低AMH、男性不妊など困難が続く中でも自分の生活を大切にしながら妊活も仕事も自分らしく頑張ります。
カナさんは妊活の真っ最中ですが、自身のキャリアも大切にしたいと考え昨年7月、キャリアコンサルタントとして独立。さらに資格を通じて出会った仲間と共に不妊治療と仕事の両立で悩む当事者同士が交流できるサイト「妊活キャリア」も立ち上げました。
流産は着床できた証と前向きにとらえて
カナさん(35歳)がショウさん(43歳)と結婚したのは2020年11月。子どものことは交際中から話していたため、すぐ妊活を開始しました。最初は自分たちでタイミングを取っていましたが、授かる気配がなかったので、カナさんは独身時代に通院していた産婦人科の先生に相談し、タイミングの取り方を指導してもらいました。
それでも妊娠できなかったので21年11月から不妊専門のクリニックへ。まずは人工授精を2回行いましたが、カナさんの低A M H、ショウさんの精子の運動率が悪かったため、22年1 月から体外受精へ切り替えました。
最初の採卵で10個採れ、そのうち正常卵が8つ、胚盤胞までいったのが4つで、一番良いものでも4CC以下でした。
「正直、この採卵の結果を聞いた時が一番しんどかった。体外受精にしたら良い結果が出るはずと期待していただけに、ショックが大きかったです」
それでも4月に行った胚盤胞移植で妊娠できました。
「7 週目後半で流産をしましたが、私も着床できる体なんだとわかって良かったと前向きにとらえました。それよりも流産の前に子宮外妊娠かもしれないとドクターに言われた時があって。胎囊が確認できるまでの1週間は生きた心地がしなかったです」
そんなカナさんを案じ、ショウさんは結果がわかるまでの間、ずっと在宅勤務にしてそばにいてくれたそうです。
その後、9月に2回目の採卵を行いました。採卵当日に排卵していたため、4個の採取にとどまり、その一つを胚盤胞に。
「これが4 A B とグレードが良かったんです。1回目の時はクロミッドRをひたすら飲んでいたのですが、実は体質に合わなくて頭痛など副反応があって。それで先生が2回目はPPOS法に切り替え、クロミッドRを減らし、デュファストンR、フェリングRを追加してくれました。それが良かったようです」
年末に移植予定でしたが、クリニック側から薬剤不足のため、延期が告げられ、現在待機中とのことです。「もどかしいですが、仕方ないですね」。
上司の理解が得られず、妊活と同時に退職
カナさんは妊活だけでなく、仕事でのキャリアアップにも力を入れています。
「7年ほど中小企業で労務管理や人事制度など人事の業務を経験。キャリアコンサルタントの資格を取得したのもあり、それを活かしてもっと専門的に活躍したいと考え、結婚数カ月前の20年3月に大手メーカーへ転職したんです。子育て支援の制度が充実している会社だったので、ここなら働きながら子育てもできそう! という期待もありました」
ところが21 年10月、不妊治療のため、不妊クリニックに通院したいと上司に申し出たところ、「今は忙しいから半年後にしてほしい」と言われてしまいます。「会社に理解があっても直属の上司に理解がないと両立は難しいと肌で感じました」。心が折れてしまったカナさんは退職することに。
「会社という組織に入るのが今度は怖くなり、半年ほど専業主婦をしていましたが、昨年7 月に一念発起し、フリーランスでキャリアコンサルタントとして活動することにしました」
副業サイトなどで人事の業務委託の仕事を探すところからスタート。そんな中で見つけたのが妊活関連のアプリを運営する「ninpath」と妊活当事者を支援する「ファミワン」でした。
「どちらにも今不妊治療を受けていること、また、キャリアコンサルタントの資格のことや退職理由などを添えて、仕事をさせてほしいとDMを送りました」
その甲斐あってninpathでは資格を生かしてオンラインでのキャリアカウンセリングを担当、ファミワンでは業務委託で人事制度設計を任せてもらうことができました。
「キャリアカウンセリングの仕事では、自分と同じように治療と仕事の狭間で悩んでいる人たちの話を聞くことが多いです。自分も当事者なのにつらくない?と言われたりしますが、それはないです。仕事は仕事、その人たちがちゃんと妊娠までこぎつけられるよう、何をしたらいいのか真剣に考えています」
資格を通じて出会った仲間と「妊活キャリア」の運営開始
さらにカナさんは昨年12月、妊活当事者のキャリア形成を支援するサイト「妊活キャリア」を妊活経験のあるキャリアコンサルタント仲間と共に立ち上げました。当事者同士の交流の場「#妊キャリ」に加えて、男性当事者のコミュニティの場「#メンズ妊キャリ」も始めました。今後は「妊活キャリア」を通して個別のキャリア相談や法人向けに制度投入支援などのサービスの展開も考えています。
「治療を始めた当初は卵のグレードが低いとか、うまくいかないことがあるたびに自分は欠陥品なのではないかとネガティブに考えがちでした。でも、こうして仕事を続けたり、自分にできる活動をしていると社会に貢献できていると思えるんです。自己肯定感も高まるので精神的にもラク。夫からも忙しいほうがイキイキしているねって言われます」
しんどい思いをしてまで会社に勤める必要はない。自分を大切にすることをまず第一に考えてほしい――。妊活を自身のキャリアを更新するきっかけととらえ、いかに自分らしく、満足度高く「働く」を続けるかが大切だとカナさんは思っています。ちなみに妊活は保険適用の6回を一つの区切りにしたいと考えているそう。「それまでは妊活も仕事も『妊活キャリア』の活動もすべてに力を注いでいくつもりです」。