PQQの基礎知識 不妊治療の新たな“光”に 卵子を酸化から守る成分

今、妊活中の方の間で話題の成分PQQ。
そこで、仙台ART クリニック副院長の小川誠司先生に、PQQとはどんな成分か、積極的に摂ったほうがいいのはどんな方かなどを教えていただきました。

仙台ARTクリニック 小川 誠司 先生 2004年名古屋市立大学医学部卒業。2014年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018年荻窪病院・虹クリニック、2019年那須赤十字病院産婦人科副部長を経て2020年仙台ARTクリニックに入職。副院長を務める。患者さん一人ひとりの思いや希望をていねいにヒアリングし、それに沿った治療を提案。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医

高い抗酸化力がPQQの大きな特長

PQQとは、正式名称ピロロキノリンキノンという物質のことで、約40年前に発見された成分です。もともと私たちの体の中にはさまざまな酵素が存在しており、それら酵素の働きによって生きていくために必要なものを代謝したり、摂取した食べ物を消化したり、その中から必要な栄養を吸収したりしています。PQQは、そういった酵素の働きをサポートする役割を担っている「補酵素」の一種です。もう少し詳しくいうと必須アミノ酸の一つであり、体の成長を促したり、集中力を高める働きをする「リジン」の代謝を助ける役割をしているといわれています。ちなみに巷でよく聞くビタミンB群も補酵素として作用します。

そしてPQQの大きな特長は、抗酸化作用です。また、体の細胞の中でエネルギーをつくるのはミトコンドリアという器官になりますが、そのミトコンドリアを活性化させる働きもあります。さらにミトコンドリア自体の数を増やす役割もあるのではないかといわれています。マウスを使った実験では、PQQの入っていない餌を与え続けると、肌がボロボロになる、成長スピードが鈍くなる、妊孕性が低下するなどの研究結果が報告されています。

抗酸化力で卵子の酸化を抑える

このPQQがもつ高い抗酸化力が、今、不妊治療に活かせるのではないかと考えられています。ヒトは加齢とともに酸化ストレスに対する抵抗力、すなわち抗酸化力が低下するため、だんだん老化していきます。女性の場合、その影響がどこに現れやすいかというと、卵子になります。卵子は、排卵するまで顆粒膜細胞という細胞に包まれ、その細胞に支えてもらいながら成熟していきます。その顆粒膜細胞の中にもミトコンドリアが存在し、顆粒膜細胞のエネルギーをつくってくれています。ただ、エネルギーを作るのと同時に、活性酸素も発生します。活性酸素が増加すると顆粒膜細胞の機能が低下し、支えている卵子の発育や質が低下していくと考えられます。すなわちPQQを積極的に摂取することで卵子を包む顆粒膜細胞のミトコンドリアの働きを促進し、より良い卵子、妊娠できる力をもつ卵子を多く育てられるのではないかと期待されているのです。

実際、マウスにPQQを投与し、排卵誘発をかけてみると、投与しなかった時と比べて成熟する卵子が増えた、排卵数も増加したという結果が報告されています。このように動物実験ではいくつか妊孕性が高まったという報告があるのですが、残念ながらまだヒトの不妊治療の分野でPQQの効果を実証したデータはありません。

十分な量を摂取するにはサプリメントの活用を

卵子の老化を抑える働きが期待されているPQQなので、妊活中の方ならぜひとも摂取したいという方も多いでしょう。もともと私たちの体内にも存在している成分で、食べ物ですと豆腐や納豆、パセリなどに含まれているといわれています。ただ食べ物だけで満足のいく量を摂取することは至難の業です。そこでサプリメントを活用し、効率よくPQQを摂取するのがいいでしょう。

妊活中の方ならどなたでも積極的に摂ったほうがいいと感じていますが、なかでも抗酸化力が低下してきている40歳以上の方、年齢が若くても採卵数が少ない方、採卵しても空胞が多い方やなかなか胚盤胞まで到達しない方などに、採卵の1カ月前から積極的に摂取するようおすすめしています。

また、男性にもぜひ摂っていただきたいと思っています。酸化ストレスの高い精子は顕微授精での受精率や、胚盤胞になる確率が低下するといわれています。こういった精子の質を、PQQをはじめとした各種サプリメントを飲むことで改善したという方もいらっしゃるので、気になる場合はぜひカップルで摂っていただけるといいのではないかと考えています。摂取する時間帯についても特に決まりがないので、ご自身が飲み忘れない時間を選んで摂るようにするといいでしょう。

バランスの良い食事と規則正しい生活習慣も大切

PQQをはじめとしたサプリメントの効果を発揮させるためには、バランスの良い食事と規則正しい生活習慣が大切です。今は、働きながら妊活をされている方が多いため、朝食を抜いたり、夕食が遅くなったり、いつも同じようなメニューになってしまう方もいるかもしれません。そういった方は、できるだけ3食の中でいろいろな食材を食べるように心がけるようにしましょう。

また、妊活や不妊治療を始めるのをきっかけに生活のリズムを整えてみるのもいいと思います。しばしば夜更かししてしまうという方は、朝、早く起きる習慣をつけるようにしてください。そうすることで、自然と夜になると眠くなり、生活のリズムが整ってきます。

今は、不妊治療にサプリメントを取り入れている先生も多くいらっしゃいます。さまざまなサプリメントの中からどの種類のものを飲んだらいいかわからない、いろいろなメーカーから出ているけれどどこのものを選んだらいいかわからないという方もいらっしゃると思います。そういった場合は、かかりつけの先生にぜひ相談してみてくださいね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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