひ患者さんのためにこの検査をやりたいと思いました。実際にERAの導入によって移植に最適なタイミングを知ることができるようになり、妊娠を継続させるために大切な黄体ホルモン剤の開始時間を調整することで、移植する際に子宮の状態をより着床しやすい状態にととのえられるようになりました。

実際に検査をする周期は、移植周期と同じようにします。移植には、ご自身の排卵後に移植する自然周期と、薬の力で体をととのえるホルモン調整周期があり、どちらでも検査は可能です。ただ当院では、再現性が取れやすいようにホルモン調整周期での検査を推奨しています。

検査までの流れですが、ホルモン調整周期で移植する方を例にすると、生理開始からエストロゲンを使用し、途中で子宮内膜の厚みを確認。適切な厚さになっていたら黄体ホルモンを投与して本来、移植する日に内膜組織を吸引します。吸引にかかる時間はわずか数秒。そして吸引した子宮内膜の組織を検査機関に送り、3週間前後で結果がわかります。なお、検査周期での移植はできません。

また、かつて子宮内は無菌と考えられていましたが、最近の研究では、いろいろな菌が存在していることがわかってきました。3つの検査のうち、ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)では、そういった菌に因って子宮内に炎症が起こっていないかをチェックすることができます。炎症を起こす菌にはいくつかありますが、ALICEではその原因となる病原菌の割り出しが可能。さらにどんな薬剤を使えば退治できるかまでわかるので、慢性子宮内膜炎を改善できる可能性が高くなります。

また、子宮内には慢性子宮内膜炎などを引き起こす悪い菌ばかりではなく「良い細菌」、すなわち妊娠しやすく子宮内膜をととのえる菌も常在しています。よく「健康で若々しくいるためには、腸内フローラが大切!」といいますが、子宮も同じ。子宮内フローラによって、着床のしやすさや妊娠が継続できるかどうかに違いが生じるといわれています。EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)では、子宮内膜の細菌環境が胚の着床や妊娠を継続、維持していくうえでベストな状態かを検査でき、着床、妊娠するうえで良いとされている乳酸桿菌(ラクトバチルス属乳酸菌)がどのくらいの割合を占めるかについても解析することができます。その結果によっては、乳酸菌製剤をプラスし、子宮内フローラを妊娠しやすい状態にしていきます。

検査費用は、医療施設によって異なります。検査を受けたい、検討したい場合はかかりつけの先生に聞いてみてください。EndomeTRIO検査は、先進医療に認定されているので、検査費用自体は自費になりますが、保険診療の体外受精と併用できます。また、ご自身で生命保険に加入している場合、先進医療の特約がついていると検査費用をカバーできることがあります。一度ご加入されている保険の特約内容を確認してみるといいかもしれません。

反復不成功に悩む方の力になってくれる検査

体外受精をしてもなかなか着床しない、妊娠が継続できない時に受精卵の問題と考えられがちですが、原因はそればかりとは限りません。実際になかなか着床しないで悩む患者さんたちがERA検査を受けたところ、約半数以上の方に着床の窓(タイミング)にズレがあったという報告もあります。スクリーニング検査のように全員の方がやる必要はありませんが、2度良好胚を移植したのに着床できない、妊娠を継続できない場合は、積極的にEndomeTRIO検査を受けるといいでしょう。検査結果を知って、対応することで妊娠にちゃんと近づくことができると思いますよ。

ERA(子宮内膜着床能検査)

子宮内膜の着床に適した期間(着床の窓)を個々に特定し、最適なタイミングで胚移植することで妊娠率を高めます。

EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)

子宮内膜の細菌環境が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定します。乳酸桿菌の比率に着目して分析します。

ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)

子宮内膜炎に関与する主な病原性細菌10 種の有無を調べ、陽性の場合は内膜炎の原因となっている細菌を特定します。

 

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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